大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・061『間人皇女の秘密を知って草原に』

2024-07-22 13:58:58 | カントリーロード
くもやかし物語 2
061『間人皇女の秘密を知って草原に』 




「これが織姫さまよ」

 しゃがんで手を合わせるわたし、ネルは片膝ついて手を組んで祈ってくれる。

 同じように祈っても、わたしは傘地蔵に手を合わせる村娘みたい。ネルは流浪の姫騎士が額づいているようでカッコいい。

 御息所もわたしの膝小僧の上で手を合わせて、なんだか、ここからワンクール13回の異世界アニメが始まるみたいだよ。

「さあ、行きますか」

 キーストーンを取り返す旅は、やっと天の川を超えたところだ。

 ネルをうながして、先に進む。

「花がじゃまにならない?」

 織姫さんからもらった花をポケットにさしているので、御息所には邪魔じゃないかしらと声をかける。

「ううん、とっても穏やかな気持ちになれて、いいぞよ」

「なんだか寝てしまいそうな顔をしているぞ……て、もう寝てるし」

「フフ、これから役に立ってもらうこともあるだろうから寝かせておこう(^_^;)」

 すこし歩くとお花畑の丘のてっぺん。

「ここが鞍部だな」

「あんぶ?」

「あ、てっぺんのことだ。馬の鞍ほどに高くなったところで、山というほどには高くないところを指すんだ」

 長身長の美少女エルフが含蓄っぽく言うとメチャクチャかっこいい。

 御息所は花の茎にダッコするようにして寝ている。こいつも大人しく寝ているとフィギュアみたいでかわいいよ。

「しばらくは草原だね」

「ああ、彼方は霞んで見えないけど、気を引き締めていこう」

「おお(^〇^)!」

 わたしは腕を挙げ、ネルは耳をピンと立てて意気軒昂さ!

「もぉぉ、声大きい……」

「ごめん、起こしちゃったぁ?」

「…………」

「あ、また寝たぁ」

「起きてるわよ……」

「額田さんがな、花園の向こうは草原になっているけど、草原を抜けるまでは何と出会ってもやっつけてはいけないって言ってたぞ」

「え、なんでぇ?」

「それ以上は言ってくれなかった、なにか差しさわりがあるという感じだったぞ」

 それは……言霊(ことだま)ということかもしれない。日本にいる時も、神さまやあやかしをハッキリ言わないのがあったよ。アレとかソレとか、かの者とかその者とか。いちばん強敵だった二丁目断層も思えば変な名前、ほんとうはあやかしのボスとして別の名前があったのかもしれない。

