やくもあやかし物語 2
「ねえ、あなたたち川の向こう側に行くんでしょ?」
ただのきれいな人かと思っていたら、間近に見る額田王は少女のようにワクワクして目が輝いて、このままシャンプーとかのCMに使えそう。
「え、あ、はい?」
「だって、この丘を越えたら天の川。天の川を超えなければ次には進めない」
「あ、そうなんですか?」
「うん。わたしもそろそろ大津宮に戻る時間だし、わたしの代わりに届けてきてもらえないかしら」
「乙姫さんにですか?」
「うん」
「あ、でも七夕は二日前に……」
「そうね。でも、年に一度のデートでしょ、三日ぐらいは気持ちが残って川のこちら側を見てため息ついていらっしゃるわ」
「え、そうなんですか!?」
「そうよ、そういうものよ!」
御息所が顔の上半分だけ出して主張する。
「あら、あなたは六条の……」
「しまった!」
「フフフ、あなたなら分かるでしょ、こじらせた恋は災いのもと……」
「ウウ……(-_-;)」
「それから耳長さん」
「え、わたしか?」
「はい、それだけお耳が長ければいろんなことが聞こえると思うの」
「え、あ、まあな」
「ちょっとお耳を拝借」
額田王はわたしと変わらない背丈なので、ネルは膝に手を付けて耳を貸す。
「ヒソヒソ……」
「……う、うん、分かった」
「それでは。このクエストを達成すれば道が開けると思いますよ。川沿いには無粋な役人たちがいるかもしれませんが、逆らわなければ邪魔をされることもないと思います(^○^)」
「ありがとうございます」
「あ、それから、耳長さんは少しお耳をお隠しになった方がよろしいかしら」
「あ、うん」
シュポン
耳を引っ込めるネル。初めて会った時のイメージになって懐かしい(004『ルームメイトはネル』)
「では、お気をつけて(´∀`)」
傾げた小首の横で小さく手を振って侍女のところに戻って丘の向こうに消えていく額田王。
「……なんか、素敵な人だな。アドバイスとかもしてくれたし」
「それはね、二人の恋人の将来にたちこめる暗雲もあるからよ。少しでも善根を積んで回避したい気持ちがあるからでしょ」
「え、そうなのか?」
「そうよぉ、壬申の乱の原因の一つは……イテ!」
「もう、不吉なことばっかり言うんじゃないわよ!」
「デコピンすることはないでしょ!」
預かった花かごを持って花畑の丘を越えたよ……。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王