大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 001・原級留置告知式・1

2024-07-23 13:55:24 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

001:原級留置告知式・1 






 下ノ畑ニ居リマス  賢治


 チ!


 小さな黒板に書かれたメモを見ると、舌打ち一つしてアルテミスは崖を駆け下りて行く。

 弓と箙(えびら)は瞬間のうちに姉のカグヤに投げられ、夕べ念入りに寝押しした制服のスカートは千切れんばかりにはためき、せっかく納得させたアルテミスの『恭順の意』は満開の桜を文字通りの花吹雪に変えながら消し飛んでいく。

 あ~~~~

 ため息をつくと、そんなカグヤをクスリと笑う者がいる。

「すみません、カグヤおねえさま」

「あ、ベロナちゃん」

「相変わらずですねアルテミス。でも、わたくし安心しましたのよ、こんなことになってしまって意気消沈してるんじゃないかって。やっぱりアルテミスは元気が一番です」

「ありがとう、持つべきものは友だちねぇ……」

「?」

「あ、ごめんなさい、つい(;'∀')」

「フフフ、大丈夫です。同じ留年生同士、しっかりやっていきますわ」

「えと、今日はベロナちゃんお一人で?」

「いえ、兄のマルスが付いて来てくれているんですが、黒板のメモを見て下の畑に行ってしまいました。軍神ですけど根は農耕神ですから人の農作業は気になるようです」

「そう、……」

「フフ、もうひとつ、気になりますよね」

 ニッコリと自分の顔を指さすベロナ。

「あ、いえ(^_^;)」

「なぜ、生徒会長のわたしが留年したのか」

「学年末テストはぜんぶ受けなかったとか……あ、ただの噂だけど」

「いえ、噂通りです。テストは一つも受けていませんのよ」

「え」

「自分でも全てが分かっているわけじゃないんですけど、このまま三年生になって卒業してはいけないような気になったんです。モラトリアムの言いわけかもしれませんけど……あ、来たみたいですよ」

 崖の下から三人の足音が上がってくる。

 二つは落ち着いた大人のそれだが、もう一つはまだまだ不機嫌なアルテミスだ。

「もう、さっさとやってよねえ! 狩猟期間はあと二週間しかないんだから!」

「アルテミス!」

「ああ、ごめんてば。ちょ、頭抑えんなよ」

「もうしわけありません校長先生、マルス将軍」

「いやいや、つい畑仕事に熱中してしまって」

「いや、わたしがあれこれ校長先生に質問したりご教示頂いたりしていたもので。申し訳なかったカグヤ殿」

「アルテミスもお詫びしなさい」

「え、ああ……さっきは生意気言ってすみませんでした……て、下の畑でも言ったんだけど」

「けじめよけじめ」

「さあ、では講堂の方にいきますか」

「え、講堂でやるんすか!?」

 てっきり、黒板のかかっている校長の小屋で行われるものと思っていたアルテミスだけでなく、校長以外の三人も驚きの色を隠せなかった。

 昴学院、本年度の原級留置告知式は、学院最大の施設である大講堂で行われようとしていた。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • 宮沢賢治           昴学院校長
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)098・その千歳が落ち込んだ

2024-07-23 09:00:07 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
098・その千歳が落ち込んだ 





 日本のproverbに『人間万事塞翁が馬』というのんがある。


 良いことが悪い結果を招いたり、悪いことが良い結果を招いたり、人生は分からへんもんやという意味。

 ホームステイ先のお婆ちゃんに聞くと「禍福あざなえる縄のごとし」という言葉も教えてくれた。

 これは、人生は良えこと悪いことを三つ編みみたいに捩ったようなもんやという意味で――人生捨てたもんやない!――というAKBのヒット曲みたいな含蓄がある。

 ミッキーを説教しに行って、やっちまった捻挫がこじれて車いすの世話になって二週間。

 とんだ不幸やったけど、車いす大先輩の千歳といっそうの仲良しになれた。

 惣堀高校はバリアフリーのモデル校やけど、それでも身体障がい者が普通に生活するのは大変なんやと、それこそ身をもって知ることになった。

「もー、見てられません!」

 にわか車いすが危なっかしくって、千歳は拳をふるって宣言。電動車いすをやめた。

「このほうが小回りが利くんです」

 あくる日からは自分のを人力に替えてきた。じっさいに小回りが利くためか、わたしが人力なので合わせてくれたのか、たぶん後者の方やねんやろうと済まない気持ちになった(-_-;)。

「ほらね!」

 クルクルクルクルクルクルクルクルクル(^▽^)!

 廊下で車いすバスケットの選手のようにクルクル回って見せてくれる。

「わたしもやるぅ!」

 クル……クル……クル(^_^;)

 真似してやってみるけど、千歳の半分もでけへん。

 それでも、速さは出ぇへんけど乳酸は出るわけで、2分もやると腕やら肩やらの筋肉がパンパンですわ。

「あーーもうあかぁぁぁん(''◇'')!」

「ハハ、無理しない無理しない(^_^;)!」

「しかし、この細っこい体のどこに筋肉が付いてんのんよぉ?」

「アハ、いっしょにお風呂入ったら分かりまーす」

「よし、こんどいっしょに入ろう!」

 約束はしたけど、健常者のようにはいかへん。

 介助者がいるし、介助者も含めて四人が一度に入れるお風呂は一般家庭には無い。

 まあ、その場のノリで出てきた掛け声みたいなもんやから、それっきりになってる。


 その千歳が落ち込んだ。


 文化祭で演劇部が芝居をやることになったからや。


 でも、何年も芝居をやったことのないパチモン演劇部。何をやってええのか分からへんで、図書室で鳩首会議。

 なかなか決まらへんで唸っていると、図書部の敷島先生(彼女は八重桜というニックネームなんやけど、その意味は分からへん)が『夕鶴』という芝居を提案して、ついでに主役を千歳に押して決まってしもた。

 それから千歳に元気が無い。

 車いす仲間として放っておかれへんので聞いてみたけど「え、なんでもないです(^_^;)」と笑顔を向けてくるばっかり。

 ちょっと寂しい。

 演劇部で一番仲良しになったと思ってたけど、やっぱアメリカ人のわたしには越えがたいバリアーがあるような気ぃがした。

 外国人にとって日本は居心地のええ国やけど、居心地の良さは観光客でも長期留学生でも変わらへんねんけど、結局はお客さんというところがあって、容易には心を開いてもらわれへんねんやろか……と、ちょびっと寂しい。

 それで三日ほど、千歳とは距離が出来てしもた。

 ドアというのは押すか引くかすると開くものなんやけど、心のドアは簡単やない。

 せやから下手に気ぃつかわんと、そっと見守っている。

 アメリカやったら、友だちがこんな風に変わってしもたら、息のかかるくらい近くに寄って肩に手ぇかけて「黙ってたら分からへんがなあ」と声をかける。それで、友だちが傷ついていたらガシっとハグする。

 でも、ここは日本や。忖度とか以心伝心とか空気を読む日本なんや。


「ちょ どいてどいてえ(><)! 通してええ(>▭<)!」


 朝礼間近の廊下、ロードレースみたいな勢いで千歳の車いすが突進してきた! 

「ちょ、ち、千歳えええ!!」

 キキキーー!

 激突寸前、器用に車いすを急停車、赤い顔で宣言した。


「ミリー先輩! 先輩が主役をやるんですよ!」


 え! なんやて( ◎Д◎)!?
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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