習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

オリゴ党『虫のなんたるか.。』

2007-01-22 22:34:02 | 演劇
 かって大学の研究室で一緒に過ごした男女。彼女はフィールド・ワークを大切に思い、虫たちと触れ合うことを喜びとする。彼はデスクワークを好み、研究室で資料と向き合うことが生きがいだと思う。彼らの恋愛は上手くいくはずがない。男は大学を離れ、女は大学に残る。この2人の話としてスタートして、真っ暗な洞窟の中で、新種の昆虫<メクラチビゴミムシ>を巡る物語が繰り広げられる。

 洞窟を舞台にした作品なので横に長い舞台を作らなくてはいけなくて、トリイ・ホールを斜めに使いアクティングエリアを設定した。そのため、客席は両サイドになったので向かい側の観客の顔が見えてしまう。だけどそれは演出上の効果でもなんでもなくて、そのアバウトさが岩橋くんらしい。思いついたことに対してそれをつめていく段階であまり深く考えないのだ。でもそこが彼のいいところだったりもする。詰めの甘さは彼の身上だったりする。

 今回も、恋愛をテーマにして芝居を作ろうと自分に課したのに、きちんと自分流の恋愛物語を作りきれてないまま話があらゆる方向に横滑りしていく。得意でないから、どうしても逃げ道を作り、それが洞窟の奥に隠された謎だったり、大学の研究室の人間関係とか(まぁそこから恋愛物語が生じるのだが)、彼らの研究テーマである虫のことだったりするのだが、あれもこれもとてんこ盛りになりすぎて、まとまりに欠ける芝居になってしまった。

 この村の人間関係とか、洞窟の秘密といった部分は、もう横溝正史の世界で、これはミステリーなのかと突っ込みを入れたくなるような展開となる。核の廃棄物の不法投棄とか、ちょっとつまらない話は辞めたほうがよかったのではないか。

 もう少し話を絞り込んで、説明もやめてしまったほうが、面白かったはず。時間軸を不明確にして、この芝居の原点となる時間がどこにあるのか、分からなくしたのは面白い。芝居の中で10年前と何度も言うが、基点となる今が描かれないから、5年後ゼミの学生たちと再びここにやってきた、という時間が現在のはずなのに、では、5年後というのはどこを基点にして5年なのかが、分からない。10年前から、5年後を起点にしてさらに5年後から見て10年前ということなのだろうが、その時間は芝居では描かれてない。さらには、この2度の来訪の後、もう1度教授が訪れたのはいつなのか、それも明確にされない。この洞窟が埋め立てられ全てが消えていく。そのことさえ分かればいいのだが。わざと芝居は時間を曖昧にして、この芝居全体が、ぼんやりした夢のように描かれるのは面白い。芝居は幻の昆虫を巡る幻のように儚い恋物語として構成されるべきだったのだ。(だからこそ、洞窟の謎は謎のままにしておいたほうがよかった。)

 恋愛話のほうも、学生たちまで間口を広げたりせずに、3組の男女の話だけで充分だったはず。学生たちの話が長いから全体のバランスを崩している。しかも、主人公である2人の話を中途半端なままにして、別の2人へとスライドさせて終わらせたのはどうかと思う。どうしてもそうしたいのなら、もう少し芝居としての手続きが必要だと思う。大人の2人から、少し若い2人へとどうつなげていくか。そこを虫を巡る物語としてうまく描きこむことにより、男の作った歌が彼女を通して若い2人に伝わるという部分も生きてくる。さらには虫の新種が失われていくのとシンクロするように女が消えていく、というドラマももっと生きてくるはずだ。

 幻のようなお話として、この恋愛物語全体が作れたなら傑作になったのに、それができていない。あれこれと手を広げすぎて、雑然とした芝居になったのはとても惜しい。

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2 コメント

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ありがとうございます (岩橋)
2007-01-22 23:38:55
ツメの甘い岩橋です~
こういうところでタネ明かしみたいなことをするのは言い訳じみていて好きではないのですが、少しだけ言い訳を(←おい)
言い訳ですんで、コメント反映は、ちょっと恥かしいです

今回のお話は、もちろん15周年企画ですので、15年間のお話になってます
現在を基点に、十年前と5年後です
これが、なかなか難しく作ってしまって、お客様の理解は、まあ半々、も行ってないという有様でした
とほほ
夢のように眠いお芝居でしたので、照明と若干の台詞での時間経過表現には皆さん苦労なさったようです(アンケートから読み取る限りでは。もちろん、否定的な方はアンケートなど書かないので、ずいぶん都合のよい解釈ですが)

核廃棄物の話も、その後のジャーナリストの本質暴露には必要かとも思って作ったのですが(もちろん、構想の段階で)、ちょっとクドかったかな、という感じも、あったかなあ
醜悪な正義を書くのに夢中になってしまった感もあります
謎の解明はあくまで経過で、その後の人間性暴露こそに力点を置きたかったんですが…

主人公たるべき若い二人の恋愛エピソードは、正直に「書けませんでした」
その分、他のカップルに力を分散させたのがかえって印象を散漫にしてしまったきらいもあります
まあ、中村大介君に頼りすぎましたね

向かい合わせの客席は、まあお客様はともかく、私にとって非常に苦しいものでした
常に観客の批判を突きつけられるというのは苦しいことなんですね
トリイホールには狭すぎる設定でした
アイホールくらいでなら、ありだったんでしょうが
いっそ紗幕でも吊って、客席を暗くする工夫などあったほうが良かったのかも知れません
明らかに集中を殺ぐ観劇状況の設定は、悔やんでも悔やみきれぬミスです
(蛇足な感想ですが、比較的若い観客には、向かい合わせ客席の評判は上々でした。自意識の問題もあるように思えました)

…とまあ、全部いいわけですので、軽く読み流していただけましたら幸いです
次回はまた精進し、より楽しんでいただけるような芝居を作りたいと思います
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岩橋さま (hirose)
2007-01-26 22:47:08
 ありがとうございました。いい芝居だったと思います。なんかいい加減なこと書いてすみません。印象から書き始めたらあんなふうになりました。たくさん書きたいことがあったんですが、肩が凝ってしまいあれでやめました。次回のAV物も楽しみです。
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