今回の中村ケンシさんの新作は「病院」が舞台となる。だが、当日配布のパンフにもあるように、そこは別に病院でなくてもいいというくらいのスタンス。たまたま病院にしただけで、描きたいのは普遍。まず『雨の壜』というタイトルが先にあった。ここには「雨」と「日」と「曇り」がある、と中村さんはそこに書く。人と人とが出会い、言葉を交わす。日常のありふれた光景。描こうとするのはそれを切り取ることだ。必要なのはお話では . . . 本文を読む
現役医師が書いた小説というと、夏川草介の『神様のカルテ』シリーズがすぐ思い浮かぶが、これもまたそんな小説。簡潔な描写だがとてもリアルだ。でも、これは医者を主人公にしたのではなく、病院にいる患者の娘が主人公だ。そして、生まれたところから母を失った女性のお話。出産時に母親が脳出血を起こし植物状態になる。それから26年、死ぬまで眠ったままの母親をずっと見舞い続ける娘の話。葬儀から始まり、遡って、幼い日か . . . 本文を読む
著者の木下忍は木下恵介の娘さん。ただし養子。木下恵介は結婚をしてないし、だから子どもはいない。兄の娘と息子を養子として引き受けた。だが数年で手放した。これは木下恵介とその家族を描く記録だ。一番の身内だが、距離を置く。客観的に見て描く。彼と彼女には42年の空白がある。もちろん木下恵介と忍には、である。彼女が冷静にかつての養父を描く。あの日本映画史に燦然と輝く巨匠のひとりの人間としての側面を身内のゴシ . . . 本文を読む
3時間9分の大作である。ブラッド・ピットが主演する。これだけの圧倒的な映画なのに劇場には観客がいない。封切1週目の平日の朝だったからかもしれないけど10人に満たない。2週目からは朝とレイトの1日2回上映になるから慌てて見に行ったのだが。毎週いい映画がたくさん公開されているがすぐに上映は終わり消えていく。なんだか虚しくて悲しくなる。観客の僕でさえこうなんだから作り手の嘆きはいかほどか。
それにして . . . 本文を読む
これはチャン・イーモウの新作だ。最近矢継ぎ早に新作が公開されている気がする。これは昨年の『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』とはまるでタッチの違う映画だ。いろんな映画を作っている。だけど、なんだかいつも本当にこれが彼の求めているものなのか、という気がする。今回はなんとスパイアクションである。『ミッション・インポッシブル』のようなストレートな娯楽大活劇映画ではないけど、派手なカースタントもあるし、 . . . 本文を読む
『明日につづくリズム』は2009年作品だ。当時の課題図書(中学生の部)にも選ばれたらしい。因島を舞台にした2人の中3女子のお話。それは相変わらずの八束澄子世界だ。ここには何も起きない。だからお話らしいお話はない。まぁ、年の離れた弟(彼は施設から引き取った養子)との確執はある。高校受験もある。悩み多き年頃だ。でも、そんなのは誰もが同じ。彼女だけではない。火事が起きたり、2人の大好きなポルノグラフィテ . . . 本文を読む
1988年、初夏。27歳。シナリオの執筆を依頼される。そこからこのお話は始まる。そして4つの物語が描かれる。まずは70年代、京都。ロシナンテという喫茶店に入り浸っていた。小学6年から高校生の頃。多感な時期。自分の人生に大きな影響を与えた。そこで出会った人たち。彼にとっては大学生を中心とした大人たち。「フリーセックス」を旗印にしたそんな大人たちに踊らされた10代の頃。
第2章は2019年。もうすぐ . . . 本文を読む
仕事を2ヶ月休んだ26歳の女性が主人公。しんどくなって、働けなくなる。職場でのパワハラから休職した。自分が、ではなく、同僚の受けたパワハラを告発してその結果自分が傷ついた。なんとも理不尽。休んだけど、何もすることがない。ひと月経つ。何も自分は悪いことはしてないのに、仕事に行かず休んでいるというだけで世間に対して、罪悪感を感じるばかりの日々。
