大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 002・原級留置告知式・2

2024-07-25 17:16:04 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

002:原級留置告知式・2 





――こ、これが講堂?――

 
 入学式以来久々の講堂に入ると、その内部は入学式の時よりもさらに広くなっていて、一階席も二階席も星々のスピリットでいっぱいだ。よく見ると入学式には無かったはずの三階席もうっすらと見えて、そこにも鈍く光るスピリットたちがひしめいている。

 壁や天井には銀河をモチーフにした壁紙や装飾があったはずなのだが、それはVRの3D映像のように立体的になっている。
 あたかも、講堂の内部が銀河宇宙の中に放り出されたように幻想的な広がりを持っているのだが、留年の申し渡しに呼ばれたと思っているアルテミスは悪い冗談としか思えなかった。

 同じ留年生のベロナが入学式の時と同じようなアルカイックスマイルで表情が読めないこともアルテミスをいら立たせる。

 舞台の上には入学式と同じ演壇が置かれて、少し後ろには演壇を挟むようにして審査員席のような裁判官席のような壇が設えられている。

 舞台の下には、四人分の椅子が置かれていて、真ん中の二つには『留年生席』、両脇の二つには『付き添い者席』の文字が点滅している。

 講堂の内扉から留年生席までの通路は銀河鉄道のホームの端から端ほどもあって両側は物見高い星々の、つまりは学校の生徒や教職員やPTAのスピリットたち。十字架こそは背負っていないが、まるでゴルゴダの丘に登るキリスト、とんださらし者だとアルテミスはさらに不機嫌になる。

 威風堂々?

 ベロナの呟きで、静かに流れているのが入学式の時と同じエルガーの行進曲だと気づくが、機嫌の悪いアルテミスには入学式から今までの学校生活をチャラにされたような気がして面白くも有難くもない。

 え?

 座ってから小さく驚いた。

 席は『留年生席』『付き添い者席』とあるだけで区別が無かった。それが、戸惑うことも迷うことも無く、左からカグヤ・アルテミスとベロナ・マルスと並んで座った。

 些細なことだが、こういう自分の意志以外の何かに導かれているのは面白くないアルテミスだ。

 スルスル

 子供向きアニメのような音がして舞台の端にマイクがせり上がってきた。司会者が出てくるのかと思ったら、さっきまで前を歩いていた宮沢校長だ。

 入学式じゃ、教頭のジョバンニが立って司会をしていた――ということは、演壇にはもっとエライやつがくるのか?――とアルテミスは思ってキョロキョロ。

「始まるわよ(^_^)」

「分かってる(-"- ) 」

 ベロナの一言はやっぱりムカつく。

「ただ今より、本年度昴学院高校の原級留置告知式を挙行いたします。一同、起立」

 ザザ

 何万人いるんだろうというぐらいの音がして会場の全員が起立。さすがに緊張する。

 いつの間にか演壇後ろの席には二年生担当の先生たちが神妙な顔で立っている。

「礼」

 ザワ

「着席」

 ザザ

「本年度原級留置を申し渡される者、月のアルテミス、火星のベロナ、起立」

 ザ

「それでは……あ……」

 演壇に振ろうとしたら、誰も居ないことに気付いて焦る校長。

 シャララ~~ン

 するとメルヘンなエフェクトをさせながら天女のような人が客席の後ろの方からシズシズと舞い降りてきた。

 胸ポケットからハンカチを出して汗を拭く校長。

 ギリギリまで畑仕事をしているからだと思うアルテミスだが、さすがに口にはしない。

 捻った首を戻す時に上を向いたベロナの顔を美しいと思う。瞬間ベロナと目が合って反射的にムッとしてしまう。ベロナはニコッとして、もう一つムッとしてしまうアルテミス。

「アマテラス理事長より原級留置の申し渡しとお言葉をいただきます」

 校長が紹介すると、それまでのにこやかな笑みを引っ込めて、理事長は無慈悲に宣告した。

「月のアルテミス……火星のベロナ……両名に本年度原級留置を申し渡します」

「「ハ、ハイ」」

 さすがに緊張して上ずった返事になる二人。

「ここからは座ってもらってかまいません……本校数百年ぶりの原級留置、簡単に言えば留年、落第です。従来ならば、新二年生の中に入って新たに二年生をやってもらうのですが、校長先生や学年の先生方とも協議して、本年度はやり方を変えます」

 え?

