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映画・演劇のレビュー

満月動物園『アッシュメロディー ~遺灰の歌~』

2014-03-04 20:43:17 | 演劇
 これが『ウタウタイノホネ』の再演だったなんて、後で気がついた。いつもの戒田竜治さんの作品だなと思いながらも、これって以前にも見たような気がするな、と。(だいたい最初は今回もシニガミが出てくるものと思っていたほどだ)チラシはほとんどちゃんと読まないからこうなる。もちろん、どの劇団のチラシでも、というわけではない。必ず見ることにしている劇団の場合には事前情報は一切いらないからだ。芝居が終わってから、(見るときには)見る。満月のチラシにはストーリーまで入っていてとても親切だ。もちろん、これは再演だからできることで、しかも事前に台本がちゃんとできていた証拠だろう。再演とはいえ、かなり大がかりな変更をしているようだ。

 以前の戒田さんの作品のテイストなのだが、死神シリーズを経て、明らかにエンタメ寄りの作りになった今の彼の方向論に則った作品になっている。それは、観客にやさしいだけではなく、劇団の方向性としても、好ましいことに思える。以前の独りよがりスレスレのラインでの観念的な作品の魅力と、死神シリーズで培った確実に伝えることは伝えるという(当然のことなのだが)職人としての仕事とを同時にこなしながら、作家としてのスタンスをちゃんと守り抜く作劇。それがバランスよくできている。もちろんもうベテランの域に達した作者にそんなことを言うのは失礼だろうけど、僕はそれがなんだかうれしい。

 ふたりの歌姫のお話だ。とある町で、偶然出会い、別れていく。すれ違って行く、というほうが正しいのかもしれない。それくらいに淡い邂逅である。石の町のクリーニング屋さんの2階でしばらく滞在する。パヤオは放浪する歌姫だ。戦地から戦地へと、父の面影を追いかけて。リンメは待ち続ける歌姫だ。幻の弟ニロと一緒に広場で歌う。この町にやってきて、しばらくの時を過ごして、去っていく旅人たち。何かを求めてさまよう。

 短いエピソードの羅列から、淡いままのストーリーを紡ぎだす。堅牢なストーリーラインのあるお話ではない。心象風景のようなお話だ。彼女たちの抱える痛みは、きっと誰の中にもある。この町で暮らす人たちもまた、旅人だ。内面を象徴する図書館司書と葉っぱ屋。現実の世界を彩るクリーニング屋の奥さんとクリエやヨナ、カムナ。その中間にいる甘いお菓子屋さん。別妙な人物配置のもと、静かなドラマは幕を開け、閉じる。全体を全編対比で構成して、そのきれいな構造の中でこのメルヘンの世界を描き切る。いつもながらの背景をなす映像世界とのコラボレーションも、作品世界を体現する衣装も、この作品をきちんと支え切る。2時間10分の長尺だが、心地よく見れる。


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