巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
会社でいうと社長と課長ぐらいの差と一級呪物『言いくるめ絣』の着物のために、安倍晴天に言われるまま、建設途上の大阪万国博の会場に来ている。
冷静になったら――無理に決まってる!――という気持ちしかないよ。
わたしの魔法って、雨の日に薄い妖気の幕を張って濡れなくするとか、せいぜい壁一つ向こうの様子が探れる程度。バイトの結婚式場でやったら、とたんに巫女に化けていたスセリヒメにバレてしまったしね。
もし、新幹線とか飛行機で大阪に行くんだったら、どこかで魔法が解けて隙を見て逃げ出したと思う。
だけど、安倍晴天は名前の通り明るい性格で落ち込む隙を与えないし、うちの家から万博の建設現場まで一瞬で飛んでしまったしね。
「で、なにをすればいいんですか?」
建設中の大屋根の上でボヤく。ちなみに、わたしの姿は晴天さんの魔法で人には見えないようになってるらしい。
「ここに居るだけでいいよ(^_^;)」
「え……」
言葉にならなかったのは――このクソ暑い大屋根の上に居続けたら絶対熱中症で死んでしまう!――という絶望と――そんなことでいいのか!?――という呆れるほどの簡単さ。
「グッチは耐水魔法が使えるでしょ」
「雨に濡れない程度には」
「それを少しグレードアップ。ちちんぷ~いぷい(^▽^)」
「え、これって……あ、涼しくなってきた!」
「お昼ご飯とかは式神に持って来させるから、なにか足りないものや要望があったら言ってくれるといいよ」
「あの」
「うん?」
「どうして、ここに居るだけでいいんですか?」
「グッチ自身が結界になるからさ」
「わたしが結界!?」
「うん、時間がないから詳しい説明は後にする。とにかく夕方までは、この大屋根の上に居て。退屈したら大屋根の上を散歩するといい。一周2.2キロもあるからね、ゆっくり歩けば一時間は楽しめる。じゃあね」
そう言うと晴天は大きくジャンプした。
姿は地上に着くまでに消えてしまったけど、着地したあたりの空間が歪んだ。
たぶん、待ち受けていた妖をやっつけたんだ。
歪は建設現場のあちこちに移って、歪んでは消え、消えては、また別のところに歪みが現れる。
いくつかの歪みは大屋根の際まで逃げてくるんだけど、結界に阻まれて弾かれていく。弾かれる瞬間に「チェ!」とか「クソ!」とかの声が聞こえる。ちょっとうるさいなあと思ったら聞こえなくなる。どうやらボリューム調整もできるみたいだ。
まあ、これなら、なんとかやれるか。
去年は昭和の万博、今年は令和の万博。
令和は建設途中の妖退治だけど、これで間に合うなら、まあいいかと思う。
「でも、これってバイト料とか出るのかなあ……」
呑気なことを思いながら、とりあえず大屋根を一周してみようかと歩き出す。
もう少し涼しくしたいなあと思ったら目の前に26度と出て、すぐに24度に変わった。
この魔法、この仕事が終わっても使えるといいのにと思った。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
- 辻本 たみ子 2年3組 副委員長
- 高峰 秀夫 2年3組 委員長
- 吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
- 藤田 勲 2年学年主任
- 先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫
- 早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人