大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)141・先輩のレクチャー

2024-09-04 07:22:05 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
141・先輩のレクチャー 小山内啓介 





 惣堀高校のグラウンドは地平線が見えると噂されるくらいに広いんです。

 その広いグラウンドの真ん中に無事にヘリコプターは不時着したんです。グラウンドが広いので、そんなには大きく見えません。北浜高校が合同練習を申し込むだけのことはあります。

 せやけど、ヘリコプターが巻き起こす風はハンパやないんですねえ。

 女子のスカートが翻るのは、まだ御愛嬌。グラウンドの砂がトラック一杯分くらいは吹き飛ばされてしもて、白線で引いたダイヤモンドがベースごと吹き飛ばされました。
 なんとかホームベースは残ったけど、試合再開には時間がかかりそう……と思ったら、警察やら消防やらが来て現場検証があるとかで、九回の裏にして試合は中止になってしまいました。

 試合の相手は京橋高校やったんです。府立高校で一番グラウンドの狭い北浜高校が、校舎の建て替えにともなってよその学校のグラウンド使うための名目で合同練習を申し込んできて、素直に受けたら、北浜のボール拾いにしかなりません。

 そこで、マネージャーの川島さんたちが奮闘して、府立高校の二番目にグラウンドの広い京橋高校との試合をすることになりました。負けた方が北浜にグラウンドを使わせる、つまり北浜の球拾いをやることですねえ。

 昔取った杵柄で、川島さんの策略で9回の裏、ピンチヒッターに立ったところでヘリコプターの不時着というわけです。

 緊急の校内放送でグラウンドに居てるもんは校舎に引き上げならあきません。

 さっさと逃げなら!

 そう思ったら、車いすのトラブルで取り残されてる千歳……沢村さんが目に入ったんです! ミリーと須磨先輩が付いてるんですけど、車いすを動かすどころか沢村さんを連れていくこともでけへん状態でした。

 えらいこっちゃ!

 バットを放り出して三人のとこに全力疾走しました。

「俺がやる!」

 そう叫んで、沢村さんを抱え上げて避難しました……。


「というわけですよ」


「ふーーーん……」

 グビグビグビ

 須磨先輩はつまらなさそうに缶コーヒーを飲み干した。

「こんな感じでええでしょ」

「まあね……」

 今度のヘリコプター不時着事件で、PTA新聞から取材を受けることになっているんや。
 PTA新聞担当のオバサンは元新聞社勤務だったとかで、取材能力に長けているだけではなく、引退後も系列の週刊誌なんかにも寄稿していて、まあ、その道のプロなんだとか。

 だから、あらかじめ整理しておかんとどこで突っ込まれたり、角度の付いた記事を書かれるかわからへんというのが先輩の心配で、先輩相手に予行演習というわけなんや。

「北浜の球拾いってところは、公には言わない方がいい。京橋と戦って負けた方が自分のグラウンドで北浜と合同練習。そう書いておくだけで分かる人には分かるからね」

「あ、そうですね」

 やっぱり高校八年生、言うてもらわなら、そのまま喋るとこやった(^_^;)。

「千歳をダッコして、校舎に着くまでのとこ、もうちょっと聞かせてくれる」

「そんなん、ほんの一分ほどやから……無我夢中で、気ぃついたら本館の玄関やったし」

「……でもね、みんな直ぐ近くの南館に逃げたんだよ。本館まで逃げたのは啓介たちだけだったんだよ」

「それは……ほ、本館の方がより遠いし、ほら、保健室とかも近いでしょ(;^_^……というか、夢中やったんで憶えてないんですよ(>○<)」

「じゃあ……わたしの想像でトレースしてみるわね」


 そう言うと、先輩は腕と足をを組んで俺と同じ姿勢をとった。


「無我夢中で、そのあと校舎の中に行くまでは記憶がない……というのは嘘。千歳を抱え上げると思いのほかの軽さに衝撃を受けた。この年頃の女の子は見かけよりも重たい。妹とケンカするとプロレス技をかけられることがある。本気になってはいけないので、たいていやんわりと投げ飛ばして終わりにするんだけど、妹はもっと重い」

「はあ」

「やっぱり車いすの生活が長いから腰から下が萎えていて、その分軽くなってるんだろう……右の腕(かいな)に感じた千歳の足腰は華奢過ぎて、人形を抱いたみたいに頼りなくて、それでも、血が通っていて暖かくて、それに、なんだかいい匂いがして、ドキドキした」

「あ、ちょ……」

「クンカクンカ……なんてしちゃいけないから、顔は横向けて息は必要最小限に、でも、人を抱えて走るんだから、やっぱり激しく呼吸はしてしまうわけで……千歳も自由の利く手を回してしがみ付いてくるし、もう息のかかる近さに千歳の顔が迫って、なんか、ちょ、ヤバくってえ(''◇'')ゞ」

