りきる徒然草。

のんびり。ゆっくり。
「なるようになるさ」で生きてる男の徒然日記。

バスルームから愛をこめて〈3〉 〜佐々木ヨシエさん〜

2018-11-24 | 短編小説


最近。
 娘と一緒に風呂に入る事は、皆無になった。だから、風呂は息子と二人きりで一緒に入っている。 

 ある日。 
息 子「どうして、お姉ちゃん、一緒に入らないの?」 
ワタシ「さぁ・・・恥ずかしいんだろうな」 
息 子「何が?」 
ワタシ「何がって・・・一緒に入るのがだよ」 
息 子「何で一緒に入るのが恥ずかしいの?」 
ワタシ「う〜ん・・・裸になるのが恥ずかしいのかもしれないな」 
息 子「何で?だって、お姉ちゃん、おチンチンないじゃん」 
ワタシ「いや・・・おチンチンがあるとかないとかじゃないんだよ」 
息 子「おチンチンがないのに、何で恥ずかしいのかな」

 子どもっていう生き物はどうして・・・・。
 しかし、ここで調子にのってコイツの言動にノッてはいけない。 例えば、ここでバカ正直にワタシが・・・ 
「それはな、女の子はおチンチンの代わりに・・・」 
・・・なんて答えようものなら、先に上がった息子が妻に風呂での話を事細かく喋ってしまい、何も知らずに風呂から上がったワタシには、脱衣場で地獄が待っている。 
「とにかく、お姉ちゃんは一人で入るからいいんだよ!」 
 ワタシは強引にこの話を、止めた。その後、しばらくの間、バスタブに無言の空気が流れる。しかし、その空気を破ったのも、息子だった。 

息 子「ねぇ、お父さん」 
ワタシ「あ?」 
息 子「前から気になってたんだけど、アレ、何?」 
 息子はそう言って、バスタブの前方を指さした。息子の指の先には、壁に付けられた給湯器のリモコンがあった。 
ワタシ「何って、お前、あれでお湯を沸かしてるんだよ。最初から付いてただろ」 
息 子「いや、そうじゃなくて・・・あの機械、喋るでしょう?アレ、誰?」 
 何度も書くが、まったく、子どもって・・・。どうして、こうもニッチェ的な疑問を真正面からストレートに大人にぶつけてくるのだろう?しかも、仕事や色んなことで疲れている時に限って・・・。 
ワタシ「それはな、あれはコンピュータで作られていて、ボタンを押したらその声が出るようにインプットされていて・・・」 
 ・・・という感じで、子どもにも分かるように説明する気力は、もう僕の中にはほとんどなかった。 
ワタシ「お前の通ってる幼稚園のすぐ近くに散髪屋があるだろ?」 
息 子「うん」 
ワタシ「あの散髪屋の裏に佐々木さんていう家があってな。そこのオバさんが喋ってくれてるんだよ」 
息 子「え〜〜?ウソだぁ〜!?」 
ワタシ「ホントだって。佐々木ヨシエさんっていうオバさん」 
息 子「ホントにぃ〜?」 
ワタシ「ああ。今年五十三歳。去年までヤクルトも配ってた」
息 子「へぇ〜〜」 

 信じはじめやがった。 
 そうなると、逆にヤバい。本来、妄想大好きなのワタシの勝手気ままなストーリーは止まらなくなる。 

息 子「でも、どうやって佐々木さんが喋ってくれるの?」 
ワタシ「ここ(リモコン)から線が出てて、佐々木さんの家までつながってるんだよ。で、リモコンのボタンを押したら、佐々木さんの家に付けた鈴がなるようになってるんだよ。チリンチリンって。そしたら、佐々木さんがマイクの前で喋るようになってる。“オ風呂ガ、沸キマシタ”、とかな」 
 ダメだ・・・自分で喋りながらも笑いを抑えるのに必死なるワタシ。 
息 子「じゃあ、佐々木さんは毎日喋ってくれてるの?」
ワタシ「そうだよ。ちゃんとお金を払ってるもん。一日20円」 
息 子「ふ〜〜ん・・・佐々木さん、すごいねぇ」 
ワタシ「ああ、毎日毎日な・・・そうだ、お前、佐々木さんに“ありがとう”って言っておけ」 
息 子「どうやって?」 
ワタシ「リモコンに向かって。たぶん、佐々木さんに聞こえるから」 
 半信半疑の表情でゆっくりと給湯器リモコンに近づく息子。バスタブの中を給湯器の前まで移動すると、ワタシと給湯器を交互に見ながら、口を近づけ、そして意を決したように給湯器に向かってこう言った。
息 子「佐々木さん、ありがとう〜〜〜!!」 
 し、し、死にそう・・・笑い死にそうだ。もう、ダメ。限界。 
ワタシ「なぁ・・・もういいから、お前、あがれ」 
息 子「うん」 
 息子が上がったあと、ワタシは声を殺して笑った。息子に悪いことしたなぁ。 
 でももっと悪いことをしたのは、幼稚園の裏で暮らす架空の人物・佐々木ヨシエさんだ。 
 しばらくして、ワタシも風呂から上がった。 
 脱衣場から出てリビングに行くと、妻が呆れたような顔でワタシを見てこう言った。 
「もう・・・なにバカなことを教えてるのよ!!」 

