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映画・演劇のレビュー

期間限定Saccharin『楽屋』

2008-12-28 20:38:42 | 演劇
 関西を代表する4人の劇作家が舞台で競演する。清水邦夫さんの名作『楽屋』に彼女たちが女優としてチャレンジする。演出はA級MissingLinkの土橋淳志さん。今年最後の期待の芝居だった。だが、確かに面白かったし、期待を裏切らない作品なのだか、なんだか物足りない。実に上手くキャスティングがなされてあるし、全体のバランスがいいから危うい部分もなんとかクリアしている。4人の中では唯一役者経験がない芳崎さんを女優Cにしたのは大成功だ。彼女だけが生きていて今、悩みながらも舞台に出て行く。そんな彼女を取り巻いて3人の幽霊たちがいるという構図だが、なかたさんが一見自由に芝居をして、棚瀬さんと樋口さんの掛け合いが全体をリードする。それぞれのポジショニングがいいから、芝居は崩れない。だが、作品は無難にまとめられたが、演出家のねらいが見えない。

 土橋さんは優しすぎて、全体のバランスに気を取られすぎている。あくまでもまず彼女たち4人をいかに魅力的に見せるかが一番のポイントであることは認める。だが、芝居はまず演出家のものだ。演出家の顔が明確に見えない芝居はたとえよく出来ていてもなんだか物足りないものになる。彼はまず4人の役者たちが輝くように、それぞれの見せ場をしっかりと用意する。それは悪いことではない。だが、彼がこの芝居を通して何を見せようとしたのかが曖昧になっている。

 鏡のイメージをうまく使ったサカイヒロトさんの舞台美術はすばらしいが、この空間を通して土橋さんが見せようとしたものは何だったのだろうか。それが見えてこない。3人の幽霊たち。彼女たちの霊魂が永遠に宿り続けるこの楽屋をどう捉えたのか。中年に達した大女優が、舞台に出て行くまでの時間、そして彼女が戻ってきてそこで幽霊であるプロンプタ-の女と出会うこと。やがて彼女も、近い将来3人と同じように幽霊となるだろうこと。それってなんだろうか。

 台本にちりばめられたイメージを通して、彼がこの空間をどう捉えたのか、それがこの芝居の中で一番見たかった部分だ。きちんと台本をなぞるのではなく、どう彼が解釈し、きちんと「ゆがめて」くれるのか、それが楽しみだった。なのにあまりに素直な芝居になってしまって、なんだか残念だった。

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