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映画・演劇のレビュー

『生きる LIVING』

2023-04-14 11:11:07 | 映画

これは言わずと知れた黒澤明の名作映画、そのリメイクだ。イギリス映画。第2次世界大戦後のロンドンを舞台にして、時代設定はオリジナルとほぼ同じの1953年。(当時の再現が見事)冒頭の当時のフィルムによる記録風景から、お話の世界へと自然と引き込まれる。まるで1953年の映画のように。2022年の映画なのにスーパークラシック。原作と同じスタンダードサイズの古典的映画。(さすがに、モノクロにはしなかったが)ラストにはちゃんと「THE END」と出る。(そんな映画、久しぶりに見た)

映画自体はさらりとしていて、テンポがいい。こんなにも重い話なのに、重くはならないで、淡々としたタッチで綴られていく。原作のエピソードをきちんと踏まえて描かれるのになんと上映時間は40分も短い1時間42分。脚本はカズオ・イシグロ。オリジナルへのリスペクトだけでなく冷静で的確な再編がなされている。その結果オリジナルに匹敵する(負けない)レベルの傑作に仕上がっている。
 
この2作品はいろんなところが双子のように似ているのに、まるでいろんなことが違う。主人公を演じたビル・ナイが素晴らしい。もちろん志村喬とはまるで違うアプローチをしている。同じ話をきちんと忠実になぞりながら、方向性はまるで違うのだ。余命半年と言われてショックを受けて、自分を見つめ直す。仕事をサボってやりたい放題するが、実はやりたいことはない。何をどうしたらいいかわからない。困惑するばかりだ。職場を放棄して無断欠勤を繰り返すけど空しいばかりだ。そのへんはオリジナル同様。彼の働く市役所の同僚(部下)で仕事を辞めた女性と町で再会し、そこからお話は急展開していくのだが、そこもオリジナルと同じ。
 
いきなりの葬儀から、彼が何をしたのかを遡り描いていく終盤の展開がいい。たぶんこれもオリジナル同様なのかもしれないが、忘れていたので、驚いた。最後の時間をどう生きるのか。彼の選択した生き方。それが残された人たちにどう伝わったのか。それらの問いかけが様々な側面から描かれる。このお話をただの美談にするのではなく、「自分に与えられた人生をどういきるべきなのか」を問いかけるという感動的な映画になっている。監督はオリヴァー・ハーマナス。初めて知る名前だ。堅実で的確。新作なのに出来た時からもう古典的名作映画。

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