 ・・・結局、どうやっても、風呂上がりに怒られるんじゃねぇか。

(終)〈2007年作〉
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バスルームから愛をこめて〈2〉 〜ナイチンゲール〜

2018-11-24 | 短編小説


先日。 
息 子「ねぇ、お父さん」 
ワタシ「ん?何だ?」 
息 子「何でボクにはおチンチンがあって、お姉ちゃんにはおチンチンがないの?」 
 まただよ・・・またはじまった。
 ここで良いパパぶって「それはな、子どもを産むためなんだよ」とかなんとか言って、直球勝負の答えを返してはいけない。ゼッタイに。
そんなことをした日には、息子の好奇心に思いっきり火を点けてしまい、かつての“注射器事件”の二の舞になってしまう。
 そこでワタシの口から出た答え。 
「だからぁ〜、それはお前が男で、お姉ちゃんは女だからだよ」 
 ・・・我ながら情けないほど、見事に何の答えにもなっていない。
 今、最も好奇心旺盛な時期を迎えている四歳の息子が、こんな低能な答えで納得するわけがないじゃないか。 
息 子「ふ〜〜ん。そうか」 
 納得しやがった。 
 しかし、これはまだプロローグに過ぎなかった。この直後・・・ 
息 子「ねぇ、ねぇ、お父さん」 
ワタシ「あん?(もういい加減にしてくれよ)」 
ワタシは少し面倒くさそうに答えた。すると息子は、間髪入れずに僕に向かって発射した。 
息 子「男の子はおチンチンって言うけど、女の子はおチンチンないけど、何て言うの?」 
ワタシ「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
息子が発射した質問は、明らかに核弾頭だった。この例えはちょっと不謹慎だっただろうか。ならば、例えを変えよう。 息子が発射した質問は、明らかに関東直下型の大地震だった。いや、この例えも不謹慎か?・・・・いやいや、最も不謹慎なのは、息子よ、お前のその質問だっ!!
 何も言葉が、出て来ない。 
 風呂の中で、石になる。 
 風呂に入っているのになぜか汗が大量に流れはじめているのが、分かる。 
 そりゃあ、ワタシだってもうすぐ四十路だもの。当然、〈その言葉〉は知っている。 
 友達と居酒屋に行ってビール二〜三杯でも飲んでほどよく酔えば、メロディー付きで連呼している。(それはそれで考えモノだが) 
 だけど当然の当然の当然だが、その言葉を子どもに教えるわけにはいかない。 そんなことをした日にゃ、息子が風呂から上がって妻に報告したとたん、 ワタシは、全裸のまま勝手口から放り出されるのは必至だ。 
ワタシ「う〜〜〜ん、何て言うのかなぁ・・・」 
 ワタシはとぼけたフリをした。 
 この時の僕の芝居を見れば、きっと今は亡き浅利慶太も“ぜひ、劇団四季に入ってくれ”とワタシに懇願したことだろう。 
息 子「ねぇ、何て言うの?」 
 こういう場面で“知らない”とは言えないし、言ってはいけない。ワタシはそう思っている。 
 子どもにとって、親に質問をして“知らない”と言われた時ほど失望することはないからだ。 
 ワタシが、そうだった。 
 子どもの頃、ワタシも素朴な疑問をよく親にぶつけた。しかしその度に、親は“よく分からない”と言って、ワタシの質問をよく誤摩化した。 
 息子は、明らかにそんなワタシのDNAを受け継いでいる。だから、なおさら“知らない”とは口にできない。でも、悲しいかな、何も言葉が出て来ない。 
 息子は、ワタシは中々答えないことに痺れを切らしたのか、湯船に立ってシャボン玉に興じていた娘の方を向いて「ここ、ここ」と指差した。 
 こら、こら、お姉ちゃんの股間を指差すんじゃない!

