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映画・演劇のレビュー

Filng Fish Sausage Club 『Job』

2011-10-30 09:10:36 | 演劇
嵐の夜。誰もいない家でひとり。こんな日にひとりでいると、世の中から自分だけが取り残された気分になる。だから、彼は犬と話す。この犬が悪魔であり、やがて生まれてくる彼の子どもでもある、という設定だ。これは『旧約聖書』の「ヨブ記」を下敷きにした話らしい。でも、難しいことはわからないから気にしない。

主人公は、兄夫婦の住む実家に身を寄せている。というか、ここはもともと彼の家だ。だが、両親が死んでしまって、兄夫婦が暮らすと、そこは自分の場所なのに、自分の場所ではなくなる。年収100万ほどでは自立できない。だいたい家に食費とか入れてないから肩身は狭い。

その日、家には兄嫁がいない。だから、最初ひとりだった。その後、帰ってきた兄がおろおろしている。やがて、恋人が来る。さらには、近所の幼なじみが来る。急になんだか慌ただしいことになる。

 兄嫁が家出した。恋人が妊娠した。幼なじみまで妊娠した(これは彼のせいではない。彼女は自分の恋人と結婚するらしい)やがて兄嫁は帰ってくるが2人は離婚するようだ。彼はバイトを辞める。それは恋人との結婚を考えて正社員となり身を固めるためではない。まだ、何の決心もつかない。ただ、フラフラしているだけだ。

なんだかとても変な芝居だ。この話を通して何を描こうとしたのか、よくわからない。わかろうと思えば、すぐわかるのだけど、敢えてわからせようとしていない。それは演出の森本洋史さんのいつものやり方だ。演出は決めつけない。彼は何があっても、何も考えないように、そのままをさらりと見せる。その突き放したわけではないのだけど、方向性の見出しにくいタッチが、この作品を面白いものにしている。

 話を簡単な図式には収まらせない。ステファニーさんによる何もないのに、スタイリッシュで魅力的な舞台空間が効果的だ。この芝居に奥行きを与える。必要以上のものは一切排除した空間がこのなんでもないドラマを見事に象徴する。こんなにも単純なのに難しい。そこには彼らの歪んだ現実がさらりと提示される。

仕事を無くした男が、何もないここに佇んでいる。状況はきっとどんどん変わっていく。いつまでも受け身ではいられない。やがて何かがここから変わっていく(はずだ)。だが、この芝居は、その直前のまだ何も変わらない時間をさらりと見せつけるにとどめる。




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