北イタリアのポー河沿いに続く街道をエミリア街道と云う。別名美食街道とも云い、ポー河がもたらす肥沃な土地が野菜や穀物を育て、酪農が行われ、アルプスから吹き下ろす風が食品の熟成を促し、ハムやチーズやワインが生まれる。
その街道の一端にある都市がボローニャである。ボローニャにはエミリア街道によってもたらされた食材から作られた名物料理がある。野菜と挽肉をワインとトマトでじっくりと煮込んだ料理、ボロネーゼである。日本ではミートソースとも呼ばれる。
ボロネーゼとは、ボローニャ人と云う意味だ。ボロネーゼはボローニャ人の自慢料理なのである。
今、美食街道は延長され、豊四季のクアトロでも本格的ボロネーゼを食べられる。今日もじっくりとボロネーゼの煮込みをしている。今晩あたりは、出来たてのボロネーゼを堪能していただけるであろう。
特注で作る、本場風ボロネーゼのタリアテッレもおすすめである。
クアトロのボロネーゼは、トヨシキダーゼ(豊四季人)のお気に入りなのだ。
後期高齢探偵団は、マカロニの穴はどうやって出来るのだろうかという謎に突き当たってしまい先に進めない。
クアトロの父もマカロニの穴は大いに疑問なので調べてみた。パスタの絞り口の口金の真ん中に棒があるから穴の開いたマカロニが出来る。しかし、その穴を作る棒は何が支えるかというのが最大の謎である。その棒は、三本の細い棒で支えられているという。高圧で押し出されたパスタは、その細い三本の棒を乗り越えるとくっつくので穴の開いたマカロニが出来るという。この機械は百年も前にナポリで開発されているという。しかし、自分の目で確かめていないので完全に疑問は晴れていない。
後期高齢探偵団に限らず、年寄りはものごとの原理を追い求めるものである。
クアトロの父も細かいことにこだわりやすい。
今日もある疑問に突き当たった。
クアトロ・シェフが仕込んだ真鱈の昆布締めを味見する。“純米吟醸・生詰・ふなしぼり・渡舟”がよく合う。それでは日本酒なら何でも良いのだろうか。
ここからが、年寄りがかかりやすい病気の始まりだ。
日本酒にも種類がある。
吟醸酒、純米酒、本醸造酒、普通酒
さらに生酒だけでも、生生、生詰、生貯蔵
そして原酒、日本酒度、酸度などなどの日本酒用の表示
どれがどうからんだから、真鱈の昆布締めと適合したのだろう。
ちなみに、先の“純米吟醸・生詰・ふなしぼり・渡舟”は、アルコール分15~16・日本酒度+2・酸度1.5・原料米/茨城県新治郡八郷町産「渡船」50%精白である。
食べて飲んで美味しかったからそれで良いことなのだが、年寄りは困ったものである。
ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団
「怪人二十面相、もう逃げられないぞ」
ぼくら、少年探偵団が活躍した時代もいつしか遠くに過ぎた。
ぼ、ぼ、ぼくらは後期高齢探偵団
いつしか、ぼくらは後期高齢になってしまったが、今だ謎の究明に夢中になっている。
「快食二十麺相、食べ尽くしてやるぞ」
ぼくら、後期高齢探偵団は、色々な形のパスタを食べ尽くそうとしている。
小麦粉と水を混ぜて作られたものがパスタだという。
しかし、そのパスタの形は変幻自在なのだ。
クアトロに残されたイタリアのパスタマップを手がかりに色々な形のパスタに挑む。
まずは、クアトロで使っているパスタに挑む。
パスタの代表格、長い縄という意味のスパゲッティ。
小さい舌という意味のリングィネ。
ペン先の形のペンネ。
手打ちパスタでは板状のラザニア。
その板状のラザニアを丸く筒にしたカネロニ。
超幅広パスタのパッパルデッレ。
きしめんのようなタリアテッレ。
少年探偵団に憧れていたクアトロの父のおすすめは、パッパルデッレだ。
そして、ぼ、ぼ、ぼくら後期高齢探偵団はパスタの最大の謎に突き当たる。
どうやったらマカロニの穴は出来るのだろう。
高齢者は細かいことに囚われるのだ。
がんばれ、後期高齢探偵団。
マカロニでつまずいていると二十麺相を制覇できないぞ。
クアトロのキッチンに巨大な真鱈が現れた。
それは遠く常磐の海からやってきたのだった。
クアトロが厳戒態勢を敷く中、その真鱈の腹からは何とも立派な白子が取り出された。
クアトロは、その白子を美味しくいただくための対策チームを組むことになる。
合わせるお酒を選ぶのはクアトロの父であった。
クアトロの父は、痛風の危険を冒してその白子を試してみる。
ねっとりと絡みつく白子の旨み、その後からポン酢の爽やかな酸味と風味が立ち上る。
これはとうてい白ワインでは対抗出来るものではなかった。
クアトロの父が選んだ酒は、先日仕入れた吟醸酒“渡舟ふなしぼり”だった。
まだ、白子の余韻の残る喉元にこの酒を流し込んでみる。
旨い!
絶妙だ!
その時、地球は静止したかと思われるのだった。
今晩クアトロで、思わず箸を持つ手が静止する美味しさを体験出来る。
タラの白子と“渡舟ふなしぼり”のマリアージュなのだ。
事件は豊四季という町の奇妙なイタリアン「クアトロ・スタジオーネ」で起きた。その日は、冷たい雨が朝からしとしとと降っていた。
ランチタイムにクアトロのパスタを堪能したお客様は、締めくくりのデザートも楽しみにしていた。何せランチタイムはデザートの盛り合わせを300円で食べられる。何組かのお客様がそのデザートを注文した。
事件は、そのデザートの皿の上で起きた。
デザートには、クアトロのママの手作りの“ティラミス”とそれに対抗するかのようにクアトロの父手作りの“チーズケーキ”が並んでいる。そして、今日は赤く熟したイチゴが添えられている。そのイチゴを口にしたお客様は一様に驚愕を覚えたのだった。
このイチゴは何なのだ。甘い、とても甘い、しかし甘いだけでなくしっかりとした酸味もありとてもジューシーだ。
イチゴはデザートの飾りに使われるものだと思っていたお客様たちは、そのイチゴの美味しさの謎に取り憑かれるのであった。
この捜査に助言を求められたガリレオは、難なくその謎をひもとくのであった。
「このイチゴは、昨日クアトロの夫婦が筑波山の麓にある八郷のイチゴ園で完熟のものを購入してきたから美味しいのだ、たいした問題ではないのだ」
「しかし、まてよ」
「そのイチゴはデザートの盛り合わせの上に乗っていたというが・・・」
ガリレオはある疑問を抱いた。
「そもそも、イチゴは果物なのか、果物ならばデザートとして出されておかしくないのだが、果物とは木になった果実を云うのだろう」
「イチゴは草の実なのだから野菜ではないのか、そうだメロンもスイカも野菜じゃないか」
クアトロ夫婦が献身的に遠く筑波山を越えて仕入れてきたイチゴは、果実を不正に名乗る容疑者となったのだった。
果実か野菜かの容疑が晴れないイチゴではあるが、今日明日ならば美味しい八郷の完熟イチゴをクアトロで堪能できる。