コッペリア・31
なんか変だったんですよね、昨日は……休憩室で横になってたら、あたしの分身が現れて、その日の仕事を全部やってくれたんです。
でもね、ちゃんと仕事の中身も自分がやったみたいに憶えてるんですよね。
でも、なんか実感が乏しくて。
でね、生まれて初めて心療内科って行ったんですよ。
そしたら先生が疲れからくる離人症だって。あたしって直ぐに頷いちゃうんだけど、分かってないんですよね……でも、調べると半分寝てる状態で、やることはやっちゃうって、なんか心理的な自己防衛らしいんです。
まあ、調子はともかくAKPの総監督ってのは、こんなに忙しいもんなんだってこと、分かってもらえるかなあ……?
アハハハハハ
仲間や後輩たちが笑う気配。
どうやら、矢頭萌絵は、疲れた末に、なんだか夢のようなことをやったと思っているらしい。
栞は安心してAKPのホームページを閉じた。
萌絵と入れ替わったことは、本人も含め、夢のような話で終わったようだ。
あとは、咲月の合否だ。
大仏康と話はつけたが、最終決定権は大仏にある。以前も土壇場で合格者を変更している。
――受かった!――
メールが夕べ遅くに咲月からやってきた。
二つ目も安心。
で、今日学校に行ったら、驚くことが二つあった。
咲月の合格が、静かに広まっていたこと。
AKPの合格者はネットで公表される。むろん住所や学校名なんかは出てないけど、咲月は、このAKPのために留年までしていて、半分くらいの生徒と先生の全員が知っている。
みんなは、なぜ咲月がAKPにこだわったかを知らない。
だから、十七にもなってAKPのオーディションを受け、そのために落第までしたことを半ばバカにして見ていた。それがコケの一念で合格すると評価は百八十度変化した。
――今回の十二期生は粒ぞろいですよ!――
大仏康の講評も後押ししてくれて、咲月は一晩で、神楽坂高校のヒロインになってしまった。
予想以上の反応に、栞も我が事のように嬉しかった。
そして、朝のホームルームで驚いた。
今日は身体測定と内科検診なのである。
検診で裸になることは恥ずかしくない。
そういう神経は颯太が命を吹き込んでくれた時から持ち合わせていない。
問題は内科検診。
見かけは人間そっくりだけど、元はビニールの外皮に塩ビの骨格である。
レントゲンや心臓検診をやったら人間でないことが分かってしまうんじゃないか?
心配だ……。