ジャッキー・チェンはもうアクション映画から引退したのではなかったのか? なんていういらぬお世話は言わない。ジャッキーがやりたいと思う映画を作るのが今の彼にとって一番大事なことだ。すべてをやり尽くした。でも、それでも、まだまだやりたいことがある。それが困難で過酷であればあるほど燃える。そんなジャッキーが僕たちは大好きなのだ。60歳を超えてもなお、若々しいヒーローを演じる。しかも、それが痛々しくはない。さすが、ジャッキーと思える。どれだけやれば気が済むのか、とあきれるほどに、彼はかっこいい。僕たちはそんなジャッキーを応援する。
今回もそうだ。中国映画史上最高の製作費を投入して描く(そんなことがジャッキーだから可能なのだ!)空前の歴史大作。今時、この手の映画を誰も作らない。お金もかかるし、なかなか大ヒットは難しい。でも、彼は気にしない。やりたいことが、すべきこと。それだけなのだ。もちろん、本国では大ヒットした。よかったなぁ、と思う。だって、ローマ帝国と中国が戦い、勝つという話だ。中国人は大喜び。シルクロードの平和を守るジャッキー・チェン。陰謀に巻き込まれて、無実の罪で僻地に追いやられ、そこで、同じように陰謀に巻き込まれてローマを追われてきたジョン・キューザック演じる将軍と戦い、やがて、仲間になり、正義のためにすさまじい軍勢と少ない仲間で戦う。正しい行いをしていたなら、かならず報われる。敵と戦うのではなく、みんな仲よく暮らすことを望む。ローマとか中国とか関係ない。シルクロードで暮らすさまざまな部族が手に手を取って、巨大な帝国から平和を守る。こんなふうに書きながら、あまりの単純さに笑いがこみあげてくる。こんなストーリーの映画がこの21世紀に作られる奇跡に驚く。世の中はそんな単純なものではないことは、ジャッキーだって知っている。でも、大事なことって、なんだ? と考えた時、この映画に至る。『アラビアのロレンス』だって、もっと複雑だった。でも、構わない。
映画の冒頭の戦いのシーンを見て、もうジャッキーったら、と思わず、笑いがこみあげてきた。女の子相手に、砂漠の真ん中でタイマン勝負。久々に延々とアチャ、アチャやっている。昔、『酔拳』や『蛇拳』の頃は、これをいつまでもやっていた。相手は師匠であるおじいさんとかだったけど。もう40年くらい昔の話だ。変わらないなぁ、と思う。ラストで日本のファンに対するサービスとして恒例のNG集が付いているのもうれしい。こんなシリアス(一応)な映画なのに、そういうことだけは忘れない。そんな気配りはいらないのに、と思いつつも、彼の好意に甘える。
大川橋蔵が死ぬまで『銭形平次』をやっていたように、ジャッキーも最後までジャッキー・チェンをしていて欲しい。なんで、橋蔵!なのかというと、老人になった橋蔵がちゃんとメイクして鬘をつけたなら、若い頃のままの平次になっていたのを昔TVで見たことをたまたま思い出したからだ。あの橋蔵のように、この映画のジャッキーはメイクして、凛々しい眉を描いたら、若い女の子の奥さんや恋人(もちろん、浮気ではなく、一方的に惚れられる! 冒頭で戦う少数民族の戦士の女性)と寄り添っていても大丈夫になっていたのを、見て、さすが、と思ったからだ。
まぁ、そんなこんなのどうでもいいことはさておき、この大作映画が日本でちゃんと劇場公開されて、今でもジャッキーファンである少ない観客を集めてロードショーされていることを喜ぼう。