大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・230『満要鎮PI史跡・1』

2024-07-04 11:36:22 | 小説4
・230

『満要鎮PI史跡・1』孫大人 




 奉天南西15キロの満要鎮を目指している。


 唐黍も満足に穫れない瘦せた土地だが、先の満州戦争で児玉元帥が史上初のPIをやったことで名所になった。

 PIとはPerfect Instsll(パーフェクトインストール)の意味で、人の魂そのものをロボットに移植する技術だ。
 知識や行動様式をコピーしたソックリロボットはコピーした人間の行動や思考をトレースすることしかできない。従って、他のコンピューターによって、その思考や行動は予測されてしまう。

 司令官級の軍人や国家の意思決定に関わる最上級の政治家はコピーロボットでは務まらない。完全に読まれてしまうからだ。

 それに、ソウルや魂と呼ばれるものをインストールすること自体に大方の人間は違和感を持っている。

 ソウルを移植し続ければ、人間は永遠に生き続けることができる……ということになる。その気持ち悪さに人間は耐えられない。
 長期の宇宙旅行では、食料供給をレプリケーターに頼っている。レプリケーターは、どんな有機物でも分子にまで分解し、それを再構築して食品や飲料水を造る。つまり、自分たちの排泄物や死体からでも作れるわけで、その気持ち悪さを嫌って、惑星航路船などは、かなりの船内スペースをリアルの食糧庫に充てている。
 将来、パルステクノロジーが進化して恒星間航行が可能になった時はレプリケーターに頼らざるを得なくなるはずなのに、そのことに思いをいたす人間は少ない。

 児玉元帥をPIしたJQは、先年寿命が来て朝霞谷で眠っている。あくまで軍人児玉元帥としてなのだが、元がカルチェタランの舞姫。最近では『朝霞谷の眠れる森の美女』とか呼ばれている。いまのボディーは……おっと、我が親友児玉元帥の最大の秘密。たとえ、ポンコツ道路を移動中の回想としても控えておこう。

「悟兵、そろそろ着くよ」

「え……ああ、東鈴の運転がうまいんでつい居眠ってしまったアル」

「フフ、よく言うよ、脳波は起きてる時と変わらなかったわよ」

「え、モニタリングしてたアルか!?」

「してないわよ、しなくてもダダモレ」

「油断ならないアル、プラグインしたアルか(;'∀')?」

 慌てて首の後ろを探る。

「しないわよ。そんなことしなくても分かるくらいにあちこちの筋肉ピクピクしてたし」

「え、筋肉ピクピクアルか(;'∀')?」

「ほら、こんな感じ」

 フロントガラスに筋電図が現われたアル! グラフのこぎりの歯みたいアル!

「うう……ん……これ、10倍にしてないアルか?」

「とんでもない、20倍よ」

「20倍……ほとんど平常値アルよ」

「孫企業集団の總經理(ヅォン ヂィン リィー)でしょ、どこで情報読まれてるか分からないから気を付けるアルね」

「お、おうアル」

「さ、着いた。車、駐車場にまわすから先に行っといて」

「おう」


 久々に来た満要鎮の記念碑は緑青が噴いていたが、近づいて現れたホログラムは生々しい。


 胸のアーマーを撃ち抜かれた元帥にJQが覆いかぶさるようにして様態をチェックしている。

「お、俺のソウルを……ダウンロードしろ」
「ソウルをダウンロードしたら、死んでしまう」
「このままでも、俺は……十分と持たない、や、やってくれ!」
「分かった」

 JQは両手で元帥のこめかみを挟む。微弱な電流が流れて、元帥の脳みその保全を図ろうとする。

「ロボット法なんて無視しろ……か、かかれ」
「死んでも知らないから……」

 十秒ほどでPIし終わると、立ち上がってJQは児玉元帥として宣言する。

「ここからは、わたしが指揮をとる」
 
 副官のヨイチは児玉司令の死亡を確認して命令を復唱する。

「『ここからは、わたしが指揮をとる』全部隊に伝達いたします」


 このPI宣言で終わるはずが、続きがあった。


 JQがジェネレーターを放電させて、元帥の遺骸を焼いて灰になるところまでをリアルに再現している。

 ちょっと趣味が悪いと思ったアル。



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)079・美晴の「ゲ、なんだって!?」

2024-07-04 07:24:03 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
079・美晴の「ゲ、なんだって!?」 





