森島いずみ『まっすぐな地平線』
とっても大事なことが、平易な言葉で書かれてあり、はっとさせられた。これだから児童文学は侮れないのだ。(というか、最初から侮ってなんかないけど)
小学6年生の男の子が、中国からやってきた女性(ミンミン)と過ごす夏の数日間が描かれる。3年前、父の仕事についていき、北京でしばらく過ごした。そこで出会った日本語を勉強中の女性がミンミンだった。
彼女に教えられたこと。豊かさのなかで、人は何を失っていくのか。ここにいては見えない者が、外の国に行くことで見えてくる。北京と千葉、そして大阪。毎日の生活に追われて、大切なものを失って、心は殺伐として、安寧をなくす。突然彼女から手紙が届く。そこには明日、成田に着く、とある。3年ぶりで再会したふたりの過ごした夏の日々。やがて、少年は、まっすぐな地平線を見に行こうと思う。これは、そこまでのお話だ。
カメラマンの父は貧しくても輝いている子どもたちの姿をカメラに収める。なのに、自分の子供である少年の心を踏みにじる。そんな彼に耐えきれず別居する母、という図式のなかで、頑なな母親自身が心を壊していってしまったこと。だが、この小説はそんな両親の問題を深追いはしない。ただ、少年の視点だけを追いかける。そこから見えてきたものだけが提示される。
「悠介。この人たちの顔をよく見てください。いま中国にもこんなよい顔をしている人はなかなか見つかりません。日本ではもっと見つけることが大変かもしれませんね」と言うミンミンの一言が胸に突き刺さる。父の写真集の中で描かれたネパールの人たちの姿だ。僕たちに今、何が必要なのかそれをこの小説はちゃんと教えてくれる。