このタイトルでリドリー・スコット監督作品。しかも、SF映画となると、期待しない人はいないだろう。SF映画史に残る金字塔である『エイリアン』『ブレードランナー』を作った彼が『2001年宇宙の旅』に挑むのか、と思わせるタイトルだが、もちろんそうではない。だが、お話自体ははそれに匹敵するような壮大なロマンだ。一昨年の『ゼログラフィティ』や、昨年の『インターステラー』に連なるパターンなのだが、それらの秀作を遥かに凌ぐ作品をみんなが期待している。だが、リドリーはそんな周囲のプレッシャーなんてものともせずに、マイペースの映画を作る。まぁ、彼はそんなこと、気にもしないのだろう。ただ、いつもと変わることのない次の映画としてこの1作に集中する。
火星にひとり置き去りにされた男がそこでまず生活し、地道な努力によってやがて地球と交信し、救出を待つ日々が描かれる。「火星ひとりぼっち」という極限状態を彼は実に冷静に受け止めて、着実に前進していく姿は感動的だ。あまりに穏やかで、(取り乱すことはない)不思議なくらい。でも、それくらいでなくては、この状況を打破できない。マット・デイモンが一人芝居で演じる。映画はひとりの彼と、それ以外の人たちのドラマ(地球の人たち、結果的に彼を置き去りにしてしまったクルーも含む)を交錯して描く。もっと、彼のドラマを前面に押し出すのかと思ったから、こんなにもたくさんの人たちによる群像劇であることに、驚く。思っていたような映画ではなく、感動のヒューマン・ドキュメントで、ここまでエンタメするリドリー・スコットは見たことがない。「70億が彼の帰りを待っている」という宣伝コピーそのままの映画で観客の満足度も高いはずだ。今、ダントツでナンバーワン・ヒットをしているのも当然のことだろう。今までのリドリー映画史上空前の大ヒット作になるはずだ。
だが、それはマニアにとっては、期待はずれ、という反応に繋がる可能性も大ではないか、とも思う。もっと、マニアックで、クールな映画を期待した向きには、もの足りないかもしれない。僕も、確かにいい映画だとは、思う。だが、そんな感想にならざるを得ない。
では、何がこの映画の問題なのか。それは明白だ。ここには、本来この題材が抱えるはずの恐怖や孤独、それがあまり前面に出ないのである。あまりにうまく事が運び過ぎる気がした。もちろん、そこに至る苦難は描かれはする。しかし、映画はそういうことも含めてなんだか美談に見える。確かに何一つ文句のつけどころのない映画だ。だからこそ、そこがもの足りないというのは、ないものねだりか。