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映画・演劇のレビュー

瀬尾まいこ『卵の緒』

2007-10-25 23:29:33 | その他
 瀬尾まいこのデビュー作である。第2作の『図書館の神さま』以降の作品は、全てリアルタイムで読んでいるのに、この作品だけは、なぜか今まで読む機会に恵まれなかった。

 中篇2作が収められている。2作とも子供を主人公にして、ちょっとした児童文学の装いをしている。そんな中で、不完全な家族が、だからこそより強い絆で結ばれていく様が、とても優しくて力強いタッチで描かれていく。

 父親不在の(作者の実体験でもある、らしい)家庭の中で、母と息子と母の恋人が(『卵の緒』)、そして、母と娘と突然やって来た義理の弟が(『7’Sblood』)新しい家族を作っていく。不完全だからこそ、表面的な完璧な家族より、お互いを深いところで大切に思う。そんな姿が愛おしい。家族はそこにあるものではなく、そこに作っていくものなのだな、と思わされる。彼女の最高傑作『幸福な食卓』に繋がるあらゆる要素が、ここには既に、全て盛り込まれてある。

 ななこが、七生と夜の町をパジャマのまま散歩する場面が素敵だ。いつも見慣れたはずの風景が、まるで雰囲気を異にして、そこにある。どんどん歩いていく。深夜の人気のない道を旅する。母親の死、という事実を受け入れ、生きていく。その上、七生が彼の本当の母親に引き取られていく。ななこは、この後、たったひとりになるのだ。でも、2人の絆は切れたりしない。たとえ今後二度と会わなかったとしても、である。家族の絆は繋がったままだ。

 『卵の緒』は全く血のつながりのない3人が、ひとつの家族になる話。『7’blood』は血の繋がった3人がバラバラになっても、ひとつの家族としての記憶を抱きながら生きていく話。この2本はレコードのA面B面のようにセットで1本の作品になっている。

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