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舞台となるのは1980年代初頭のアイルランドの田舎村。そこで暮らす9歳の少女コット。これは彼女が過ごす特別な夏休みを描いた素敵な小品だ。スタンダードサイズの95分の小さな映画がこんなにも愛おしい。
彼女はほとんど喋らない。上手く話せない。学校の授業での本読みでもちゃんと読めない。自分を出せない。自信もない。彼女にはお姉ちゃんがふたりいるけど、大事にされていない。学校でもお家でも居場所はない。もう9歳になるのにまだオネショをする。
もうすぐお母さんが赤ちゃんを産むから、夏休みの間、親戚の家に預けられる。凄く心細い。親戚夫婦はとても優しい。だけどなかなか心を開けない。夫婦には子供がいない。実は男の子がいたのだが、事故(肥溜めに落ちて死んだ)で亡くしていることを知る。
こんなにも寡黙な映画はなかなかないだろう。誰も必要最小限しか喋らない。気持ちを伝えない。心を閉ざしたまるで時を過ごす。やがて、夏休みは何もないまま終わる。彼女は家に帰ることになる。
何も言わないけど、彼女は悲しい。ほんとうはずっとここにいたい。この夫婦の子どもになりたいけど、それは無理な話だ。
帰って来た家には生まれたばかりの赤ちゃんがいる。もちろんお姉ちゃんたちや弟も。そして両親も。みんないる。だけど寂しい。
ラストで走り出すシーンがいい。去っていく車を追いかけて。初めて彼女が自らの感情のままに行動する。こうして少女の9歳の夏は終わる。ここから彼女の新しい日々が始まる。