創立55周年を迎え、世代交代が進行する劇団未来の新作。しまひろみちが演出を担当するようになって、彼の試行錯誤を暖かく見守りながら、彼に自由を与え、様々なチャレンジをさせる。彼の迷走に付き合う。劇団の先輩たちが支える。こういう集団って、素晴らしい。そして今回、そこから確かな手応えの残る傑作をものにした。昨年の『その頬、熱線に焼かれ』も素晴らしかったが、今回は、もっと身の丈にあった作品(深い意味はない。ただ、「今の自分たち」の問題を扱う、という意味だ)で、さらりとしたタッチで、胸に沁みる。この軽やかさがすばらしい。3拍子そろった。
地方のスーパーマーケットのバックヤードが舞台となる。そこでの人間模様が描かれるのだが、来年の夏近隣にオープンする大型ショッピングセンターに怯え、自分たちが今、何をするべきかを思い、でも、日常の業務の中で、為す術もなく(反対運動とかも、難しい)過ごす日々のスケッチが描かれていく。1年後の夏までのお話だ。
限定された空間、限られたメンバーだけの会話劇。どんどん追い詰められていくわけだが、それをドラマチックには描かない。それをささいな出来事の積み重ねで見せていく。職場の人間関係、それぞれの想い。プライベートも仕事も含めて。流れゆく時の中で、彼らひとりひとりがゆっくりと変わっていく。
終盤のクーラーを取り付けるシーンが素晴らしい。この作品のラストとして、見事だ。(実はこの後に、もうワンエピソードあるけど)店長が自腹で、この家庭用クーラーを買ってきた。(例の大型ショッピングセンターで!)もしかしたら、この職場はなくなるかもしれないのに。(いや、この段階で閉店はわかっていたのかもしれない)ささやかな抵抗。でも、あの瞬間みんなが笑顔になった。彼らは負けてはいない。そんな想いが確かに伝わる。地域に密着して、ここで暮らす人たちの生活を守るという矜持。だが、そんなお題目には驕りはなかったか。誰が正しくて誰が間違っている、というふうに2分法では決められないものがそこにはある。
撤退していく彼らの姿が決して、さびしくはない。世の中にはどうしようもないことがある。個人の力ではどうにもならないこともある。だが、そこでうつむくのではなく、ちゃんと顔を上げよう。そんなメッセージがしっかり伝わってくる。