大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・108『笹に魔法をかける』

2024-07-05 15:11:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
108『笹に魔法をかける』   




 型落ち魔法少女、時司応(とこつかさこたえ)の孫で、自分自身も型落ち魔法少女であるわたしは、一日に一度だけ魔法が使える。

 お母さんは魔法とかに興味が無くって、素養もなかったのでアメリカで火星ロケットに乗るための訓練を受けている。

 わたしは隔世遺伝で魔法少女の素養はあるんだけど、ろくに訓練もしていないし、お祖母ちゃんのようにガチの魔法少女にはならない。

 まあ、毎日令和から昭和の学校に通っているんで、万一のために能力を維持してるんだ。

 でも、魔法を使ったのはいままでに数えるほど。

 普通に女子高生やっていたら、令和でも昭和でも、そうそう魔法のお世話になることは無い。

 でもね、昨日からは、登校するなり昇降口に行く前に魔法を使う。

「テクマクマヤコン テクマクマヤコン……」

 パクリの呪文を唱えて、小さく印を結び「えい!」と、これまた小さく気合いを入れて本館玄関前の植え込みに気を注ぎ込む。

 シューーー

 水道が流れるような音がして、地面にぶっ刺しただけの三本の笹が目に見えて元気になる。

 一昨日、佳奈子のお母さんがトラックで笹を運んできてくれて、その世話係を引き受けた。

「まあ、地面にぶっさしときゃ少しはマシかなあ……」

 佳奈子のお母さんは微妙に首をかしげるので「いえ、青々としたまま七夕を迎えさせてやります!」と胸を叩いたしね。

 昨日は「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前、エエイ!」とカマシてやったら守衛のオジサンが腰を抜かしたんで「テクマクマヤコン」に切り替えた。

 要はなんでもいい、テンション上げて勢いが付かなければ効き目が薄いから。お祖母ちゃんほどのベテランになれば、思っただけで効き目があるらしい。

「ごめーーん、遅くなっちゃったぁ(^_^;)!」

 真知子を先頭に、いつものメンバーがやってくる。

「ううん、一本早い電車に乗っちゃったからぁ、とりあえず笹に挨拶(^_^;)」

 魔法を使っていたとも言えず適当に言っとく。

「とりあえず、昨日までに集まった分」

 たみ子が紙袋から短冊の束を出す。

「いちおうチェックしたけど、みんな問題ないみたいよ」

「ここまでしなくてもいいと思うんですけどねえ」

 ロコは、ちょっと不満そうにしながらも、率先して笹に短冊をつけていく。

 まだ学園紛争の空気が大気中の二酸化炭素ほどには残っているので、事前に書かれていることをチェックしておくと言うのが生徒会顧問の倉田先生から出された条件。

 それで、色紙は応募箱に入れてもらって、チェックしてから笹にかけることにしたんだ。

 平和でありますように  推薦入試に受かりますように  八頭身になりたい!  二度寝せずに起きられますように   素敵な恋人ができますように  自分の部屋が持てますように  この世からピーマンが無くなりますように  
半年だけ一日25時間になりますように  今からでも部員が増えますように  マクドナルドのハンバーガー食べられますように  

「最後のやつはロコだね?」

「ええ、ちがいますよ、自分のはこれです」

「どれどれ(._.)」

 ケンタッキーフライドチキンも食べられますように!

 アハハハハ((´∀`*))

 みんなで笑っているといつの間にか倉田先生が覗いている。

「しかし、ほとんどのが『~しますように』の形に収めてるなあ。指定したのか?」

「あ、指定したわけじゃないんですけど」

「サンプルが『七夕の夜が晴れますように』なんです」

「そうか、サンプルに引っ張られたか」

「幼稚園では『~しますように』ってやってましたから、習い性じゃないですか?」

「三つ子の魂だな……わが国の国語教育が反映されているというわけだなあ……いや、勉強になった」

 なんだかシミジミしながら先生は行ってしまった。

「先生、それとなくチェックしにきたんだねえ」

 けして深そうにではなく真知子が呟く。

「うん、こういうのを生徒と教師のいい関係って言うんだろうねぇ」

「こんな感じでやっていけるといいねえ」

「ところで、みなさん!」

 え?

 振り返ると、ロコが腰に手を当て、反対の左手の指を立てている。

 名探偵コナン!

 冷やかしてやろうと思ったけど、この時代アニメのコナンはおろか、マンガの連載も始まっていないだろうから、やめる。

「20日に銀座にマクドナルドの一号店が開店します!」

「あ、行きたーい!」

「歩行者天国もやってるのよねえ!」

「部活があるから、お土産に買って来てぇ!」

 みんなテンションが高い。

「あれ、グッチはどうなんですか?」

「反応薄いわねえ」

「え、あ、そんなことないよお(^_^;)」

 ううん……マックなんて令和じゃ宮之森の駅前にだってあるしねえ。

 ちょっと焦り気味にテンション合わせて、夏休み中に有志を募ってマックを食べに行くことになった!