「ちょ、先輩(>д<)!」

「なにぃ、もうちょっと描写したいんだけど、千歳のオッパイがムギュって胸に当って狼狽えたとことか」

「う、狼狽えてませんから(>▢<)!」

「狼狽えてたよ、だからトチ狂って本館まで走ったんだし。そんなに否定したら、かえって勘ぐられるわよ」

「いや、だーかーらー(>〇<)」

「啓介、あんた童貞だろ(⩌ ̫ ⩌ )」

「なっ(''◇'')」

「こういうとこ突っ込まれるとオタオタするだけだから。ね、取材で触れられたら、面白おかしく誘導されて、実際以上に熱っぽく書かれてしまうって。思うでしょ?」

「そ、それは……」

「するとね、啓介も千歳も、実際以上に自分の気持ちを誤解してしまうって」

「誤解?」

「あの子を……千歳を好きになるのは、もっと覚悟がいる。あの子の人生丸抱えしてやる勇気がね……」

「そんなことは……」

「アハハ、だーかーらー『夢中やったんで憶えてないんですよ』なんて言わないで、ありのまま喋った方がいいよ。その方が、余裕があって、シリアスな突っ込まれ方しないから。ね」

「は、はあ」

「じゃ……あ、飲んじゃったんだ。ごめん、コーヒー買ってきてくれる? お代はレクチャー代ってことで(o^―^o)」

「はいはい」

 俺は、食堂前の自販機まで走っていくのだった……。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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銀河太平記・245『ハナの皮膚を張り替える』

2024-09-03 15:10:47 | 小説4
・245

『ハナの皮膚を張り替える』 メグミ




「新造した方が早いんだけどねえ……」

「フフ、メグさん、三回目だぞ」

「あ……でもねえ」

 つい言ってしまう。

 胸の皮膚を張り替えてやりながら、つい口に出てしまう。

 ハナの義体は世代も型番も違う寄せ集めで出来ている。そのために、全身を同じ規格の表皮で覆うことができない。当然色合いも質感も異なり、見た目にはほとんどフランケンシュタインだ。
 
 西之島戦争では全損といっていいダメージを受けたハナだけど、コアブレインが無事だったので奇跡的に復元してやることができた。
 思えば、あの時に新造ボディーにしてやれば良かったんだけど、早く現場に戻りたがったし、正直ハナ一人に十分な時間や資材をかけてやる余裕も無かった。本人も全然平気にしていたしね。取りあえずは首から上と肩から先の見てくれだけを整えてやった。

「着替えの度にバイトの子が卒倒するようじゃなあ」

「あ、まあ、それもそうだけどな」

「とりあえずは、腕と胸から上だけはやっておこう」

「何分ぐらいかかる?」

「まあ、半日だね」

「半日もジッとしてんのかよ!?」

「辛抱しろ、いちおう外国に行くんだ人をビビらすことのないようにしとかなくちゃな」

「あ、ああ、分かったよ。でもさ、半日黙ってたら死んじまうからよ、なにか話してくれよ」

「そうだな、こんな機会もそうそう無いだろうしな」

 昨日の『KMミリタリー』を見てマイ(児玉元帥)さんが現地に行くと言い出した。

 青銅の騎士がひっかかったんだ。

 青銅の騎士はロシアが作ったロボット騎士。個体によっては人の脳を使っているという情報もあって、それを信じるならハナと同様、義体化が進んだ人間ということになるけど、詳細は秘匿されているのでロボットにカテゴライズされている。

 製造にあたってはパルス動力の工作機械を騎士一機の製造に一台摺りつぶすほどに使われており、特に骨格と外殻は並のパルス特殊鋼の数倍の強さがあると言われ、運動性能と抗堪性(こうたんせい) は世界一だと言われている。
 それに、動力はパルス機関ではなくボディーに収められた超小型核融合炉なので、AP機の影響を受けないし、道義的責任を問われることもない。

 マイさんや王春華のスペックなら倒せないことも無いだろうが、重装甲の戦闘艦を撃破するくらいの手間と時間がかかる。まして、青銅の騎士は人の形と大きさ。数はそれほど多くは無いだろうが、連携してかかって来られたら攻撃できる時間も限られる。

 まあ、それもこれも含めて現物を見て、対策を考えようというのがマイさんの狙いなんだろう。

 阻止しなければならないのは、ロシア軍の漢明への侵入だ。侵入したとしても数個騎兵旅団でどうこうできるほど漢明は甘くない。せいぜい、数時間か数日か侵入した事実を残せるだけだ。
 しかし、ほんの数日でも居座られては漢明の威信が揺らぐ。威信が揺らげば、周辺国は漢明を侮り、国内的にも安定を欠くことになる。せっかくPIに成功して順調に内政を立て直しつつある劉宏政権の土台を揺るがすことになる。

