こういうネタで長編作品を作り上げるところに大谷演劇の凄さを感じる。目のつけどころが素晴らしいだけでなく、それを踏まえてしっかり突き詰める。しかも軽やかなタッチで。高校演劇あるあるというショートコントになるようなネタにこだわり、感動的な友情物語に仕立てた。
バックステージものは、一歩間違えたら、自己満足のただの楽屋おちになる。だから冷静な判断と適切な描写が必要になる。つかこうへいの『蒲田行進曲』の例を引くまでもない。今回の大谷作品は、高校演劇部のコンクール公演舞台裏。ステージ袖や楽屋ではなく、技術スタッフブースという狭い空間から出ないで70分の作品に仕立てる。70分と上演時間というのは、コンクール作品の本番タイムリミットである60分と開演前の時間に連動する。『真昼の決闘』や『アウトランド』といった映画がやった試みを踏まえる。
本番1週間前の主役の離脱、さらには前日のふたりの技術スタッフ(音響の副部長と照明担当)の逃亡を受けて、絶体絶命で本番が始まる10分前からお話は本格的にスタートする。
笑って泣けて感動するという娯楽活劇の定番を描くエンタメ作品である。昨年のHPF作品とは切り口を変えて挑む。動きの制限がある狭い空間を敢えて設定したドタバタ騒動をこんなにも見事まとめ上げた手腕には恐れ入る。彼女たちは自由自在の極地を行く。
PS
これを書いてからパンフを見て驚いた。主役のひより役、吉定寿音は中3で、技術室の岡本の居内梨香子(凄い圧!)は中2らしい。中心になるふたりを高校生がサポートするという作品が高校演劇祭で上演されるって。さすがHPF。やりたい放題、なんでもあり。