『太陽の蓋』
なんとこんな映画がこの国では作られていたのだ。しかも、昨年の夏、ひっそりと公開されていた。それは、ちょうど『シン・ゴジラ』の公開時期と重なる。この2本は内容も(テーマと描き方、そのいずれも!)とてもよく似ている。なのに、あの映画は大ヒットしてこれはまるで話題にもならずに消えていく。世の中って残酷だ。
正直言おう。これは凄い映画だ。今の日本でこんな映画が作られたことが誇らしい。日本映画も棄てたもんじゃない。この素晴らしい映画をどうして評論家は無視したのか。ちゃんと、見ていないのなら、もうおまえら、評論家なんてやめろ。なんて、過激なことをいいたくなる。(自分も、今まで見ていなかったくせに)
これは東日本大震災、3・11を正面から描いた大作である。その日から5日間のドキュメントというスタイルを取るが、これが劇映画だ。群像劇だ。あの日、この国で何があったのか。政府と、福島第一原発、福島で暮らしていた人たち、東京で暮らす人々、さらには東電。
震災、津波、原発爆発。あのことを、その全貌を、忘れないために、作らなくてはならないという覚悟の元に、作り上げた壮大な叙事詩だ。政治家たちが実名で登場する。菅直人(三田村邦彦)が主人公である。彼が運命の5日間をどう生きたのかを描く。もちろん、群像劇だから、彼は主人公のひとりでしかない。総勢100名(当社推定)に及ぶメインキャストが最悪の事態と直面する。(そういうところも、『シン・ゴジラ』に似ている)
東電による隠蔽、政府が何も知らされないまま、対応に追われること。日本史上最大規模の災害に臨む内閣府を中心にして、福島原発の職員の戦い、被災地での混迷の中での戦い、ジャーナリストたちの対応、最悪の東電の上層部、様々な視点から映画は5日間を追いかける。
2時間10分緊張が持続する。最悪のシナリオを回避したのは、偶然でしかなかった、という衝撃の事実。僕たちはこんなにも危うい危機感の先で「今」を生きているということ。あれからまだ、6年(8ヶ月)しか経っていない、という当然のことを改めて思い出させてくれる。
2016年にこの映画は公開されたのだ。なんと、これはあれからたった5年で作られたということになる。どうしても、今作らなければならない、という使命感に燃えて作られた。だからこそ、僕たちは絶対に見なければならない映画だ。
スピンオフドラマが3本DVDには収められてある。それぞれが10分ほどの短編だが、本編では描ききれなかったことをちゃんと補足する。こちらも必見である。本編からカットされたラストシーンのエピソードもちゃんと収録されてある。だから全編で3時間に及ばんとする長尺だが、これでも足りないという作り手側の想いは伝わる。若い佐藤太監督(この映画で初めてその名を知った)が、この渾身の超大作を、こんなにも冷静な視線で作り上げたのも驚きだ。