 今の劉宏政権なら日本や西之島との平和的共存の道を探っていくに違いない。漢明が再び武断的政策をとるようになれば、漢明自身にも大きな損失、後退になるだろうし、世界の恒久的平和も絵に描いた餅になり果ててしまうだろう。

 地球が乱れれば月や火星も不安定化し、宇宙規模で言えばようやく緒に就いたばかりの太陽系の開拓、銀河宇宙への進出にも望ましくない影響が出るに違いない。

「なあ、一人で自分の世界に入られたら、退屈で仕方ねえんだけど」

「え、ああ、ごめんごめん(^_^;)。ハナはさ、将来の夢とかあるのか?」

「夢? 夢なら、もう叶ってるぞ」

「そうなのか?」

「うん、食うに困らなくってよ、なんでも言える仲間がいてよ、仕事もあってよ。食堂と神社と鉱山。一人で三つもこなせてよ、シゲジイもお岩さんも口は悪いけどよ、なんか、お袋と親父みたいでよ。メグさんは姉ちゃんみたいだし、バイトの連中は近所の手下って感じで。ハナ的には言うことねえ」

「そうか、そうなんだ」

「ああ、そうさ。だからよ、この島守ることなら、なんだってしてやる」

「それは心強いな」

「おお、任せとけ」

「でもさ、ハナはまだまだ若いじゃないか」

「お、おう。永遠の十七歳ってやつだ」

「ハハ、なんか似合わねえ」

「うっせー!」

「お姉ちゃんだからな」

「くそ、余計なこと言っちまった(;'∀')」

「旅行したいとか思わないのか?」

「え、ああ……」

「どうしたぁ?」

「西之島以外じゃ、その……いいこと無かったしな」

「ハナが見た世界なんて、ほんのハナクソみたいなもんだぞ」

「あはは、ハナクソかぁ……うん、クソにはちげえねえよ」

「いつか世界が平和になったら、お姉ちゃんと世界旅行に行こう!」

「世界旅行? メグさんとかあ?」

「いやか?」

「あ……それもいいけど、島のみんなで行くのもいいなあ」

「団体旅行かぁ……」

「それと……」

「それと?」

「え、あ……なんでもねえ」

 それから、ずっとあれこれ脈絡もなくお喋りして、最後に皮膚の定着をし終わった時、この妹分は静かに寝息を立てていた。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)140・九回の裏!

2024-09-03 07:26:54 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
140・九回の裏! 小山内啓介 




 日曜日のグラウンド。

 迷走台風が有りったけの雨を降らせたあとは、どこにしまい込んでたんやと思うくらいの真っ青な青空が広がって、上空にはなにかの取材のためにヘリコプターがのんびりと飛んでいる。その秋空の下、空堀と京橋二校の練習試合が行われている。


 そして……八回の裏になろうと言うのに双方一点も得点が無い。


 甲子園やったら――実力伯仲! 双方攻守ともに優れたプレーが続く! 互いに得点を許しません!――てな感じで朝日放送の実況が入って、選手も応援団も熱が入るんやろうけど、この試合はあかん。

 書くことも憚られる凡ミスばっかりで、互いにランナーを出して得点につなげることがでけへん。

 力んでないと言えば多少マシなんかもしれへんけど、とにかく覇気が無い。

「よぉし」とか「おお」とか「かっとばせえ」とか「どんまい」とかの掛け声が散発的に起こるんやけど続かへん。

「くわっとばせえ!」

 カン

 五回の裏で三塁打をかました俺が叫んで、なんとかヒット。

 バッターは一塁ベースを踏むんやけど、どうせ得点には結びつかへんいう気持ちがアリアリと出てて、川島さんが手をメガホンにして「よし!」とガッツポーズしても――まあまあ――ちゅう感じで手を挙げよるだけ。

 次のバッターは易々と三振に取られて――残念!――という感じと違って――やっぱりなあ――になる。

「くっそお!」

 そんな中で、田淵一人が熱い。

 さすがはエース……と思うんやけど、頭だけカッカして、余計にミスが増えるばっかし。

 マネージャーの川島さんはスコアをつけるほかは、さっき「かっとばせえ!」と檄を飛ばした以外は学食で会った時と同じ笑顔で座ってる。

 しかし、腹の中は煮えくり返ってるのが、ついさっき分かった。

 田淵がツーアウト一二塁、ひょっとしたらという局面であっさり三振に終わった時。

 ボキッ!!

