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最近。
娘と一緒に風呂に入る事は、皆無になった。だから、風呂は息子と二人きりで一緒に入っている。
ある日。
息 子「どうして、お姉ちゃん、一緒に入らないの?」
ワタシ「さぁ・・・恥ずかしいんだろうな」
息 子「何が?」
ワタシ「何がって・・・一緒に入るのがだよ」
息 子「何で一緒に入るのが恥ずかしいの?」
ワタシ「う〜ん・・・裸になるのが恥ずかしいのかもしれないな」
息 子「何で?だって、お姉ちゃん、おチンチンないじゃん」
ワタシ「いや・・・おチンチンがあるとかないとかじゃないんだよ」
息 子「おチンチンがないのに、何で恥ずかしいのかな」
子どもっていう生き物はどうして・・・・。
しかし、ここで調子にのってコイツの言動にノッてはいけない。 例えば、ここでバカ正直にワタシが・・・
「それはな、女の子はおチンチンの代わりに・・・」
・・・なんて答えようものなら、先に上がった息子が妻に風呂での話を事細かく喋ってしまい、何も知らずに風呂から上がったワタシには、脱衣場で地獄が待っている。
「とにかく、お姉ちゃんは一人で入るからいいんだよ!」
ワタシは強引にこの話を、止めた。その後、しばらくの間、バスタブに無言の空気が流れる。しかし、その空気を破ったのも、息子だった。
息 子「ねぇ、お父さん」
ワタシ「あ?」
息 子「前から気になってたんだけど、アレ、何?」
息子はそう言って、バスタブの前方を指さした。息子の指の先には、壁に付けられた給湯器のリモコンがあった。
ワタシ「何って、お前、あれでお湯を沸かしてるんだよ。最初から付いてただろ」
息 子「いや、そうじゃなくて・・・あの機械、喋るでしょう?アレ、誰?」
何度も書くが、まったく、子どもって・・・。どうして、こうもニッチェ的な疑問を真正面からストレートに大人にぶつけてくるのだろう?しかも、仕事や色んなことで疲れている時に限って・・・。
ワタシ「それはな、あれはコンピュータで作られていて、ボタンを押したらその声が出るようにインプットされていて・・・」
・・・という感じで、子どもにも分かるように説明する気力は、もう僕の中にはほとんどなかった。
ワタシ「お前の通ってる幼稚園のすぐ近くに散髪屋があるだろ?」
息 子「うん」
ワタシ「あの散髪屋の裏に佐々木さんていう家があってな。そこのオバさんが喋ってくれてるんだよ」
息 子「え〜〜?ウソだぁ〜!?」
ワタシ「ホントだって。佐々木ヨシエさんっていうオバさん」
息 子「ホントにぃ〜?」
ワタシ「ああ。今年五十三歳。去年までヤクルトも配ってた」
息 子「へぇ〜〜」
信じはじめやがった。
そうなると、逆にヤバい。本来、妄想大好きなのワタシの勝手気ままなストーリーは止まらなくなる。
息 子「でも、どうやって佐々木さんが喋ってくれるの?」
ワタシ「ここ(リモコン)から線が出てて、佐々木さんの家までつながってるんだよ。で、リモコンのボタンを押したら、佐々木さんの家に付けた鈴がなるようになってるんだよ。チリンチリンって。そしたら、佐々木さんがマイクの前で喋るようになってる。“オ風呂ガ、沸キマシタ”、とかな」
ダメだ・・・自分で喋りながらも笑いを抑えるのに必死なるワタシ。
息 子「じゃあ、佐々木さんは毎日喋ってくれてるの?」
ワタシ「そうだよ。ちゃんとお金を払ってるもん。一日20円」
息 子「ふ〜〜ん・・・佐々木さん、すごいねぇ」
ワタシ「ああ、毎日毎日な・・・そうだ、お前、佐々木さんに“ありがとう”って言っておけ」
息 子「どうやって?」
ワタシ「リモコンに向かって。たぶん、佐々木さんに聞こえるから」
半信半疑の表情でゆっくりと給湯器リモコンに近づく息子。バスタブの中を給湯器の前まで移動すると、ワタシと給湯器を交互に見ながら、口を近づけ、そして意を決したように給湯器に向かってこう言った。
息 子「佐々木さん、ありがとう〜〜〜!!」
し、し、死にそう・・・笑い死にそうだ。もう、ダメ。限界。
ワタシ「なぁ・・・もういいから、お前、あがれ」
息 子「うん」
息子が上がったあと、ワタシは声を殺して笑った。息子に悪いことしたなぁ。
でももっと悪いことをしたのは、幼稚園の裏で暮らす架空の人物・佐々木ヨシエさんだ。
しばらくして、ワタシも風呂から上がった。
脱衣場から出てリビングに行くと、妻が呆れたような顔でワタシを見てこう言った。
「もう・・・なにバカなことを教えてるのよ!!」
・・・結局、どうやっても、風呂上がりに怒られるんじゃねぇか。
(終)〈2007年作〉