大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・057『額田王の頼み事』

2024-07-09 10:49:57 | カントリーロード
くもやかし物語 2
057『額田王の頼み事』 




「ねえ、あなたたち川の向こう側に行くんでしょ?」


 ただのきれいな人かと思っていたら、間近に見る額田王は少女のようにワクワクして目が輝いて、このままシャンプーとかのCMに使えそう。

「え、あ、はい?」

「だって、この丘を越えたら天の川。天の川を超えなければ次には進めない」

「あ、そうなんですか?」

「うん。わたしもそろそろ大津宮に戻る時間だし、わたしの代わりに届けてきてもらえないかしら」

「乙姫さんにですか?」

「うん」

「あ、でも七夕は二日前に……」

「そうね。でも、年に一度のデートでしょ、三日ぐらいは気持ちが残って川のこちら側を見てため息ついていらっしゃるわ」

「え、そうなんですか!?」

「そうよ、そういうものよ!」

 御息所が顔の上半分だけ出して主張する。

「あら、あなたは六条の……」

「しまった!」

「フフフ、あなたなら分かるでしょ、こじらせた恋は災いのもと……」

「ウウ……(-_-;)」

「それから耳長さん」

「え、わたしか?」

「はい、それだけお耳が長ければいろんなことが聞こえると思うの」

「え、あ、まあな」

「ちょっとお耳を拝借」

 額田王はわたしと変わらない背丈なので、ネルは膝に手を付けて耳を貸す。

「ヒソヒソ……」

「……う、うん、分かった」

「それでは。このクエストを達成すれば道が開けると思いますよ。川沿いには無粋な役人たちがいるかもしれませんが、逆らわなければ邪魔をされることもないと思います(^○^)」

「ありがとうございます」

「あ、それから、耳長さんは少しお耳をお隠しになった方がよろしいかしら」

「あ、うん」

 シュポン

 耳を引っ込めるネル。初めて会った時のイメージになって懐かしい(004『ルームメイトはネル』)

「では、お気をつけて(´∀`)」

 傾げた小首の横で小さく手を振って侍女のところに戻って丘の向こうに消えていく額田王。

「……なんか、素敵な人だな。アドバイスとかもしてくれたし」

「それはね、二人の恋人の将来にたちこめる暗雲もあるからよ。少しでも善根を積んで回避したい気持ちがあるからでしょ」

「え、そうなのか?」

「そうよぉ、壬申の乱の原因の一つは……イテ!」

「もう、不吉なことばっかり言うんじゃないわよ!」

「デコピンすることはないでしょ!」

 預かった花かごを持って花畑の丘を越えたよ……。

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)084・イベントにする気!?

2024-07-09 06:55:13 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
084・イベントにする気!? 






 惣堀商店街は西に向かって緩い下り坂になっている。


 商店街は道幅が狭く採光が悪いので、ちょっと薄暗い。

 この坂道を下って学校に至るので、登校の時はちょっと凹む。生徒会の副会長なんかやってるから学校大好き少女だと思われるかもしれないけど、実はそうでもない。

 好きではないんだけど、嫌いなものをそのままにしておくと嫌いのスパイラルに落ち込んでますます嫌いになる。だったら、少しでも抗ってやろう……という姿勢なんだ。
 不合理な制度や決まりを変更し、文化祭や体育祭などの行事を企画して、みんなが熱中している姿や、その成果に喜んでるところ、多少窮屈そうにしていても、わたしが企画して整えた秩序の中で動いている。それを感じるのが好きなんだ。

 春先にグータラ演劇部をぶっ潰してやろうと乗り込んだら、逆に部活成立要件である『最低部員数5人』の規定を変えられてしまった。生徒数が規約が決められた時代の半分なのだから最低部員数も減らすべき……さすがは高校八年生の松井須磨、敵ながら見事だった。

 でもね、全部が楽しいわけでもないし、思い通りにいくわけでもない。戦う、抗う、挫けない、そういう緊張感が救いになって、嫌だと思う気持ちをねじ伏せている。だから朝の通学路は微妙に凹む。

 逆に下校時は坂道を上る。

 下校の開放感と、谷町筋に向かって明るく開いた出口が坂の上に見えていることもあって素敵。

 多少いやなことがあっても、明日は良いことがあるかもとか思える。良いことがあると、もうちょっと良いことが続くんじゃないかと思わせてくれる。

 わたしたちの前を薬局のオッチャン・オバチャンが谷町筋に向かっている。

 洗剤を買って、学校の話に花が咲いた。

 お二人は惣堀高校の卒業生で、奥さんは絵里世(エリーゼ)という名前のドイツと日本のハーフだ。

 喋っている分には完璧に薬局のオバチャンなんだけど、こうやって歩く姿を見ていると、腰高にシャキッとした姿勢はアッパレ、ゲルマン人! わたしが洗剤を買った後、商店街の寄合があるというので、いっしょに店を出たんだ。

「良い感じの御夫婦だね……」

 坂道効果なのか、ミッキーはのぼせた感じで言う。なに頬っぺた赤くしてるのよ!

 オッチャンもオバチャンも、わたしたちを好意的に見てくれた。

 日米高校生の組み合わせが、男女の違いは逆なんだけど、自分たちの青春時代のロマンスと重なるところがある様子。

 でもって、ミッキーは、オッチャンオバチャンの好意に羽を付けて妄想たくましの様子。

「なによ、この手?」

「あ、ごめん」

 両手の荷物を左手にまとめ、空いた右手を肩に回してきやがった。

 ちょっとしたことなんだけど、許してしまえばズルズルになる。

 夕闇のゴールデンゲートブリッジを見下ろしながら迫って来た前科があるんだからね。

「じゃ、ここで。帰ってくるころには夕飯出来てるからね」

「やっぱ、ミハルといっしょに帰るよ」

「だめよ、領事館の用事は最優先で済ませておかなきゃ」

「でも、大そうな荷物だよ」

「食材以外はミッキーに任せるから、じゃね」

 食材のレジ袋だけをかっさらって、ちょうど青になった横断歩道を渡る。

 ホームステイ先が変わったので、ミッキーは領事館に手続きに行かなければならないのだ。
 同じ地下鉄に向かうんだけど上りと下りに分かれる。もっとも谷六駅のホームはアイランド型なので上りも下りも同じなんだけど「男には付いて来て欲しくないところに寄るの」と言って断ってある。
 
 信号渡り終えても背中に熱エネルギーを感じる。振り返ると案の定、ミッキーが子犬みたいな目で手を振っている。

 ハズいけど、邪険にもできず下げたままの左手をソヨソヨ振っておく。

 奴が地下鉄の昇降口に消えてホッとため息。

「待っへはわよ……」

 舌足らずが聞こえてきたと思ったら、角のたこ焼き屋さんからたこ焼き頬張ったままのミリーが出てきた。

「わたしたちもお供します~(o^―^o)ニコ」

 なんと軽やかに車いすを操作して千歳も現れ、それから……

「え、ええ!……演劇部全員!?」


 演劇部は、わたしの料理講習をイベントにしてしまう気だ!
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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