せやさかい・175
大阪一の残念さんは木村重成やなあ( ^^) _U~~。
お茶をすすりながらテイ兄ちゃんが言う。
木村と言うとパンの木村屋しか知らんうちはポカンとしてるけど、他のみんなは「おお!」という顔をしてる。純粋のヤマセンブルグ人のソフィアさんまで「おお!」と言うのにはひけ目を感じる。
こういう時に黙ってるとくすぶってしまうんで、陽気に手を挙げる。
「キムラシゲナリさんて、なに?」
みんなは「え?」という顔をするけど、聞くは一時の恥やからヘッチャラな顔をしとく。
「木村重成いうのは、豊臣の家来でな、秀頼と同年齢の若者や。大坂夏の陣で大坂城がいよいよあかん言う時に出陣してな、若江いうとこで討ち死にしたんや。首は家康の前に運ばれて首実検したんやけどな、家康は『敵ながら惜しい若者を死なせてしまった』と涙ぐんだらしい。どうも、以前から重成を見込んで引き抜き工作をしとったらしい。それで、首を自分のそばまで持って来させると……」
「知ってます! です」
ソフィアさんが手を挙げる。
「わたしに話させてください、です!」
「うん、そんならどうぞ……」
「シゲナリの首からは、とってもいい香りがしたんだそうデス。イエヤスが不思議に思って調べさせると、シゲナリのヘルメット……えと、カブトには香が焚きしめられていて、いい匂いがするようになっていました。大坂の陣は五月、いまの暦では七月だったので、打ち取られた首が腐った臭いさせないためにという気遣いだったそうです。それで、イエヤスは『サムライとはこうありたいものじゃ!』と感激したという話です!」
「うん、その通りや。ソフィアさん、よう知ってるなあ」
「領事館で習いました、ボスが大阪や日本のあれこれレクチャーしてくれますデス。でも、シゲナリがザンネンサンは知りませんでした。デス」
「そうか、それやったら、ちょうどええわ。重成さんのお墓見にいこか!」
アホのテイ兄ちゃんは、さっそくポケットから車のキーを取り出す。
鼻の下が伸びとおる。
「今からやと、戻ってきたら夜になるんちゃう?」
「あ、あかんかな?」
留美ちゃんと銀之助が顔を見合わせて「ちょっと……」いう目をしてる。
テイ兄ちゃんは、理屈をつけて頼子さんといっしょに居たいだけやから、あたしも反対する。
「ほんなら、日を改めて、みんなで行くことにしようよ」
そう提案して、日取りはメールのやり取りで確認することにした。
まあ、頼子さんもテイ兄ちゃんを嫌ってるわけやないさかい、ええねんけどね。
なんか、やってこましたいあたしは、ちょっとイケズなんかもしれへん。