大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・114『安倍晴天』

2024-07-24 11:18:40 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
114『安倍晴天』   




「それで、返事をしたのかい?」


 いつになく怖い顔で訊ねるお祖母ちゃんにビビった(;'∀')。

 終業式のあった20日の午後、みんなで新宿のホコ天に行ってマクド一号店でハンバーガーを食べた。みんなで記念写真を撮ったり楽しい半日だった。うっかり、あの時代にはまだ発売されてない使い捨てカメラを使ってロコに不審がられたりして、時を跨ぐのは注意の上に注意をしなくっちゃ。と、思い知る。

 そして、戻り橋を渡って令和に戻った時、後ろから声がかかった。

『ねえ、グッチ』

 完全に友だちのノリの声だった。それも橋からじゃなくて、川沿いの道からだったから、つい返事をしてしまった。

「え、わたし?」

 振り返ると、目の高さにハンバーガーが浮いている。

 ハンバーガーは、切れ込みのところがパカパカ開いて、それが喋っているように見える。

『あした、グッチの家に行くからうちに居てね。三時ごろ行くから』

「え、えと……」

『怪しい者じゃないよ、応(こたえ)さんの友だち、名刺わたしとくね』

 切れ込みが大きく開いたかと思うと、レタスとパテの間から名刺が飛び出してきて、受け取った瞬間にハンバーガーは消えてしまった。

 こいつは式だ、式神だ。それもメッセンジャーとか飛脚とか呼ばれるレベルの低い奴で、こちらが返事をしなかったら用件を伝えることさえできない。迷惑メールと同じ。返事するのはクリックするのと同じ。だから「それで、返事をしたのかい?」と、お祖母ちゃんは聞いたわけ。

 マクド一号店に行った後だったから油断していたんだね。

「安倍晴天……なんだかパチものくさいけど」

「めったなことを言うんじゃないよ。安倍晴明の五十代目、陰陽寮の司だよ」

「よく分からないんだけど」

「うちの時司家は、代々朝廷の陰陽寮に所属して時間の管理をしていたんだ」

「うちも司だし、偉くないの?」

「課長と社長ぐらいにちがう」

「あ、そうなんだ……」

「お祖母ちゃんが相手しとくから、部屋から出ちゃいけないよ」

 そう言われて、朝ごはんの後は自分の部屋に籠ったよ。

 お祖母ちゃんは、めずらしく久留米絣の装いで安倍晴天さんを待ち受ける。

 わたしは、パソコンにつないであるモニターで動画を観て時間をつぶす。麦茶とお煎餅なんかも持ち込んで、まあ、半日は退屈せずにすむだろうね。

 ドローンで世界や日本のあちこちを見せてくれるのをボーっと見ている。

 4Kの40インチ。六畳の部屋で観ているとけっこう臨場感がある。

 もうじきオリンピックのフランスから始めて、スペイン、イタリア、ポーランドの古城を空からゆっくり見てるのは雰囲気。

 エッフェル塔が出て来たからフランスかと思ったら、中国のお金持ちが作った2/3スケールのレプリカ。周囲もフランスの町っぽく作られていて、しばらく気づかない。スフィンクスとピラミッドでエジプトかと思ったらラスベガス。
 クリックすると、五重塔の向こうにおあつらえ向きの富士山。外国の人の動画で、日本人とは視点が違うから面白い。
 カメラが切り替わると見覚えのある山……ああ、宮之森の城山だ!
 去年は、みんなで花火を観に行った。おたふくでパンとか買ってプチ遠足にも行ったっけ。
 城山を巡ったカメラは、川沿いを進んで見覚えのある家並。どこだろうと思っていると……うちの家だ。
 近づいていくと、二階の窓が開いて……え、モニターを見てる後姿はわたしだ!

