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映画・演劇のレビュー

大崎梢『空色の小鳥』

2017-09-24 15:36:50 | その他

 

あまりの面白さに本を読む手が止まらない。一気に最後まで読んでしまった。この後どうなるのかが気になり、仕事が手につかないほど。

 

天涯孤独の身になった就学前の6歳の少女と、彼女を引き取ることになる叔父。彼は義理の兄の残した娘と彼の妻のもとにいく。彼女は病気で生い先短い。兄のため、彼女の最期も看取り、娘を引き取る。独身でひとり暮らしの青年がいきなり6歳の女の子の父親になる。何から何まで、わからないことばかりだ。でも、周囲に助けられて、子育てをする。やがて、娘は4年生になる。

 

お話は単純な子育て物語ではない。彼を棄てた、義理の父親と、その親族への復讐劇のような展開にもなる。お話は、(最初からわかっていたことでもあるのだけれども、)思いもしない方向へと舵を切る。

 

ラストまで、先の読めない展開にドキドキする。でも、最終的には、一番いいところに収まっていく。瞬間的にはなんだか嫌な展開にもなるだけに、最終章を読んだときにはホッとした。大切なモノは、そこではない、とわかっていたから。大財閥の相続権を巡るいざこざなんていう、つまらないお話も絡んできて、ハラハラさせられる。大切なものはお金なんかでは買えない、なんていうありきたりなことを言いたいわけではないけど、ホッとする。そこまでには結構やばい展開もあるし。

 

それにしても、何から何までよく出来ている。こんなお話をよくぞまぁ、考えついたものだ。大崎梢は素晴らしいストーリーテラーだ。

 

まず、「疑似家族のお話」としてよくできている。まるで他人同士のはずの4人が同じ家で同居し、家族になっていく姿が微笑ましい。主人公の男と彼が引き取った子供。彼の恋人だった女に、彼の友人で心が女性の男。まるで一緒に暮らすはずもない4人が、仕方なく同居し、離れられない絆で結ばれていく。この小説の一番のポイントはそこに尽きる。

 

これは「血のつながりを巡るお話」なのだ。だからこそ、その結論は、「大事なことは血縁にはない」、という事実なのだ。相手を思い遣る気持ちが、関係を作っていく。複雑なお話が単純な結末へと見事に流れていく。330ページに及ぶ長編なのだが、その絶妙な展開と見事な結末は潔い。快哉を叫びたくなるエンディングだった。


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