 そう言えば、ポケットの御息所だって『六条の御息所』って言うだけで名前は知らないよ。交換手さんだって、ただ交換手さんだし。

「やくも、あんた大化の改新っていうのは知ってるわよね」

 御息所が変な質問をする。

「え、ああ、中大兄皇子が藤原のナントカさんといっしょに蘇我のクジラ……じゃなくてイルカをやっつけたの。ムシゴハンだから……645年かな」

「よしよし。その中大兄皇子が後の天智天皇だというのも知っているだろう」

「もちよ!」

 実は忘れてたけど。

「日本の古代のクーデターだろ!」

「おお、ネルえらい!」

「アニメで見た」

 おお、アニメは偉大だよ。

「その中大兄皇子が天皇になるのは大化の改新の二十三年後なのさ」

「「ええ、23年後!?」」

「資格がありながら位に就かないのを称制っていうんだけど、歴史上二例しかないのよ。二十三年も位に就かなかったのは中大兄皇子一人だけだし」

「なぜだ?」

 ネルは、自分のお父さんが人間と結婚して王位につけなかったんで気になるんだね。

 ザワ

 いっしゅん風が吹いて草原の草がざわめいた。

「天智天皇の妃は間人皇女(はしひとのひめみこ)というのは知ってるだろ」

「うん」

「あれは、天智天皇の妹なのよ」

「え!?」

 ネルが目を剥く。

「あ、でもさ、あの時代って、腹違いの兄妹とかは結婚できたとかじゃなかったっけ」

「そうよ、伯父(あるいは叔父)と姪の結婚も珍しくなかったしね」

「だったら……」

「天智天皇と間人皇女は同腹の兄妹なのよ」

「「ええ( ゚Д゚)!?」」

 ザワザワザワ……

「さすがに、みんなドン引きしたわ。だから間人皇女が亡くなるまでは天皇にはならなかった、なれなかった……」

 ザワザワザワ……ザワザワザワ……ザワザワザワ……!

 いっそう草原のざわめきが激しくなってきたよ!



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)097・もっといいこと考えたんだ!

2024-07-22 07:18:56 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
097・もっといいこと考えたんだ! 






 注目されてしまった……オレンジパン店の前で。


 わたしの独り言を聞きとがめて薬局のオジサンが「演劇部でポルノ?」と声を上げたから。

 オジサンは演劇部の大先輩でもあり、部室棟害虫発生事件の時にお世話にもなっている。

「え、あ、いや、そういうんじゃないんです!」

 ハタハタとワイパーみたく手を振るが、オジサンやベンチに腰掛けてメロンパンをパクついているお客さんたちの注目を浴びてしまっている。

 あからさまに聞きとがめたのはオジサンだけだけど、店の前だけじゃなく向かいの総菜屋さんまで耳をダンボにしている。

 無言の好奇心というか野次馬根性というかは、無言であるがゆえの圧がハンパではない。

 いっそ、あれこれ言われた方が説明がしやすい。


 ……というわけなんですよ。


 千歳の感動ポルノという悩みを説明してオジサンたちには分かってもらえた。

 我ながらきちんと言えたと思う、高校八年生だけのことはある。

「そうか、千歳ちゃんの悩みも分かるけど、あんまりこだわるなという須磨ちゃんの意見の方が正しいように思うなあ」

「そうでしょ」

「しかしなんやなあ、あんたの制服姿は板につきすぎてるなあ」

「で、ですか(^_^;)」

「普通にしてたら、当たり前の惣堀生やねんけどな、そうやって話すと、なまじしっかりした物言いで滑舌のええ標準語やろ、なんや女優さんが高校生の役やってるみたいや」

「せや、日活ロマンポルノの女子高生みたいや(^▽^)!」

 総菜屋のオッサンが向かいから茶々を入れる。

「ロ、ロマンポルノ!?」

「〇祭ゆき! 美〇純! 原 〇子!」

 知らない名前を叫ぶオッサン、言い方と表情で往年のポルノ女優さんたちだと見当が付くので「アハハハ」と空気を壊さないように愛想笑いをしておく。

「総菜屋! 調子乗り過ぎ!」

 オジサンが忠告しオレンジパンの店先がにわかに活気づいた(^_^;)。

「しかし、なんやなあ、あの時代やったら、ほんまに日活のスターになれたんちゃうかなあ」

「せやせや、大島渚あたりがほっとかへんで!」

「愛のコリーダや!」

 大島渚は亡くなりましたけど……

 なんともハジケたオッサンたちは始末に負えない。


 しかし、これで、わたしの心は決まった。


「千歳、やっぱ役者で出るのはやめておこう」
 
 朝一番に千歳に言ってやった。

「あ、あ、やっぱそうですよね。ありがとうございます! とても気持ちが楽になりました!」

 悩んでいたんだろう、とても晴れやかな笑顔になった。

 理由は言わなかった。理由付けよりもしっかり言ってやることの方が大事だと思ったから。

 迷ったまま舞台に立っても、いい結果は出ない。

 たかが文化祭の舞台だけども、リアルに人の目に晒されるということに変わりはない。

 わたしくらいに開き直って「ポルノ女優!」と囃されるくらいの人間でなきゃいけない。

 でも、わたしは出たりはしないよ。


 もっといいこと考えたんだからね。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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