 振り返ると、めちゃくちゃイケメン、和服姿のオニイサンが笑顔で座っている。

「どうもぉ、安倍晴天ですぅ(^▽^)/」

 あ、やられた(;'∀')。

「応さんに会うと、言いくるめられそうで、直接おじゃましましたぁ」

「あ……え、えと……」

「応さん、久留米絣を着てるでしょう」

「あ、めったに着ないんですけどね……」

「あれはね『言いくるめ絣』と云ってね、なにを頼みに行ってもうまく言いくるめられて退散させられるという呪物なんだよ」

「え、そうなんですか!」

「応さんのは年期が入ってるからね、ボクでも太刀打ちできない」

「あ、え……それで、なんの御用なんでしょうか?」

「大阪の万博会場でガス爆発があったのを知ってる?」

 大阪万博と言われて思い浮かぶのは去年行った70年の万博。

「あ、そっちじゃなくて、いま建設中の」

「あ、ああ」

 思い出した。会場敷地の地下にメタンガスが溜まっていて、それに引火して爆発したってニュースでやっていた。

「メタンガスの仕業になってるけど、実は妖とかの仕業なんだ」

「そうなんですか!?」

「うん、それをやっつけたいんだけどね、ぜひグッチ、きみの力を借りたいんだ」

「わたしがですか!?」

「うん、というのがね……」

 晴天さんは膝を進めて、でも、穏やかに説明してくれて……けっきょくは引き受けてしまった。

「じゃ、今から大阪に飛ぶよ」

 そう言われても、戸惑いも抵抗も感じない。

 意識がボンヤリする中で気が付いた。

 晴天さんの和服も久留米絣だった……。



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)099・女子に関わるとろくなことが無い

2024-07-24 06:55:13 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
099・女子に関わるとろくなことが無い 





 女子に関わるとろくなことがない。


 かといって世の中の半分は女なんやから、まるっきりの無視もでけへん。

 せやから程よく付き合っていけばいいと思ってるし、そうしてきた。

 程よくというのは、ま、日ごろの挨拶はする。「おはよう」とか「さいなら」とか「ありがとう」とか。ま、この三つの言葉を適宜使っといたらもめ事は起こらへん。

 女子が、なにか悩んでいたらそっとしておく。へたに感想とかアドバイスとかしたら上手くいかんかった時に「あんたのせいや」と思われる。面と向かって「あんたのせい!」と怒られることは少ないが、根に持たれて、時には仲間内に言いふらされて総スカンを食うことになる。クラス八分、下手したらスクール八分とか。

 文化祭で『夕鶴』をやることになって、八重桜(敷島先生)の押しで千歳が主役を張ることになった。

 なったんやけど、千歳の顔は浮かない。

 だけど、俺は「どないしたんや?」と声をかけたりしない。

 声をかけないのは以上の理由による。

 その他にも、須磨先輩やミリーが気にかけてくれているのが分かってるし。下校時に迎えに来たお姉さんと車の中で話しているのも見かけた。

 俺がしゃしゃり出る幕やない。

 それに、最大の問題は『夕鶴』を押してきたのは八重桜自身やということ。

 八重桜は組合のバリバリで党員やという噂もある。パソコンで惣堀高校をググってると八重桜にヒットして、その写真が北摂の女性野党議員とのツーショット。これは理屈の通る人種やないと怖気をふるってしもた(llllll゚Д゚) 。

 まあ、その、俺の女子一般への認識と八重桜への怖気が、千歳の放置プレイになってしもたんやけどな。

 そやけど、俺の良心は「このままでええんか?」と責めてくる。


 ちょっと千歳の顔を見られへんなあと思たとき、須磨先輩から提案があった。

「啓介、ミリーとミッキーを主役に据えたらいいんじゃない!?」

 ミリーもミッキーも交換留学生。国際交流とか異文化交流とかのキャプションを付けたら、すごく前向きな取り組みに見えるやんけ(゚Д゚) !

「でしょ!」

「あ、せやけど、ミリーは足イワシてるし」

 ミリーは捻挫をこじらして車いすになってる。

「かえっていいわよ、もともと八重桜は千歳に振ったんだよ。これは、千歳が車いすなんで、きっとアピールできると踏んだから。ミリーの条件なら、八重桜も宗旨替えしてくれると思うわよ」

「なるほど……『足を怪我しながらも健気に主役を張る交換留学生の美少女!』あとは……」

「ミリーとミッキーには話した、めっちゃ喜んでたわよ。あとは八重桜の首に鈴をつけることだけさ(♡〇♡)」

「え……なに? そのキラキラお目めは(^_^;)?」


 どうも苦手らしい、先輩が八重桜を、又は八重桜が先輩を。


 で、俺が提案しに行くと総選挙で支持政党が勝利したように喜んでくれて、どさくさで「演出とかもお願いできますか!」もあっさり引き受けてくれた。

 明日から演劇部初の演劇の稽古が始まる。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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