「・・・ナイチンゲール・・・」 

 無意識に自分の口から出たその言葉に、ワタシは自分で自分の耳を疑った。 
「ナイチンゲールぅぅ〜〜???」 
 息子は声をひっくり返して僕が言った言葉を繰り返した。息子の“ナイチンゲールぅぅ〜〜???”が、気持ちがいいほど浴室に響き渡る。 
 その言葉に、今度は娘がシャボン玉を中断して反応した。
「ナイチンゲール、知ってるよ。看護婦さんよね?」 
 さすがワタシの愛娘だ。娘は格好の助け舟を出してくれた。その言動にワタシは淡い期待を抱いた。ここで話題の方向が変わるかもしれない。 
ワタシ「お、おぉ、そうそう、よく知ってるな。どうして知ってるんだ?」 
愛 娘「学校の図書室に本があった」 
ワタシ「へぇ〜、お前、読んだの?」 
愛 娘「うん、少しだけ。でも、おチンチンの話じゃないよ」 
 娘の助け舟には穴が開いていたらしく、あっという間に浴槽に沈没した。 
 しかし、それでワタシの疑問も氷解した。
 ワタシも小学生の時、男女の身体の違いを表現する時に、ただただ“ナイチンゲール”という語感が面白いというだけで、そう言っていたのだ。そのナイチンゲールが白衣の天使だったことをワタシが知ったのも、娘と同じように学校の図書室の本だった。その時の記憶が、とっさに思い浮かんだのだ。たぶん。 
「お父さんが子どもの頃、そう言ってたような気がする」 
 ワタシはこの期におよんで、まだ少しとぼけた。この時のワタシの芝居を見れば、佐藤B作ならば東京ボードビルショーに入れてくれたかもしれない。 
「でも、でも、でも、ナイチンゲールって看護婦さんなのに、なんでおチンチンの女なの?」 
 息子は少し興奮して支離滅裂な尋ね方をしたが、息子が言いたいことはよく分かった。 
「うん・・・まぁ、でも、それでいいんだよ」
ワタシはそう言いながら、心の中で、クリミア戦争で負傷した兵士を必死に看護した看護師の鑑であるナイチンゲールに、平身低頭で謝った。まさか、ナイチンゲールもこんなカタチで約三十年ぶりに僕と再会するとは、予想だにしていなかっただろう。 
 他にも、子どもに説明する適切な表現はあったと思う。実際に、それが教育の現場でも課題になっていることはおぼろげに知っている。 
 しかし、僕にはもう限界だった。早く湯船から上がりたかった。のぼせる寸前、すでにゆでダコ状態だったのだ。
 いつもと同じように、息子、娘、僕の順番で風呂から上がった。きっと息子は風呂から上がると、いつものように素っ裸のまま、浴室での出来事を妻に報告しているはずだ。 
 僕も風呂から上がった。脱衣場でバスタオルで身体を拭いていると、リビングから息子の甲“高い声が聞こえて来た。
「お母さん、女の子はねぇ〜、ナイチンチンゲールなんだよ!」 

 ・・・・・・勝手にアレンジするんじゃねぇよ。

(終)〈2007年作〉

●バスルームから愛をこめて〈3〉 〜佐々木ヨシエさん〜 → https://blog.goo.ne.jp/riki1969/e/63b4f1478cb9ef07dd16d09a5d056963
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バスルームから愛をこめて〈1〉 〜注射器〜

