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映画・演劇のレビュー

劇団 乾杯 『街街』

2009-05-28 23:55:42 | 演劇
 この芝居自体が何かの『間違い』ではないのか、と思わせる。『街街』(まちがい、と読ませる)というふざけたタイトルがぴたりと嵌っている。ラストなんて唖然である。だって「この場所で公演をしてはならない」ということになったから、芝居も終わりますだなんて、本当なら納得いかないところだ。でも、収拾がつかなくなった芝居を無理から終わらせる、のではなく、いくらでも続けれる芝居を、きりがないから、このへんでやめてしまうって感じだ。

 前半は2人芝居。後半はどんどん人が増えていく。2人を含めてたくさんの人たちが入り乱れる。10分の休憩を挟んでの2部構成。ホラすれすれの冗談のようなお話がどんどん増殖していく。そして、いきなり断ち切るように終わっていく。悪夢のような芝居だ。どこまでが本当でどこからが嘘なのか、わからない。嘘と誠のいたちごっこ。作、演出は自称天才作家、山本握微。

 自費出版によって本を作ること。自分の小説が全国の書店に並ぶ、わけではないが、そんな夢を見て出版社に原稿を持ち込む人っているんだろうか?この芝居に出て来る文芸社って本当にあるのだろうか。当日パンフに文芸社の自費出版の案内が挟み込まれていたが、あれって手の込んだ冗談か? そんなことまで考えてしまうくらいの芝居である。ロケーションを十二分に使いきった実験劇スタイル。公演場所は安治川沿いにある倉庫FLOAT。うらぶれたロケーションが素晴らしい。おんぼろ倉庫をそのまま生かした大胆な作り方。シャッターを開けたまま、芝居は始まる。舞台を見ながらも倉庫のサイドは開いたままなので、そこを時々人々が通り行く。だいたいその屋外も使い芝居は進む。なんでもありなのだ。芝居の前半、最後のシーンでは、ケータイで実際にタクシーをこの倉庫に呼び、車を横付けして、2人は乗り込んで去っていくのだ。これにはあきれた。

 自費出版の編集者と彼が担当することになったまだ1行も小説を書いたことがない自称天才作家。彼女に原稿を書かすためにこの倉庫に缶詰にするのだが、彼女は全く何も書かない。彼女がこれから書くことになる凄い小説を巡ってのドタバタが描かれる。日本ペンクラブが送り込んできた忍者は、彼女に小説を書かさないように暗躍する。そんなことしなくても彼女は一切書く気がないのに。精神科医とその患者がやってくる。この患者はかってこの編集者によって精神を病んでしまったらしい。自費出版で何冊もの本を出版させられて、その借金のため家庭崩壊。今では自分を未来人だと思い込んでいる。この2人も巻き込んで、壮大なホラ話は展開する。まぁ、こんなストーリーを書いてもホントは仕方ない。きりがないからだ。しかも、そんなことしてもこのへんな芝居の本質は語れない。

 昨年初めて彼らの芝居を見た。その発想の面白さと、次から次へと溢れ出るイメージの洪水に圧倒された。今回も、ロケーションを見事に生かして、呆れるくらいにバカバカしい話を細部まで考え尽くして見せる。小道具のひとつひとつまで微に入り細に至るまで、痒いところにもちゃんと手が届くように出来ている。山本握微はやはり天才である。

 

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