Gーフォレスタの最高傑作の再演である。3年前の初演時は、お話の面白さに引き込まれ、そこに描かれる江戸川乱歩像に魅了された。どこまでがほんとうでどこからがフィクションなのかなんて、どうでもいい。でも、実にリアルでここに描かれる乱歩という男こそが本当の彼ではないか、と思う始末だ。子供の頃に読んだ少年探偵団、20面相シリーズや、高校の頃に読んだ『一寸法師』や『芋虫』『陰獣』、そして『パノラマ島奇譚』。怖いけど、読んでしまう。あの頃の興奮がよみがえった。掴みどころのない男。謎の存在。ここに描かれた乱歩はきっと本物の乱歩以上に乱歩らしい。
さて、今回の再演である。お話はもう知っているから、そこには驚かない。でも、前回以上に丁寧に作られた完成度の高さに感心させられる。役者たちも自在にこの作品世界を闊歩している。乱歩という虚像に導かれ、乱歩を生きる彼ら一族とそのブレーンたち。みんなで江戸川乱歩という幻想を作り上げていく。その姿はとても生き生きしていて、見ていて楽しい。この嘘と実の境目にあるお話を楽しいでいる。そんな彼らに導かれて僕たち観客もこの作品世界に没入させられる。一応これは「伝記もの」なのだが、そこに描かれる虚実皮膜を楽しむ作品なのだ。ミステリでもある。ほんとうの乱歩を探せ。
「怪奇もの」ではなく、家族劇であるところも、この作品の面白いところだろう。みんなでなんとかして「江戸川乱歩」をでっちあげる(作り上げる)涙ぐましい努力が描かれる。前回見たときには、兄と弟の確執がもっと前面に押し出されていたように思ったが、今回はそこよりもこれがホームドラマだということのほうが気になった。要するにこれはそんなふうにいろんな見方ができる間口の広い作品なのだ。平井3兄弟のアンサンブルがすばらしい。序盤の古書店開業を巡るドタバタで一気に作品世界に引き込まれる。きっと何度見ても飽きない。