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ダガンダガンは何故蒔かれたか 高田敏子
ダガンダガンは何故蒔かれたか
ダガンダガンは何故茂ったか
ネムに似たその木は
私のめぐった南方の島々に茂り
熱帯樹の間を埋めて
丘にも平地にも バスの走る国道の両側にも
茂りに茂り 地をおおい
枝に垂れ下がる実を割ると
黒褐色の種がこぼれた
艶やかな黒褐色の種を手のひらに遊ばせながら 木の名を尋ねる私に
「ダガンダガン」と 裸の土民は答え
彼もまた腕をのばして頭上の枝から種をとり
手のひらにこぼして見せた
──この種は戦争が終るとすぐ
米軍の飛行機が空から蒔いた
島全体に 蒔いていった
土民は種を手のひらから払い落すと
空いっぱいに両手をひろげて説明した
ダガンダガンは何故蒔かれたか
ダガンダガンは何故茂ったか
ダガンダガンの種は首飾りや花びん敷になって
土産物屋に売られている
1ドル50セントの首飾りを二十本も求めたのは
この島サイパンで兄一家を失い 慰霊のために訪れたと語る中年の
夫婦だった
テニヤン ヤップ ロタ
どの島々にもダガンダガンは茂りに 茂り 地をおおい
島の旅から帰って二カ月ほど過ぎた日
硫黄島に戦友の遺骨収集に行った元工兵の記事が目にとまった
──島はギンネムのジャングルにおおわれ 昔の地形を思い出すのに
困難をきわめた。山刀でギンネムのジャングルを切り倒しながら進
み ようようにしてかつての我々の壕を発見し 目的を果たすことが
できた。これは全く死者の霊に導かれたと思うほかはない──
このギンネムとはダガンダガンに違いない
ダガンダガンは何故蒔かれたか
ダガンダガンは何故茂ったか
南の島々に蒔かれた種が 急速に成長し
茂り 隠したものの姿が 突然に私の目に浮かんだ
ダガンダガンは何故蒔かれたか
首飾りを求めた夫婦はそれについて何んの疑問も持たなかった
ダガンダガンの首飾りは若い娘の胸にゆれて
どこかの町を歩いているだろう
ダガンダガンは何故茂ったか
(詩集『砂漠のロバ』から)
先日平和展を見てきた。
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テニアンで撮影したダガンダガン(ギンネム)の写真と
高田敏子さんの詩がここで重なった。