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映画・演劇のレビュー

ブルーシャトルプロデュース『承久の乱』

2020-09-12 22:56:50 | 演劇

ブルーシャトルプロデュースの新作だ。このコロナ下での上演である。リスクは大きい。だけど、それでも上演を挙行する。あらゆる対策を講じた上での公演だ。当然のこととはいえ、ここまで安全面での配慮が必要なのである。いくつもの制約を乗り越えて、妥協することなく、リスクを反対に作品の力と変えていく。それでなくては、今やる意味はない。

歌とダンス、殺陣を縦横に駆使した華麗で激しいアクションを持ち味とするこの集団を生かす舞台は、この現状のなかでは、困難を極めることは必至だ。ソーシャルディスタンスに配慮し、自分たちの個性を生かしたステージを作るという至上命令をどうクリアするか。それも今回の課題だろう。そこから生まれる作品がただの我慢の産物では意味はない。今までにはなかった新しい表現を生み出すことがこの公演をする意味となる。

そんなこんなの課題を携えて、上演された。だが、正直言ってなんだかもどかしい作品だ。この作品の意図が伝わりきらない気がした。舞台上で演じられる武士の時代への過渡期の京都と鎌倉の抗争は、承久の乱に向けて加速する。お話は平家と源氏の争いから始まる壮大な歴史ロマンである。それが単調な印象を与えた。ドラマチックを敢えて封印した。舞台上に出ずっぱりで10人のキャストは並ぶ。正面を向いて椅子に座る。観客は、そんな彼らの姿を見ながら芝居を見ることになる。常にアクティングエリア背後にいる彼らはここに描かれる歴史の出来事を見守る眼だ。そこから何人かが順に舞台中央に移動し物語が展開していく。そこで展開する物語と、彼らが時代に翻弄される姿を描く、と同時にそれを見守る姿も見せるという構図だ。待機するだけなら舞台の両サイドでもよかったはずだ。だがそうはさせないのは、それが時代を見る群衆の視線でもあるからだ。

役者たちは立ち上がっていく。舞台上で演じられるドラマや歌、踊りにアクションが流れるように淀みなく展開していく。華麗で美しい。舞台奥スクリーンには字幕がほぼ全編流れる。和歌やナレーション、ときにはセリフもそこに綴られる。複雑な物語の補助となる。だが、実はそれが作品に集中できなくさせる原因にもなる。単調な印象を与える。いや、それは印象ではない。お話の展開はわかりやすいが、ドラマとしてのメリハリを欠くことにもなる。

配信による編集されたバージョンも見た。(ちゃんと見たのではなく、かなり端折って流して見たのだけど)実はこちらの方がわかりやすいし、ドラマチックだ。(そんな印象を持った。)実にうまく構成され編集されてある。当然アップを多用し、引きの絵と寄りの絵とがバランスよく配置されてありわかりやすい。その結果、役者の顔や表情がお話のメリハリを伝える。生の舞台より映像にしたもののほうがいい、だなんて、それでは本末転倒だろう。舞台を見たとき感じた距離感と単調さが拭い去られ、完璧に作られた世界が映像作品では提示出来た。承久の乱が起こる、というナレーションと、字幕による戦いの説明はもの足りないと思ったが、映像で見ると、その客観的な描写がこの作品の本質をよりよく伝えるように思えた。実に難しい。ライブ版は、そんなわかりやすさを拒否して、もっとその客観性を重視したはずなのだ。だが、そこがうまく機能していない。作品のねらいが舞台上では完全に伝えきれていない、ということになる。いつものように歴史のうねりに翻弄される人々の生きざまを描くのがテーマなのだが、それを演じる数人よりも見守る人数のほうが多いという構図、それをもっと前面に押し出して見せれたらよかったのだが、そこは伝わりきらない。

これは日本史のお勉強ではない。だけど、お勉強というスタンスを背景にして、それがどこにたどり着くのかというのも今回の挑戦になる。だが、ここも充分に伝わりきれない。淡々とした描写の中から、この群像劇の真実が伝わるといい。後鳥羽上皇がなぜこの戦いを選んだのか。無謀を承知で鎌倉に挑んだこと。配信版では、彼の心情がよく伝わってきた。その差はどこに起因するのだろうか。とても挑発的で、見事な作劇がなされてあることは承知の上で、このもどかしさは拭えない。

だが、この作品のねらいは、その客観性にある。淡々とした描写の中から、彼ら一人一人のドラマが歴史の大きなうねりの中に埋もれていく悲劇が伝わればよかった。敢えてドラマチックを避けたこと。そこから先に何を描こうとしたか、それがちゃんと伝わったなら、凄い作品になったかもしれない。この舞台の設定した構造がちゃんと機能したならよかったのだが、そうはいかなかったのが惜しい。だが、いつもの熱い芝居ではなく、このクールな作品が彼らの新しい可能性への第1歩になっていることは事実だろう。


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