習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『さんかく』

2010-08-20 20:33:58 | 映画
 『机のなかみ』でロリコン映画、『純喫茶磯辺』で麻生久美子のコスプレと、もうこの人!本当にオタク監督全開って感じの吉田恵輔の第3作。相変わらず凄すぎる。今回もいつものように2部構成。(彼の映画は、前半と後半で2本立になっている)

 前半は15歳の少女、桃(小野恵令奈)の夏休みの冒険。田舎から姉が暮らす東京にやってきて1週間ほどを過ごすわがまま少女の物語。姉、佳代(田畑智子)は恋人、百瀬(高岡蒼甫)と同棲していて、いささか倦怠期の2人の間に入り小悪魔ぶりを発揮する。それにしても、この中学生には呆れる。まるで周囲のことを気にしない天然で、こんな奴がいたら、キモい、と思う。なのに、それがまた憎らしいくらいにかわいい、と思うバカ(百瀬)もいる。吉田監督が描く少女はいつも無邪気な振りが得意だ。わざとらしいのではなく、自然体で、歯ぎしりしたり、空気をわざとのように読まなかったり、ストーカー行為に走ったりと、最悪ぶりを発揮する。それをいつもかわいい女の子にやらせるから、たまらない。(まぁ、かわいくない女の子が演じたならそれもまた別の意味でたまらないが)彼女は散々大人をおもちゃにして、さっさと田舎に帰る。

 後半は、彼女が去ったあとのぎくしゃくする2人の恋人たちの話。売り言葉に買い言葉で、家を出ていく彼。ショックを受け、妹以上に過激なストーカー行為に走る彼女。映画は前半のほのぼのタッチ(一応)から一転して、過激なバトルに。窓ガラスに石が投げ込まれて血だらけになる部分は凄まじい。そこまで過激にならざる得ない彼女の傷みが心に沁みる。(だが、終盤で意外な事実が判明し、彼女が犯人ではないことがわかるのだが)

 ラストシーンが素晴らしい。ただ、たたずむだけの3人の姿を捉えたシーンである。3人に一切しゃべらさない。しゃべらないから、ものすごく多弁にお互いの心境が語られる。このシーンがかなり長い。思い切り引っ張ってくれて、スコンと終わらせる。さすがだ。

 佳代のストーカー行為に悩まされていた百瀬が、実は同じように彼女の妹の桃にストーカー行為をして、桃のボーイフレンドから、酷い目にあわされる、という展開が痛ましい。なんともだらしないし、なんだかとても惨め。結局2人は同じ穴のむじなでしかない。だいたい、妹の方も映画の最初の方で、中学の先輩にストーカー行為してたし。この3人はどうしようもない奴らだ。

 ダメダメ人間をここまで徹底して描く吉田恵輔はマゾっぽい。青春映画というパッケージングの中で、人間の愚かさをとことん突き詰めていく。一応は、ラブストーリーでもある。そして、何よりこれはこの夏一番の傑作映画である。封切りの最終日になんとか見れてよかった。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『闇の列車、光の旅』 | トップ | HPF閉幕セレモニー »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。