rock_et_nothing

アートやねこ、本に映画に星と花たち、気の赴くままに日々書き連ねていきます。

”草の竪琴”  流れの中で

2016-08-27 23:10:25 | 本たち
トルーマン・カポーティのもっとも繊細で大切なものがぎっしりと詰まった「草の竪琴」は、読書中よりも読書後にじんわりひたひたと心に柔らかな温かい水が満ちてくる。
気がつけば、その水は眼球を覆いやがて零れ落ちようとするのだ。
子供の頃の寄る辺なさ、居心地のよい部屋の隅、不思議なものも簡単に受け入れられる曖昧な世界の住人だった。
もう決して戻ることができない切なく甘い時を、カポーティは両手でそっとすくい出す。
私は、自分にもある心の一番奥にある柔らかいところをカポーティによってすくわれ、心に大きな虚が開きやるせない喪失感に囚われながらも、じわりとしみ出る薄緑の温かな水を感じては、廻り行く時と命に打ち震えた。

生まれた瞬間産み付けられる孤独の卵を抱え、人は生きていく。
孤独はいつ孵化するかそれは個人差があり、どれだけ成長するかも同様だ。
放っておくと孤独はどんどん成長し、ついには人を飲み込んでしまうけれど、人は寄り添うことで孤独の成長を抑えていくのだ。
寄り添うとは、あるがままに人を受け入れる愛のこと。
それがたとえ一瞬であったとしても、孤独に飲み込まれない特効薬となり得る。
その思いは、終生その人の心に柔らかな調べをもたらすから。

水も調べも流れを伴う。
全ては流れ行き去っていく。
人も孤独も全て皆。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