2018-11-24 | 短編小説


「ねぇ、お父さん、これ、何?」
 と息子が突然、 自分の股間を指差しながらそう訊いてきた。
 ある日の夜。僕は八才の娘と四才の息子の三人で入浴していた。
 はぁ?こいつ、今さら何を尋ねてんだ?
僕「何って、おチンチンだよ」
息「違うよ、おチンチンじゃないよ、その後ろに
あるコレ」
僕「あ・・・こっちか」
 息子の言葉で気づいた。そういえば、そっちは今まで説明してなかったな。
息「ねぇ、何、コレ?何?」
僕「これはなぁ・・・玉が二つ入ってるんだ」
息「ふうん」
ここで、やめておけばよかったのだ。
僕「でな、お前が大人になったら、ここに小さい
小さい“子どもの種”が生まれるんだ」
 このひと言だった。
 このひと言に息子だけでなく、娘まで反応してしまった。
娘「違うよ、子どもは女が産むんだよ。男は産ま
れないよ」
僕「あ・・・うん・・・そうだね・・・」
息「ねぇ、僕も子ども産むの?産んじゃうの?
ねぇここで産むの?」
 僕と娘の言葉に、袋を指差しながら動揺する息子。
僕「いや、だからね・・・その・・・あの
ね・・・あげるんだよ」
息「あげる?」
僕「そう、男の人からあげるんだよ、女の人に」
 自分で自分の言葉に、少し安堵した。
息「何を?」
僕のささやかな安堵は、息子の質問で秒殺された。そりゃ、そうだ、当たり前の疑問だ。 
僕「いや・・・だからぁ・・・なんつーのか
な・・・」
 言葉が詰まる僕の視界に、ポンプ式のシャンプーが目に入る。 あれを押して“こんなの”って言えたら、どんなに楽だろう。
僕「だから、“子どもの種”だよ」
 結局、開き直った。
娘「じゃあ、どうやって?どうやってもらうの?」
 今度は、そうきたか・・・。
息「うん、どうやってもらうの?」
僕「お前はもらわないよっ!お前はあげるんだよ
っ!」
息「じゃあ、どうやって?」
 オレ、自分で自分のクビ締めてるよ・・・
僕「だから・・・そのな・・・」
息「(お湯の入った洗面器を持って)これで?」
僕「バカッ!そんなのにいっぱい入れてどうする!死んじゃうよ!」
息「死ぬって、誰が?お父さんが?」
僕「え、あ・・・そうね、お父さんっていうか、
小さいお父さんというか・・・まぁ、 いろん
なものがな・・・」
 ここで僕の頭の中に、突然電球が灯った。
僕「注射器だよ、注射器!」
娘&息「注射器ぃ?」
僕「そう、注射器であげるんだよ」
 うん、これはいい例えだぞ!僕は心の中で自画自賛した・・・が、話がそんなに上手く進むわけがなかった。
娘「私、注射器でもらうの?」
僕「・・・」
娘「いつ?」
僕「いつって・・・そんなの分からないよ・・・」
娘「私、イヤ!痛いのイヤ、怖いからイヤ!」
僕「うん。お父さんも、イヤ(別の意味で)」
息「ねぇ、僕は誰にあげるの?」
 まだ、こっちの坊主がいた。
息「誰?」
僕「誰って、それも分からないよ」
息「何で?」
僕「そりゃあ、大きくなってお前が好きな人に出
会ったら分かるよ」
 いいねぇ、これが理想の親子のお風呂での会話じゃん。 
息「好きな人?」
僕「そう、好きな人」
息「じゃあ、お姉ちゃんにあげてもいいの?」
僕「ダメダメ!お姉ちゃんは姉弟だからダメだって!」
息「じゃあ、バァバは?」
僕「ギャハハハハ!それもダメダメ!ワハハハ
ハ!」
 親を飛び越えるなよ。跳び箱じゃないんだから。 
息「何で、そんなに笑うの?」
僕「いや・・・お前、面白いからだよー」
息「じゃあ、お父さんは、お母さんに注射した
の?」
 きた。いきなりの核心。
僕「うーーん・・・まぁ・・・そうねぇ、そうな
んだろうねぇ」
息「いつ?」
僕「いつって・・・憶えてないよぉ」
 もう勘弁してくれ・・・。 再び、僕の視界にポンプ式のシャンプーが入りやがる。
僕「もういいから、2人とも先に上がりなさい」
娘&息「はぁーい」
 子どもが上がった後、 脱衣場からリビングに向けて息子の大声が響く。
「お母さぁーん、お父さんに注射されたのぉ?」
 その質問を耳にした瞬間、 風呂の栓を抜いて、お湯と一緒に流れようかと思った。

(終)〈2007年作〉

●バスルームから愛をこめて〈2〉 〜ナイチンゲール〜 → https://blog.goo.ne.jp/riki1969/e/f201955b23159190cf0dcfffdb60f913
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