だから海に来た。そして、時計を落とした。まるで中原中也 . . . 本文を読む
まるでドキュメンタリー映画を見てるようなさりげなさ。でも主人公は鈴木亮平だし、彼がゲイで、売れっ子の雑誌編集者をしてるし。(演じているし) 冒頭はそんな彼の昼間の仕事の風景、夜のゲイ仲間との飲み会が描かれる。そこでの会話もさりげない。ある日、新しいパーソナル・トレーナーの青年に会う。宮沢氷魚。彼からトレーニングを受ける。心地よい汗をかく。
これはそんなふたりのラブストーリーだ。これが男女間ならあ . . . 本文を読む
これは最悪だ。ツッコミどころ満載のヘボ映画。前作『恋のいばら』で見直した城定秀夫だが、これで見放す。こんな自主映画もどきの緩い映画を一応商業映画として作っていいのか。観客動員なんて考えないのか? 映画への愛とか、うさん臭いことはさすがに言わないけど、それにしてもこれは中途半端すぎる。こんなミニシアターは経営不可能。ファンタジーだと思って見たらいいのかもしれないが、なんかそこも中途半端。だから映画に . . . 本文を読む
フィンランドからの留学生が女の子が主人公。モスクワにいる。世界最北端まで恋人(友だち以上)と旅するはずだったけど、彼女に用事(男の恋人?)ができてキャンセルされた。だからひとり旅。時代は今からかなり前みたいだ。90年代くらいか。(ケータイもないし、カセットテープ、ハンディカムの時代)寝台列車での長い旅が始まる。まるで快適ではない。同じコンパートメントには粗野な男。酒を飲んで話しかけてくる。うざい。 . . . 本文を読む
『「Hey! Say! JUMP」の中島裕翔6年ぶりの主演映画』なんて感じで紹介には書かれてあるけど、僕にはこれはまず『熊切和嘉監督の6年ぶりとなる新作映画』なのだ。期待しないわけにはいくまい。調べてみるとなんと『武曲』以来となるようだ。
それにしてもよくもまぁ、こんな映画が作られたものだ。これはほぼ一人芝居である。しかも舞台となる場所も、ほぼマンホールの中だけ。この限定された暗い空間でたったひ . . . 本文を読む
こんな地味な映画がミニシアター系ではなくロードショー公開されるなんてうれしい。だけど、やはり残念ながら集客は難しいようだ。公開3日目の日曜日なのに朝一番とはいえ6人しか客はいない。ここではこの回を見逃すと夜まで上映はないのに、である。まるで期待されてないのだろうけど公開1週目でこの扱いは惨い。もちろん映画は傑作だ。
登場人物はほぼ4人のみ。なのに、その主人公である彼らが登場するまでの描写にまで、 . . . 本文を読む
伊藤俊也監督の久々の新作。2020年12月公開作品。かなりの大作映画だけど、絶対今の時代ヒットしない映画だ。しかも往年の『二百三高地』や『大日本帝国』のような映画にして作るのならともかく、こんなタイプの映画に仕上げたなら、観客動員は望めない。そんなことわかりきったうえで、あえてこれをこの形で(必死の想いで)映画にしたのだろう。伊藤監督としてはあの東条英機を描いた『プライド 運命の瞬間』の続編として . . . 本文を読む
なんとオカモト國ヒコの舞台の映画化だ。もちろん僕はあの芝居を見ている。あれはテノヒラサイズの異色作である。見たとき驚いた。まるでふだんのテノヒラサイズじゃない。彼がこんな暗くて重い話を芝居でするのか、という驚き、そして衝撃。過激な内容を茶化すのではなくシリアスに見せていく傑作である。
でも、あれから10年。なぜ今頃、しかも映画化なんて、とびっくりした。先日のiaku『あつい胸さわぎ』の映画化にも . . . 本文を読む