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映画・演劇のレビュー

目黒条『カルトの島』

2008-04-24 21:37:02 | その他
 ある特殊な設定を作りその世界のルールのなかで、物語が綴られていく。8話からなる短編連作ではあるが、全てが驚くべきその世界観のもとで展開されていく。

 特定の宗教団体に帰属しなければ世界から排除されるというルール。しかも、女はエリート団体に入らないことには子供を産むことも出来ない。というか、極端な育児制限下で、子供を持つという行為が特別なものとなる。そんな世界で、生きている人々のそれぞれのドラマが描かれる。それらの短編を、そして彼らの現実を、目撃していくことを通してこの世界の曖昧な全体像が見えてくる、という構造である。各団体にはそれぞれのルールがある。力の強い、弱いが一人ひとりの状況を決定していく。

 これは独立した作品としても楽しめるように書かれてある。だが、最後まで読み終えたときのトータルなイメージが強烈である。最後の『ドリンク・ミー・ノット』は少し全体のまとめに入っていて、つまらないが、いずれの作品もまず、この設定を生かした上でのオリジナリティーが感じられるのがいい。設定に奉仕するのではなく、設定を生かしてこの世界だからこそ成立する物語を構築することに成功している。

 人間の欲望のあり方とか、豊かさや貧しさが人間をどう変えていくのかとか、いくつもの問題がこの作品には隠し味としてばら撒かれている。団体敷地外(ノーマンズランド)と各団体それぞれの内実。その一つ一つがとても興味深く描かれていく。世界の成り立ちとか、この世界をどうしようというのか、といったご大層なことは何も言わない。ただ、この状況の中で生きていこうとする人たちの、姿が誠実に描かれる。それだけで充分に面白い。

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