 ええ?

 意外の声は二人の留年生だけではなく、講堂の全員から起こった。

「昴学院建学の理念は、よりよい銀河宇宙の発展に寄与するスピリットの養成にあります。明日の銀河世界のために二人には特別の使命を帯びてもらいます」

 特別の使命……?

「月のアルテミス、火星のベロナ、あなたたちは母星の運命を知っていますね……どうですか?」

「「はい」」

 これには頷かざるを得ない。めったに聞くことも口にすることもないのだが、月と火星には運命がある。星としての誕生した時からの抗しがたい運命が。

「あなたたちの留年は、その運命に果敢にも抗うための志があってのことと、このアマテラスは理解しています。だからこそ使命を与えます」

 アルテミスは後悔した。ベロナに誘われて「もう一年気ままな二年生ができるなら」と留年したのだが、特別な使命があるなどとは思ってもいなかったのだ。

 参列の星々やスピリットたちも何事かと息を潜めている。

「バカにつける薬を探す旅に出てもらいます!」

 え…………?

 あまりに意外の使命に式場のほとんどのものが言葉を失ってしまった。

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・236『西へ』

2024-07-25 11:55:39 | 小説4
・236

『西へ』孫大人 




「ん、なんで西に進むアルか?」


 山海関を出て奉天に戻る道を走るのかと思ったら、筋斗雲はそのまま西に向かって走っている。

「なに言ってんの、自分でも西が危ないって思ってるくせに」

「一度、奉天に戻ってからと思たアル」

「カルチェタランなら大丈夫、老婆婆と鈴麗が居る。あの二人の方が店と街に関しては悟兵よりも分かってる」

「そうアルな。とりあえず満洲里アル」

 満洲里とはハルピンの西方400キロ、モンゴルの東に位置する街で、モンゴルの街でありながら「満州」ではなく「満洲」とキチンと表記する由緒正しい街アル。たぶん、大昔は満州の勢力がこのあたりまであった名残りアル。

「了解」

「なんで、西が危ない思うアルか?」

「そりゃあ、さっきのミサイルはフェイント、あるいは観測気球。力技でぶつかりあったら、すぐに本格的なパルス兵器同士のぶつかり合いになるでしょ。本格的な世界大戦は両国とも避けたい、21世紀の大失敗も有ったことだし。両国ともモンゴルを挟んで通常兵器の密度が高いし、平原ばかりだし通常兵器でドンパチやるにはうってつけだし」

「フフフ……」

「なによ、気持ち悪い」

「東鈴、世界で最初の共産国はどこアルか?」

「え、ソ連でしょ、100年もたなかったけど」

「では、二番目はどこアルか?」

「モンゴル」

「なんでモンゴルアルか?」

「ソ連に隣接してるし、影響受けやすかったからでしょ」

「フフ……理解が浅いアル」

「なんかムカつく(^_^;)」

「モンゴルは中国から逃げたかったアル。歴史的にいじめられてばかりだったアルから、ソ連の親類になるのが手っ取り早かったアル」

「あ、でも、モンゴルの南半分は長いこと中国に入って自治区になってたでしょ。いま向かってる満洲里とかそうだし」

「逃げ遅れて中国に掴まったアル」

「そうなんだ……そうか、その記憶を刺激すれば、わりと簡単に自分の勢力圏に取り込めるとロシアは思うわけか」

「ちょっと高度をとって欲しいアル」

「え、飛んだら目立つよ」

「そこをうまくやって欲しいアルよ、飛んだ方が距離稼げるアルし」

「へいへい」

 東鈴は器用に高度10メートルほどを維持して飛んでくれるアル。

「少し落としてくれアル」

「気づいた?」

「ああ……これは……」

 木の間隠れに手入れの行き届いたAP機が見える。

「でも、あんな旧式機、役に立たないでしょ」

「いや、そうでもないアル」

 AP機とはアンチパルス波動機。つまり、パルス機関やパルス兵器を無効化する防衛兵器アル。

 モンゴルは豊かな国ではないので最新のAP機ないアル。漢明や先進国のパルス機器や兵器を無効化することは難しいアルが、それをピカピカに整備していることの意味は大きいアル。

 モンゴルはパルス機器は大嫌い! 使う奴も大嫌い!