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)080・二人して渡り廊下の窓辺に寄った

2024-07-05 07:03:50 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
080・二人して渡り廊下の窓辺に寄った 





 理由は二つだろう。


 とりあえず、きまりが悪いんだ。

 中山先生といっしょに廊下で出くわした。先生はすぐに「お、松井須磨!」と気づいてくださった。

 朝倉さんはギョッとして、次にワタワタしだした。

 松井須磨という名前にギョッとしたんじゃない。

 だって、朝倉さんは演劇部の副顧問だ。

 めったに顔を合わさないと言っても、五月からこっち数回は顔を合わせている。七月には、部員一同を引率して地区総会にも行った。

 松井須磨という名前にも馴染んでいる。なんたって四人しかいない演劇部なんだ。それも六回という大阪で最多の留年回数を誇る問題生を知らないわけがない。

 知らないのは、その松井須磨が同級生であったという事実。

 朝倉さんは、同級生であったころから、わたしなんかには関心が無かったんだ。学級写真とか卒アルとか見ても、たまたま写り込んだ何かの影ぐらいの認識なんだろうねえ。

 それは非難されるべきものじゃない。

 惣堀高校というのは一応は伝統校で、伝統校にはありがちな無関心さがある。

 中山先生も、すすんでクラスの融和を図るようなことはしなかった。だから、クラスの半分くらいとは口もきかずに卒業していった。もっとも、わたしは留年ばっかして未だに二十四歳で現役の生徒だけども。

 二つ目の理由は、朝倉さんは真面目な教師だということ。

 教師たる者、かつての同級生くらいは分かっていなっくっちゃ。

 そう思ってる。

 だから、中山先生が、わたしを見かけて「お、松井須磨(''◇'')!」と、懐かしさ全開で呼びかけたことを眩しく感じている「アハハ、やだあ、そうだったんだあ(ノ≧ڡ≦) !」 とテヘペロでもかませればいいんだけども、真面目で不器用な彼女にはできないんだ。

 トイレに行こうと廊下を歩いていたら、渡り廊下をこちらに歩いてくる朝倉さんが目に留まった。

 気まずさの解消と、ちょっとした悪戯心で二階への階段を上がる。

 二階に上がると職員室。普通に歩いていったら出くわすはず……が、出会わない。
 
 千歳が車いすで提出物を運んでいるのに出くわす。

 段ボール箱を膝の上に載せている。箱の中に一クラス分の提出ファイルが入っている。

 偉いもんだ。足が不自由なのに、当番だったんだろう、一人で運んできたんだ。

「失礼します、一年二組の沢村です、朝倉先生いらっしゃいますか……」

 あ、朝倉さんの授業だったんだ。

 このままじゃ千歳の無駄足になってしまう。

「千歳、わたしが持ってってやる」

「あ、先輩」

 段ボール箱を取り上げると、渡り廊下に急いだ。

 朝倉さんは、渡り廊下の窓から中庭を眺めて時間を潰していた。

「朝倉さん」

 ちょっと悩んだけど、自然に呼びかける。

「職員室の前で、1-2の沢村さんが届けにきてたから」

「え、あ、あ、ありがとう(◎o◎,,) 」

「どういたしまして、えと……人が居ないところじゃ『朝倉さん』でいいわよね?」

「え、あ…………」

 ゲシュタルト崩壊して息が停まってる( ゚Д゚)!

「ね?」

 ドサっと段ボール箱を押し付ける。

「うん、松井さん」

「それじゃ……失礼します、朝倉先生」

 酸欠の鯉のようになった顔はさすがに気の毒で、ペコリとお辞儀して行き過ぎる。

 と、もう一人変な奴がこっちに来るのが目に留まる。
 
 演劇部の天敵、瀬戸内美春だ。

 いつも通りの高慢ちきならシカトするんだけど、珍しくしょげている。

 朝倉さんと話せた勢いで声をかけてしまった。

「どうしたの副会長?」

「あ、松井さん」

 元気は無かったけど、てらいのない返事が返ってくる。天敵の生徒会だけど、彼女の優れたところだ。

「なんだか、わたしに続いて六回留年しそうな顔してるよ」

「ハハ、まさか……て……それ以上かもね」

「うん?」

 そう言うと、二人して渡り廊下の窓辺に寄った。

「実は、ミッキーがうちに来ることになったの……」

「え?」

「ハァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 そう言うと長いため息をつく天敵……まるで、そのまま体が萎んで消えてしまいそうなほどに深くて長い溜息だった。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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