せやさかい・211
ちょっと太ったんじゃない?
そう言うと、さくらと留美ちゃん、お母さんまで虚を突かれたような顔をしてわたしを見る。
それからの反応は三人三様。
さくらは『バレたか(^O^;)』という感じで頭を掻く。
留美ちゃんは『え(;'∀')?』と怯えたように目を点にする。
お母さんは『何を今さら(ー_ー)』と平然を装う。
「あはは、みんなのことじゃないわよ(^_^;)」
コロナ自粛も一年と半年。
コロナの間に、高校を卒業して大学生になり、あれだけ熱心にやっていた吹部からも遠ざかり、相棒のサックスもケースに入れっぱなし。
これはマズいと、久々にサックス出して、それでも人恋しくてリビングに隣接する八畳間で手入れをしていた。
すると、だれにも構ってもらえなくなったダミアが膝に乗ってきた。
ダミアは、一昨年、さくらたちが拾ってきた子猫。
最初の内は、それこそねこっ可愛がり。
なんせ、ちっちゃくて、つぶらな瞳で、モフモフで、『可愛』という文字が生き物に化けたらこうなるって感じだった。
お祖父ちゃんまで、むかし飼っていて、永久欠番になっていた飼い猫の『ダミア』の名前を付けてくれた。
これは、ジャイアンツの新人に背番号『3』が与えられるようなもの。
ダミアはメインクーンという種類の、マリーアントワネットも飼っていたという高貴な種類の猫で、大人になると並みの猫の三倍ほどになる。
そいつが、サックスの手入れをしているわたしの膝の上に乗ってきたのだ!
不意に乗ってきたこともあるんだけど、思っていたよりも重い!
で「ちょっと太ったんじゃない?」になって、我が家の女性たちに要らぬ衝撃を与えてしまったというわけ。
「よし、散歩に行くぞ!」
ダミアを散歩に連れ出す。
一年前、さくらが面白がってダミアにリードを付けて散歩に引っ張り出したことがある。
その時の首輪とリードを持ってきて装着。
「いざ、出陣!」
景気を付けて境内に出るわたし。リビングの方からは『ようやる~』『だいじょうぶ?』『がんばれ!』とかの視線を感じるけど、まあ、ダミアは末の妹のようなもの。お姉ちゃんがしっかりしないでどうすんだ!
しかし、標準の三倍のブタネコは山門の前まで出たところで、尻餅をついて動かなくなってしまう。
「散歩だって言ってるのにい……!」
十キロを肥える、いや超えるブタネコは微動だにしない。
山門の前を通るご近所さんたちに目を丸くされる。新聞配達のオニイサンは遠慮なく笑っていくし、ゴミを漁っていたカラスまでも「アホーー」と笑って飛んでいく。
めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
「もう、また今度だ!」
宣言すると、ブタネコが笑った。
「ニャハハハ」
そして、悠然とリードを引きずったまま本堂の階段を上がっていく。
くそ!
フギャ!
わたしの怨念が通じたのか、ブタネコは、五段目を踏み外して、ゴロゴロ、ベシャッ!
一番下の石畳に転げ落ちて『笑うな!』という顔をした。