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余韻が醸成する幸福な絶望、タブッキ「島とクジラと女をめぐる断片」

2014-02-23 23:31:31 | 本たち
アントニオ・タブッキの小品集。
舞台は、ポルトガルから遥か1000キロメートル東の大西洋に浮かぶポルトガル領アソーレス諸島。
かつては遠洋漁業や捕鯨の基地として使われていた。
今は美しい海と温暖な気候で保養地として人気があるという。
この島々と海とそれらに流れてきた時間を、クジラが繫ぐ。
クジラは、人と時間を合体させた象徴でもある。
深い愛と悲しみに満ちた海を彷徨うクジラ。
この本は、じっくりと時間をかけ、噛み締めるように味わい読むべきもの。
少し読んでは本を閉じ、目を閉じて心にしみ込ませる。
すると次第に透明で深い青が、私を包む。
一人大海原を行く私は、長く長く咆哮する。
当て所ない旅のもたらす孤独の声。
受け取る者のないメッセージ。
私の海は、まだ広がり続け深くなっていく。
絶海の孤島とも思えるアソーレス諸島そのものが、彷徨うクジラ、人生をあらわしているような気がしてならない。
そして読み終えたとき、言いようのない幸福が、絶望となるのだ。
結局のところ、刹那しか人は捉えて生きられないのだろうか。
まるで、愛の交歓が、生と死を併せ持つのに似ているように。
だがまだ、この本の余韻は私の中で醸成され続けている。






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