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映画・演劇のレビュー

『傷だらけのふたり』

2016-02-03 21:09:57 | 映画
サラ金の取り立て屋をしているバカな男が、かわいそうな(でも、気が強い)ひとりの女に恋して、堅気になって、彼女のためにまともな生き方をしようとするが、当然のようにうまくいかず、死んでしまう、というお話。

なんだかなぁ、である。やくざな男が堅気の女性に恋して幸せな結婚を夢見る、なんていうとんでもなく古典的なお話がハッピーエンドになるはずもない。

これは韓国映画だから、成立するけど、今の日本映画ではもう不可能な設定だ。これを日本映画でするのなら、ちょうど先日見たばかりの『トイレのピエタ』のような作品になる。どちらも、主人公が不治の病で余命わずか、という展開で、死ぬ。これは昔よくあった悲恋物の典型的なパターンで、ふつうは美男美女が演じる。あるいは、アイドル映画の定番。でも、今時、あまりの陳腐さから、誰もこういうのはしない。だが、この映画は、そんなのをいけしゃしゃとやるのだ。『無法松の一生』とか、『男はつらいよ』の世界である。あるいは、『ある愛の詩』ね。(もちろん、前者のパターン)

取り立てて見どころのあるような映画ではないけど、2時間気持ちよく見せる。ラストは切ない。

映画の王道を行くような作品が最近は少なくなった気がする。みんな映画に夢を見なくなったからだ。夢のような世界は映画に実現できなくなった。それはなぜだろうか。世界から夢が失われてしまったのかもしれない。現実の世界で夢なんかなんでも実現可能になったからなのかもしれない。だが、果たしてそうなのか、と言われると、絶対にそうじゃないと、言える。世界から夢が無くなってしまったのだ。誰でも簡単にアイドルになれるような時代にアイドル映画なんか作る意味がない。アイドルが夢の世界ではなくなったとき、僕たちは一体何を夢見たらいいのだろうか。

そんなことを考えていた時、この臆面もない映画に出会った。美男美女の恋ではない。ファン・ジョンミンは醜男ではないけど、野卑で、下品な男がよく似合う。彼が恋するハン・ヘジンはきれいだけど、かわいいとか、美人だとか、そういうのではない。このなんとも言えないバランス感覚が見事だ。だから、ついつい乗せられる。これはある意味今の時代だから成立するラブストーリーなのかもしれない。


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