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映画・演劇のレビュー

『夫婦フーフー日記』

2016-04-06 20:03:04 | 映画

 

『セーラー服と機関銃 卒業』を失敗させた前田弘二監督のその直前の一作。相米慎二の傑作があるのに、あの映画を受け入れ、その続編を映画化しようとしたその心意気は良しとしたい。ふつうはビビってそんな大胆なオファーは受けない。でも、怖いもの知らずの彼はどん、と受け止めた。そして、見事玉砕した。いいではないか。そんな失敗を僕は素晴らしいと思う。デビュー作『婚前特急』からどんな題材にもチャレンジしてきた彼らしい。そんな彼の昨年の作品がこれだ。

 

佐々木蔵之介と永作博美が夫婦を演じる。出逢ってから(だから最初はこのふたりが大学生を演じる! そんなコスプレないわぁ、と思うけど)なんと20年近くも経ち、ようやく結婚したのに、1年ちょっとで生まれたばかりの赤ちゃんを遺して妻が死ぬ。そんなことがありえるのが人生だ。受け入れなくては仕方ない。飄々と受け止め、生きていく佐々木蔵之介が素晴らしい。そこで、ご褒美として、なんと死んだ妻が彼の前にだけ姿を現す。もう、それって、うれしいというより、なんとかしてよ、という感じ。幻なんか見えても、うれしくないし。なんていう、リアリスト。でも、妻も負けていない。どんどん彼の生活に関与していく。全編こんなふたりの掛け合いで展開していく。

 

軽やかで、慎ましい映画。さらりとして、感動的。僕はこれはいいと思う。もちろん大した映画ではない。でも、ちゃんと身の程をわきまえた小品。見終えた時の爽やかさ。こんな映画として肩の力を抜いて『セーラー服と機関銃 卒業』も撮ればよかったのに、と思う。でも、あれは角川映画の金字塔に挑んだがためにやはり力が入りすぎたのだろう。バランスが崩れたのだ。若いって、いろんな意味でたいへんだ。

 

自分たちの今までを振り返りつつ、これから先の人生を生きていく覚悟をする。その時、妻は優しく去っていく。どこにでもあるようなお話なのだ。これは妻の死を受け入れるまでのドラマだ。出版関係の仕事をする主人公が子育て日記を書いたブログを出版することになる。彼はもともと作家志望で、自分の本を出すことが夢だった。それがこんな形で実現するのだが、それって果たして自分の望んだことなのか、と思う。そんなところに死んだ妻がやってきて、彼の書いた原稿にチェックを入れていく。なかなか手の込んだ設定なのだ。それが不自然ではない。夢と現実。そして未来。失ったものを悔やむのではなく、その先へと生きていこうとする。そんな姿が感動的だ。


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