 という意思表示にはなるアル。

 つまり、このモンゴルで事を起こそうとしたら、児玉元帥言うところの元亀天正の戦争をやるしかない。

 あの『北京秋天』の絵を思わせるマンチュリアの空の下で繰り広げられた満州戦争のことが思い起こされたアルよ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)100・敷島先生と言うよりは八重桜

2024-07-25 07:00:37 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
100・敷島先生と言うよりは八重桜 





 敷島先生と言うよりは八重桜。

 図書室の主にして文芸部顧問で人権推進部部長で組合の文会長。教科は国語、わたしも一年で現国、三年の今は古文を習っている。

 年齢不詳だけど女の勘で五十代の半ばだと見ている。幾つに見える? 二度ほど聞かれたけど、先生への礼儀として五歳くらい若い年齢を言っておく。生徒会役員を二年も務めれば、それくらいの気は回せる。

 八重桜というニックネームは彼女の出っ歯に由来している。

 花(鼻)よりも前に葉(歯)が出る。という意味で、彼女が新任で来た時からのニックネーム。当時の生徒会長が付けたらしい。

 嘘か真か、ご本人はニックネームの意味を知らない。生徒会長が命名した時に彼女は中庭の八重桜の下に居た。ハラハラと散る花びらが彼女の肩やら頭やらに降り注ぐので、生徒会長は、こう申し上げた。

「これからは、八重桜の君と呼ばせていただきます」

 彼女は、授業で源氏物語を教えていたところだったので、イケメン生徒会長が雅やかにも源氏物語のノリで言ってくれたのだと合点した。だから『八重桜』と呼ばれても悪い気はしない。

 今年の大河ドラマは『光る君へ』なので密かに――自分の年が来た!――と験を担いでいるようなフシがある。常々NHKの解体民営化を標榜している女史だけど、今年は口にすることはないだろう。

 どっちかというと苦手な先生なので、必要が無ければわたしから話しかけることは無い。

 バサ

 その八重桜女史が四階への階段を上りきったところで紙束を落としてしまった。

 紙束は階段の上昇気流に一瞬舞い上げられ、フワフワと舞い落ちた。

 三百枚はあろう紙が一階までの階段を花びらのように散り下った。

 生徒会室から職員室へ向かっていた私は、他の役員と一緒に舞い散った紙を拾い集めた。

 最初の一枚を拾って、それがK党の選挙ビラであることが分かった。正確にはK党が全力で推している、ついこないだまではR党だった無所属候補のR女史のだが。

 街で渡されたら速攻ゴミ箱かポケットにしまい込まれるしろもの。

 直観的に学校でまき散らして良いものではないと思った。

 だから、みんなでせっせと拾って四階から下りてきた女史に手渡した。

「窓から飛んでったのもありますけど、一階まではこれだけだと思います」

「どうもありがとう、あ、そういや明日は投票日だったわね。あなたたち三年生でしょ?」

「自分は期日前投票をすませてきました」

 会長が言うと、女子は露骨にわたしを見た。いっしょの会計は二年生で選挙権が無い。

「明日は投票日、お天気悪そうだけど、きちんと投票にいきましょうね!」

 そう言うと、もう一度チラシを広げてから立ち去った。


「あれ、偶然を装った選挙運動やな」


 会長はニヤニヤして顎を撫でた。

「ほんとに期日前投票したの?」

「ああ言うとかんと、八重桜に選挙違反させるからなあ」

 そう言いながら、姑息な八重桜女史を面白がっている。

 もともと左翼は大嫌いなんだけど、学校の廊下で話題にするのはもっとイヤダ。


 職員室へ向かうと、出てきたばかりの八重桜とすれ違う。


 今度は、なにやらざら紙の冊子を持っている。

「八重桜さん、演劇部の演出かって出たらしいで」

 不快な感じがした。

 基本的に天敵の演劇部だけど、女史が演出かなんだか演劇部に働きかけるのはイヤダ。

 演劇部の三年は松井須磨だけだけど、立場を利用して明日の選挙の話とかは許されないと思う。

「なんや、留学生二人をメインに据えて、気合入ってるみたいやで」

「あ、そ」

「なあ、いっかい見に行けへんか、国際交流と文化部の視察。意義深いで」

 この会長が「面白い」という意義以外で行動することなどありえないんだけど、他の役員も乗り気になったので付き合うことにした。

 で、わたしは八重桜への認識を大きく修正することになった。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする