こんな異常でマニアックなB級映画感覚のモンスター映画をこれだけの大作として作られたことは奇跡だ。これは新種のフランケン映画である。『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンのコンビが再び挑む作品。
まるで昔懐かしい大林宣彦監督の映画(『ハウス HOUSE』思わせる)を見ているような驚きビジュアル連続技。まずその映像世界に魅了される。モノクロからカラーへの移行もスムーズ。手作り感覚の温かみのある人工的な光景が目を楽しませてくれる。だが問題はお話のほうだ。こちらはビジュアル以上の驚きの展開。自殺した妊婦のお腹の中の赤ちゃんの脳味噌を母親である女の頭に移植して蘇らせる。体は大人だが頭脳は子供ってコナンの反対バージョン。
主人公のベラ(エマ・ストーン)はゴッドと呼び父親のように慕っている生みの親である博士の元から離れて世界を知るための冒険の旅に出る。ロンドンの屋敷から出たことがなかった彼女が詐欺師っぽい男と一緒に欧州大陸横断に旅立つのだ。最初に訪れたのはリスボン。さらに船の旅は続く。やがてパリの娼館ではさまざまな大人たちと交わる。
体は大人だけど心はまだ赤ちゃんのままの彼女が、冒険の旅に出て、いろんなことをそこで学んでいき、やがて貧困に憤り、さらにはセックスに溺れ、お家に帰って来て結婚式までのお話。普通ならそこでハッピーエンドなのだろうが、まだその先がある。まさかの元夫の式場乱入から最後には彼女の過去が明らかになり、元夫のところに戻って、とまだまだ続く。
だがこれは奇想天外の衝撃のファンタジーではない。この歪な話はファンタジーなんていう生易しい枠組みには到底収まりきらない。壮大なスケールで描かれる悪夢のようなファンタジー。明るくて楽しくて残酷。哀れなるものたちという括りで納められたのは主人公のベラとマッドならぬゴッド(ウィレム・デフォー)だけではない。