せやさかい 番外
001『パリオリンピックの朝』さくら
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/c0/dbf15728dbed0eed866861e2ecc5cf5f.jpg)
「船乗り込みとは粋やなあ(^▢^)」
おとつい入れたばっかりの入れ歯を宣伝するみたいに大口開けて感激するお祖父ちゃん。
おっちゃんも急な仮通夜から戻って来て衣のまんま、ビール飲みながら中継を観てる。
テイ兄ちゃんは、半パンにTシャツで『副住職』いう名札でも掛けてんと僧侶には見えへんナリとアホ面で、とうに空になったグラス持って画面にくぎ付け。
おばちゃんはヒラリに納めるパンの仕込のために、キッチンから時おり顔を出してはリビングのテレビを観てる。
留美ちゃんはウチと並んで床に座って画面に食いつき、うちらがさっきまで座ってたソファーではブタネコのダミアが大あくびしとおる。油断してると、ウチの膝の上に載りたがるねんけど、重たいし暑いし『メ!』を十回ぐらいカマしてどかすことに成功。
おっちゃん:「加藤さんもオリンピック楽しみにしてはったなあ……」
加藤さんは、おっちゃんが仮通夜務めてきた檀家さん。夕べ亡くならはって、急きょおっちゃんが仮通夜から骨上げまでお世話することになった。
テイ兄ちゃん:「船乗り込みてなにぃ?」
留美ちゃん:「プフ(* ´艸`)」
周回遅れの質問に留美ちゃんが笑いをこらえる。
お祖父ちゃん:「子どもの頃に連れてってやったやろが、松竹座とかで歌舞伎興行の前に、役者さんやらが船で道頓堀を上って来る景気づけのイベントや」
テイ兄ちゃん:「ああ、帰りに食い倒れでお子様ランチ食べた、あれ?」
おっちゃん:「しかし、オリンピックの規模でやるとメチャクチャドラマチックやなあ……」
たしかに、船乗り込みの後、陽が沈みかけると、一騎の騎士がオリンピックの旗をマントみたいにしてセーヌ川を駆けてきて、CGかと思たら、ロボットみたいで、それがそのままエッフェル塔のてっぺんに掲げられる!
留美ちゃん:「え、あの騎士、人だよ女の人!」
テイ兄ちゃん:「え!?」
女の人いうだけで目の色変える生臭坊主。
確かに陸に上がるとほんまの馬に乗り換えて(設定は、馬のまま陸に上がったことになってるみたい)各国の旗を従えて橋を渡ってエッフェル塔へ向かう姿はオルレアンのジャンヌダルクか!? Fateのセイバーか!?
今日は久々に如来寺の全員が集まって(詩ちゃんはヤマセンブルグやけど)パリオリンピックの開会式を観てるんや。
ウチも留美ちゃんも学校よりは声優と俳優の仕事がメインの生活になってる。
学校に行けるのは週に三日ほど。それでも現住所は堺の如来寺。ちょっときついけど、新幹線やら飛行機を使って大阪と東京を行き来する毎日。
こないだは、新幹線が一日止まってしもて、これだけで特別版の一本ぐらいの内容があるくらい。とにかく忙しい。
ウチは、もう決めてるし、留美ちゃんも密かに決心してる。
卒業したら、まだしばらくは声優、俳優の仕事を続けようと。
来年の春アニメ『鳴かぬなら 信長転生記』の話が決まった。ウチが信長、留美ちゃんがお市。
留美ちゃんは本業は俳優やけど、声優の仕事もやってる。貪欲というよりは謙虚な子ぉなんで、基本的に仕事のえり好みはせえへん。
それに、ウチと留美ちゃんは姉妹みたいなもんやし、学校も住まいもいっしょやし、これは充実した稽古環境やと大人たちが考えたんやと思うけどね。
あ、そうそう、先輩の百武真鈴さんが武田信玄の役で支えてくれはります。
高校卒業と同時に始まる放送。ウチらも人生の区切やと思ってがんばります。
明け方近くまで開会式を観て、床についたら夢を見た。
夢の中にマリーアントワネットが現われて、ウチに、こんなことう言う。
マリー・アントワネット:「どうも5年間ありがとう」
さくら:「え、なんですかぁ?」
マリー・アントワネット:「わたしの猫に素敵な名前を付けてくださって、5年も世話をしてくださって」
さくら;「え、えと……ダミアのことですか?」
マリー・アントワネット:「はい、パリオリンピックでは迎えに行くと、あの子にも約束しましたからね。ほんとうにありがとう」
思い出した……子猫のダミアを拾った時、マリー・アントワネットの夢を見たんや(084『前の廊下で話声がする』)!
さくら:「ええ、ちょっと待ってください、マリー・アントワネットぉ! ダミアぁ!」
朝起きてみると、ダミアはベッドの下の定位置で冷たくなってた……。
ゆうべ、ウチの膝の上に来たがったのを邪険に拒んだことが悔やまれる。
おっちゃんもテイ兄ちゃんも檀家周り。お祖父ちゃんがお葬式をやってくれることになる。
ウチも留美ちゃんも東京で仕事、帰りは週明けの火曜日。
この暑い季節、いつまでも置いとかれへん。
せやさかい、お祖父ちゃんが全てを引き受けてくれる。ダミアは二代目で、先代のダミアもお祖父ちゃんが見送ったらしい。
「そんなに泣きな、ダミアはお浄土に帰ったんや」
「う、うん……」
「それにな、ダミアは仏さんがさくらのこと心配して送ってきはったお使いやねんで」
「え?」
「ダミア……逆さに読んだらアミダやろが」
「あ…………」
テイ兄ちゃんが言うたらシバイてたと思う。せやけど、お祖父ちゃんが言うと、なんや説得力がある。名付け親はお祖父ちゃんやし。
「さくらも留美ちゃんも、もう心配ない。そう思て阿弥陀さんはダミアをお迎えに来はった」
「けど、夢に出て来たんはマリー・アントワネットやねんけど」
「そらぁ、パリオリンピックやし」
「…………」
「うん、せやさかい、なんにも心配せんと仕事しに行き」
「う、うん」
「ほんなら、手ぇ合わせとこか」
「う、うん」
ナマンダブナマンダブ ナマンダブ……
留美ちゃんと二人、本堂に安置されたダミアに手を合わせて仕事に行く。
迎えのタクシーに乗ろうと思たら、通りの向こうに世界遺産のごりょうさん(仁徳天皇陵)の緑が目に眩しい。
せやさかい、時どきはウチと留美ちゃんと如来寺のお便りをしようかと思います。
ほんなら、とりあえず蝉しぐれの堺から、酒井さくらでした。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか 中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行)
声優の人たち 花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎
さくらの周辺の人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか 中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行)
声優の人たち 花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎
さくらの周辺の人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)