
高橋伴明監督が復活した。久々の新作である。2021年公開のこの作品に続いて昨年『夜明けまでバス停で』も高い評価を得ている。人生の最終ラウンドに入ったからやり残したくないのだろう。ピンク映画時代の作品はあまり見ていないけど、一般映画デビューの『TATTOO<刺青>あり』以降、ほぼすべての映画を見ている。『愛の新世界』『光の雨』『丘を越えて』2000年前後がキャリアのピークだったはずだ。2009年の『禅 ZEN』と2012年の『道 白磁の人』も好きだった。
今回在宅医療を描く。自宅で死ぬことが困難な時代になって、でも、だからこそ、家で死ぬという覚悟を実現する人たちとそれを支える家族、医療従事者の戦いが描かれる。柄本佑演じる青年医師を中心に彼が向き合う患者との交流だ。前半戦は下元史朗と娘、坂井真紀。自分の無力から彼をムダに死なせてしまう。敗戦。後半戦はその2年後。宇崎竜童と妻、大谷直子(なぜ、高橋恵子ではないのかなぁ)。リベンジの戦いだ。今度は無事勝利。スポーツものではないけど、なんだかこんな感じ。勝ち負けではないことは承知の上でそんな書き方がしたくなる。そして、なんとこれはこんな題材なのに爽やかな映画だった。ちゃんと死ねてよかったというハッピーエンド。見て元気の出る映画だったことに驚く。
『TATTOO<刺青>あり』からなんと40年ぶりに伴明映画に出た宇崎竜童の軽妙な演技が素晴らしい。最近彼はこの手の役ばかり演じている気がする。昨年の『アイアムまきもと』もそうだった。(というか、この2本だけか?)おもらしして、紙おむつで、死んでいく役をダンディに演じられるのは彼だからだろう。こんな惨めな姿を演じていてもなんだかすごくかっこいいのだ。70代になり、老いとか死とかと向き合う作品に出ていても彼は輝いている。映画の前半で苦しみながら死んでいく老人を演じた下元史朗の姿との対比は見事だ。伴明監督は主人公の医者柄本佑が接するこのふたりの姿を通して、死というものと戦うドラマとしてこの映画を立ち上げた。その姿勢が素晴らしい。