
こんなアニメ映画が作られた。最初はまるで見たいとは思わなかったけど、監督が山下敦弘(久野遙子と共同)で、脚本はいまおかしんじ。主演は森山未來。これが小さな子ども向けの甘いアニメ映画なわけはない。いろんな意味で、怖いもの見たさで劇場に行くと、なんとこれは21世紀の『となりのトトロ』だったのだ。驚きである。
確かに前半は少しかったるい。ダラダラした単調な話に眠くなってきた。これは失敗か、とも思うけど、我慢してやり過ごした。いや、我慢ではなく、何も考えず、見ていた。
主人公の小5の女子、かりんがなんか可愛げがないし、反抗的。3年前に母親を亡くし、だらしない父親とふたり暮らし。サラ金からの借金から逃げて、実家であるお寺に戻ってくるところから話は始まる。そこには言葉をしゃべる化け猫あんずちゃんがいた。
あんずちゃんはスクーターに乗り、寺の仕事をしながら、地域の人たちの手助けをしている。普通に人間世界に溶け込んでいる。周りは普通に彼を受け入れている。このユルさはいまおかしんじの世界だ。ユルユルな感じで、なんでもありで、特には何もない。
ようやくお話が動き出すのは地獄に行くところからだ。トイレから地獄に。そこはおどろおどろしいところではなく、なんか普通。だけどちゃんと赤鬼や青鬼とかがいて、みんな普通に働いている。釜茹でとか針の山とかもちゃんとあるみたい。そこで母は、なぜか清掃の仕事をしている。というか、なんで地獄? 母は天国じゃない。なんか問答無用でお話が展開していく。
この後もそう。あんずとかりんの関係もかなりドライでハードボイルド。単純な友情ものにはならないし。よくあるパターンから簡単に逸脱する。しかもさりげなく。脱力する展開が続く。これはとことんわけのわからない映画なのだ。だけどそれが気がつくといつの間にか心地よい。こんな不思議映画はなかなかない。いまおかのテキトーな台本を山下も適当にドライブしていく。だから暴走はしない。鈴木慶一の音楽と久野のアニメ、さらには森山未來の自然体。そんなすべてが一体となりこの映画を形作る。まさかの傑作である。