 ちょっと自己嫌悪。


 十三(じゅうそう)で迷子になったミッキーは、気の毒にホームステイ先の家が火事になった。

――これでサンフランシスコに帰ってくれる――と思ってしまった。

 こういう人の不幸を喜んでしまうところは母親譲りで自己嫌悪。

 でも、お母さんが人の不幸を喜ぶのは理由が無い。

 ただただ、人の幸せが許せないだけ。

 ちょっとバイヤスがかかってる。

 冷蔵庫から麦茶を出してラッパ飲み。


 クールダウンしなきゃ。


 娘のわたしが言うのもなんだけど、お母さんは若くてきれいだ。

――それだけお若くって綺麗でいらっしゃるんだから、なにかやってらっしゃるんでしょ?――

 MCの菅沼恵美子さんが聞く。

――ハハハ、めんどくさがりやなんで大したことはやってません。乳液に、気を付けてるかな?――

 健康的に笑いながらお母さんは応える。

 お母さんは、口を手で隠すということをしない。歯並びに自信があるせいなんだけど、その方が魅力的に見えることを知っている。

 それと、乳液だけというのはウソだ。

 整形こそはやってないけど、身体や顔のあちこちのリフトアップのための体操というかエアロビというかヨガというかに掛ける情熱には鬼気迫るものがある。ストイックなんて言葉では済まない、なんというか魅入られてるような雰囲気があって怖いよ。

 一度凄いところを見てしまった。

 鼻から入れた紐を口から出して掃除していた。でもって、次には鼻から入れた水を目から出す。

 ヨガ名人のインド人のお爺さんがやっていたら、それなりの納得ができるんだろうけど、美人のお母さんがやると鬼気迫ってしまう。

「アハハ、びっくりしたぁ?」

 健康的にオチョクッテくるので、負けじと返す。

「ネットで見たけどね、ヨガのチョー名人は口から入れた紐をお尻から出して、キュキュッて掃除するらしいわよ!」

 さすがに嫌がると思ったら、藪蛇だった。

「それいいよね、試してみる!」

 で、この人はほんとにやってしまう。

「できるようになった!」

 一週間後には帰宅したばかりのわたしに喜々として報告する。

「三種類の紐を試してみたんだけど、須磨はどっちがいいと思う?」

 まだ湿り気の残る紐を三本突き付けてくる。

「ど、どれでもいいでしょ!」

 それ以来、お母さんがヨガもどきをやっているところには足を踏み入れない。

 男だったらどうだろ?

 娘や女房が怪しげなことやっていたら、きっと覗くよね。ほら『鶴の恩返し』。けして覗いてはいけないと言われながら男は覗くじゃない。でもって、女房が鶴の姿になって自分の羽を抜いては機を織ってるの。うちの両親が離婚したのは、そういうところに原因があったと思うんだけど、賢明なわたしは踏み込まない。

 麦茶のお替わり飲んで、その半分が汗になるくらいの時間考えた。

 ミッキーが好意を寄せてくれるのは悪いことじゃない。困るんだけどミッキーを責めるのはお門違いだ。

 彼が惣堀高校に交換留学に来たのもたまたまのことで彼のせいじゃない。

 だから、火事になったことを喜んだりするのは間違ってる。

「かわいそうミッキー、わたしで力になれることがあったら言ってね」

 かけた言葉は社交辞令なんだけど、社交辞令であればこそ、表現には心が籠る。

 眉間にキュッと力が入って、それが自分のキュートで可愛い表情になることを気に掛けつつ、ま、これでアメリカに帰ることになるんだろうから、ま、いいや。

 お母さんがゲストの番組も、そろそろお終い。

 いろいろ考えてしまって、ほとんど観ていなかった。

――そういや、瀬戸内さん、今日とってもいいことなさったんですって?――

 菅沼さんが、その玉ねぎ頭の段差のように話を切り替える。

――そうそう、娘がアメリカでホームステイした家の男の子。ミッキーって可愛い名前なんですけど、今度は交換留学で来てるんですけどね。ホームステイ先が火事になってしまいましてね、代わりのお家が見つからないと帰国しなくちゃならないって、可哀そうでしょ? で、決めたんです。わたしの家に引き取らせていただくことに!――


 ゲ、なんだって( ゚Д゚)!?



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする