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映画・演劇のレビュー

『闇の列車、光の旅』

2010-08-20 20:30:17 | 映画
 凄く期待していたからかもしれないが、なんだか物足りない。悪い映画ではない。だが、どっかで見た映画のパッチワークでしかない。オリジナルな世界観の提示はなされない。そのくせ描かれる風景はとても新鮮で、メキシコを縦断してアメリカまで、旅していく風景は今まで見たことがない景色を見せてくれる。監督は日系4世のキャリー・ジョージ・フクナガ。彼の長編デビュー作である。そう考えるとこの映画は凄い。まだ、若い作家が実際に不法入国のための旅を彼らと共に体験し、そこから作り上げた映画である。

 父と叔父、そして娘の3人が、ホンジュラスからグアテマラ経由でメキシコに入国しアメリカを目指す壮大なスケールのお話だ。そんな少女の話と、仲間を殺したギャング団の少年の逃避行のエピソードが重り、ひとつのドラマを形作る。列車の屋根の上に乗って、無賃乗車して北を目指し旅する人たち。彼らを取り締まる警察。少年を殺すため追う詰めるギャングたち。けっこうベタな展開で社会派映画というよりも、冒険譚と呼ぶべき展開だ。そこがちょっとがっかりさせられた理由なのかもしれない。なんとも甘口の青春映画なのだ。でも、そう割り切ったなら、これはこれで初々しい映画だとも言える。

 ドキュメンタリータッチで描かれるドラマは淡々としたタッチで悪くはないのだが、なんともワンパターンで話にも、なんの仕掛けもないから、見終えた時にはなんだかなぁ、と思ったが若い監督が社会問題を告発するのではなく、困難の中で希望を見出すための旅をするドラマだと割り切ればいい。それにしてもロケーションは凄い。列車がたくさんの無賃乗車の移民たちを乗せてゆっくり走っていく風景描写には圧倒される。同じ移民を扱った『エル・ノルテ 約束の地』のような重い映画と較べると、なんとも物足りないのだが、この初々しさは悪くない、ということにしておこう。


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