こんな小説はない。2ページくらいでひとつのエピソードが終わる。そこに登場する主人公は、それだけの一瞬だけで消えていく。いや、消えたわけではない。彼らの時間は続くけど、小説は次にはもう別の人物に視点を変えている。そんなふうにして100人くらいの断片が綴られていく。時々、以前出てきた人物が登場したりもする。彼や彼女の周囲の人のエピソードに顔を出したりもする。そこには特別なことはない。どちらかというと、どうでもいいようなお話が綴られていく。つながりがほとんどないし、短編と呼ぶにはあまりに短い。いくつものお話がただただ続くばかり。単調だし、だからなんなんだ、とも思う。でも、読みながらだんだん慣れてくる。癖になる。フラットなお話の連鎖が快感になる、とまではいかないけど、まぁ、悪くはないな、と思う。この江國香織の新刊を読みながら、彼女が何をそこから引き出そうとするのか、気になり最初はどんどん先を読み進めたのだが、しだいにそれもどうでもよくなってきた。
きっと最後までこんなふうにして続き、終わるのだろうと思う。今だけではなく、いろんな時代もあり、さまざまな場所もある。同じ場所が時代を経て同時に存在したりするときもある。でも、それはきっと幻だった、とも思う。因果関係はない。あるかもしれないけど、たまたまである可能性のほうが高い。それもそんなこと、どっちでもいい。生きている人だけではない。死んでいる人も出てくる。生きていることと死んでいることの間にはそれほど大きな差はないみたいだ。終盤にはたくさんの死者が出てくるけど、それもたまたま。意図的ではない。
いろんな人たちがいろんなところで、さまざまな局面に向き合い、進んだり、退いたり、立ち止まったりしている。確かにそこには自分や自分のよく知っている人、のような人たちもいる。こいつは今の俺ではないか、と思ったエピソードもあった。でも、だからといってそれに驚かない。だってこんなことはどこにでもある、と知っているからだ。
思った通り最後まで読んでも何もなかった。どうでもいいところで、ぷつんと終わる。それの安心している。でも、何に安心したんだろう。よくわからないけど、かまわない。不思議な小説だ。好き嫌いがるだろうし、ダメな人はさっさと読むのをやめるほうがいい。それ以上読んでも何の収穫もない。でも、小説を読むことはそこから何かを得ることではない、と思うのなら、大丈夫だろう。