宇宙戦艦三笠
「間もなく完全惑星直列。一時間でピレウスに着けば、見つかる可能性はないわ」
舵輪を握りなおして樟葉が呟く。
俺たちは、完全に惑星が直列になるのを待っていた。それが今、グリンヘルド、ピレウス、シュトルハーヘンの三ツ星が串刺し団子のように一列になりかけている。惑星直列に成れば、三つの惑星の磁場が影響して直列の垂直方向に盲点ができるらしい。一番発見されにくい瞬間だ。
「最大戦速10分。あとは慣性速度でピレウスに到達」
「周回軌道に入ったら発見されてしまうわ」
「周回軌道は1/6周で、ピレウス火山風上の森の中に着陸」
「針の穴に馬を通すようなものね」
「樟葉の腕を信じてるよ……」
「横須賀に帰ったら、ホテルのスィーツバイキングおごりね……クレア、目的地までアナログでいくから」
アナログ……さすがに息を呑んだが口にはしない。
言われたクレアだけが小さく聞き返した。
「大丈夫……?」
「デジタルのオートだと、0・005秒惑星直列から外れる。発見される恐れがあるわ。トシ、出力は最大戦速9分45秒。それ以上だと、エネルギー残滓を検知される。いいわね」
「分かりました。タイミングだけはきっちり教えてください」
トシは、死んだ妹を思った。自分が気づいてやるのが、もう少し早ければ、妹は死なずにすんだ……。
「発進まで10秒……」
ブリッジの全員がデジタルカウンターを見つめた。5秒でトシは目をつぶり、カウンターではなく樟葉の呼吸に集中した。これに成功すれば、妹が生き返る……そんな妄想が頭を占めた。
「5……4……3……2……今!」
三笠のクルーの心が一つになった。完全なタイミングで三笠は発進した。
「…………うまくいきました! 三笠の発進エネルギーの残滓は探知レベル以下、着地点は目標から30メートルずれただけです。デジタルでも、ここまで正確にはいきません!」
クレアが感動の声で賞賛した。
偶然だけど、目標地点は地面の傾斜角が30度もあり、そこに着地していれば三笠は転覆していたかもしれないことが分かった。ブリッジの窓から見える風景は、地球で言うカンブリア紀のようで、周囲の木々の高さは十分に三笠を隠していた。
そのまま三日が過ぎた……なんの変化もなかった。
ピレウスの森は原始のジャングルのように鬱蒼としていたが、予想していた生物の反応は無かった。外からの観察では人類以外の生物の反応はあったのだ。そして、この三日、植物系以外の生命反応は無い。
「三笠にも、みんなにも劣化や老化の兆候がありません……」
トシが、首を捻りながら呟いた。
「三笠にバリアーが張ってあるからじゃないの」
「この程度のバリアーなら、ピレウスの滅んだ文明にもあったと思います。このジャングルの下にはピレウス古代文明の軍事基地の残滓があります。ジャングルに覆われているので比較的劣化が遅いので、技術レベルが分かります」
クレアが、三笠の下の軍事基地の残滓をモニターに写した。残滓からでもかなり進んだ文明の様子が読み取れた。
「火山の方角から生命反応。微弱だけれど……人間よ!」
その人間は、ピレウス火山を背に、ゆっくりと三笠に近づいてきていた……。
☆ 主な登場人物
修一(東郷修一) 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉(秋野樟葉) 横須賀国際高校二年 航海長
天音(山本天音) 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ(秋山昭利) 横須賀国際高校一年 機関長
レイマ姫 暗黒星団の王女 主計長
ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
メイドさんたち シロメ クロメ チャメ ミケメ
テキサスジェーン 戦艦テキサスの船霊
クレア ボイジャーが擬人化したもの
ウレシコワ 遼寧=ワリヤーグの船霊
こうちゃん ろんりねすの星霊