ジョージ・クルーニー監督の新作である。今回も本人は出演しないで監督に専念している。主人公はひとりの少年。彼と母親の物語。少年が幼いころに父は出奔している。父親はフリーのDJで一切家庭なんか顧みず好き勝手して生きている。母は幼い息子を連れて実家に戻ってくるところから映画は始まる。だけど、悲惨な話でもない。悲壮感もない。とても明るい。でも、無邪気でノーテンキな明るさではない。映画のタイトル順ではベン・アフレックは一番に出る。スターだから当然だろう。彼は主人公の伯父さんだ。映画のタイトルにあるテンダー・バーを経営している。
ここで彼は育てられたというのは、言いすぎだけど、(だからこの日本版タイトルには違和感がある。シンプルに原題通り『テンダー・バー』でいいと思う)少年の心のふるさとは確かにここではあろう。初めてこの町にやってきた時から始まり、大学受験(イエール大学だ!)に向かう列車の中での時間とを交錯させて、やがて大人になった今へとつながる作者である作家の自伝ドラマだ。
甘い映画で、気持ちよく見ていられる。こんな映画をなぜジョージ・クルーニーが作ったのだろうか、とも思うけど、彼の中にある心象風景と重なるものがあったのではないか。これは感傷的で甘く切ない少年時代から大人になるまでの旅立ちのドラマだ。少年はJRと呼ばれる。ぐうたらでだらしない父親と同じ名前を嫌ってジュニアではなくJRで通す。だけど、父親を恨んでいるわけではない。どうしようもない父親には波も期待していない。幼いころは寂しかった。だけど、彼には伯父さんがいたし、祖父母(祖父はなんとクリストファー・ロイドだ!)や、もちろん母親がいた、そんな暖かい家族の包まれて暮らしてきた。しれにテンダー・バーにやってくる常連客であるお客さんたちは彼に優しい。幼いころからずっとそんな伯父さんの仲間に入れてもらっていた。だから、寂しくはない。
大学時代のエピソード(恋人とのことや友人たちとのこと)も含めて、派手なお話らしいお話はほとんどない。ささいなことだけ。誰にでもありそうなエピソードの連鎖で、少年時代から青年時代へ、そして作家として生きていこうとする今に至りまでがさらりと描かれていく。このさりがなさがいい。
最近、なんだかこの手の映画ばかり見ているな、と思う。でも、好きな映画だから、それでいい。