 笑顔のまま、鉛筆を握りつぶしてしもた(^_^;)

 え? 鉛筆の折れを握った手ぇから血が滴り落ちてる……。

――ごめんね、小山内君――

 口の形だけで謝る川島さん。

 俺を代打に使ってたらという思いやねんやろなあ。笑顔を返すんやけど、ちょっと引きつってたかもしれへん。

 ちなみに、惣堀に監督は居てない。

 顧問兼監督が春に転勤して以来、顧問は茶道部の女先生。実質的に野球部を引っ張ってるんは川島さんと田淵や。

 ネット脇には演劇部の三人が見に来てくれてる。

 積極的に知らせたわけやないけど、食堂でのイザコザはけっこう話題になって三人の知るとこになってしもたんや。

 ビジュアル的には三人とも目立つ。

 須磨先輩は六回目の三年生で、もう大人の魅力。千歳は車いすにチンマリと収まって可愛らしく、ミリーは掛け値なしの金髪碧眼の美少女。

 三人を見慣れた惣堀の生徒はともかく、京橋の生徒はアニメの中から出てきたヒロインみたく眩しい三人に半分以上は気持ちを取られてる。京橋もあんまり試合に熱は無い。

 三人は野球部の応援のために来てるのではない。

 グータラ部長の俺が昔取った杵柄っちゅうか、川島マネージャーの色香に迷って中学以来のバッターボックスに立ついうので、ただただ珍しいもの見たさで来てる。

 せやから、俺がバッターボックスに立つ以外には興味がないんやと思う。

 この三人がキャーキャー言うてくれたら、京橋の連中、気をとられて隙ができるかも。

 言うてるうちに九回の裏。気持ちが抜けた惣堀は九回の表で京橋に二点を許した。

 そして九回の裏、惣堀は再びツーアウトランナー一二塁。

 と、川島さんの手が上がった。

「バッター交代、小山内君!」

 ゲ、ここでか!?

「小山内君、お願い、ホームラン打って!」

 バッター交代を宣言した足で俺の前に立って手を合わせた。

 小山内ガンバレエエエエエエエ!

 演劇部の三人娘も黄色い声をあげて敵味方の注目を集める。

 ち、気楽に言ってくれるぜえ!

 俺は、バットを二回スィングさせて、闘志をフルチャージ!

 バッターボックスに向かうと、絶好のシャッターチャンスと思ったのか、上空で取材中のヘリコプターの爆音が大きくなってきた。

 バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ!!

 え、ちょっと近過ぎひんか?


 え? え!? 


 グラウンドに居る者みんながビックリしていると、すごいボリュームで校内放送が流れた。

『ヘリコプターが緊急着陸します! 緊急着陸します! グラウンドに居る人は、ただちに校舎内に避難、ただちに避難! 避難してくださいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(>▢<)!!』

 俺は、バットを持ったまま呆然とする。

 二秒ほど間があって、京橋も空堀も、一目散に校舎に駆けだす。

 俺も逃げよう……と思ったら、演劇部の三人に目がとまった。


 え!?


 千歳の車いすがトラブって、三人とも身動きが取れなくなってるやないか!

 俺は、バットを振り捨てて、三人の所へ駆けだした!


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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馬鹿に付ける薬 012・曙谷 初めてのダンジョン

2024-09-02 11:25:04 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

012:曙谷 初めてのダンジョン 




 曙の谷に三人は着いた。

 差し渡し50メートル、深さは平均5メートル、深いところでも8メートルほど、谷底への傾斜もさほどには無く、幅の狭い盆地といったところだ。

 谷底には森というほどではないが、所どころに木がまとまっているところがある。そこを避けて通れば手ごろなハイキングコースと呼べるくらいにのどかで、そうと言われなければ分からないくらいの穏やかさだ。

「あの木がまとまっているところがダンジョンだ。いちおう森と呼ばれているが、書類上の名称でな、始まりの町以外で言うと馬鹿にされる。ダンジョン以外でもモンスターは出るが確実ではない」

「森を通るんですね」

「サッサとやっちまおうぜ……って、どこに行くんだ?」

 気の早いアルテミスが下りようとすると、プルートは谷への坂道ではなく、ちょっと横の岩のところに向かった。

「なにかの石碑ですかぁ?」

「メニュー表だ」

 プルートが手で突くと、グルンと石碑が回ってメニューが現れた。

「固定が甘いんで、時どき裏向きになる……日替わりでなあ、何が出ても大したことはないんだが……」

 メニュー表には『Kスライム』と『Kウルフ』と書いてある。

「よし、時どきKスケルトンというのが出るんだが、下手な狩り方をすると粉々になる。服や装備につくと面倒なんだ」

「ああ、クリーニングは町まで戻らなきゃですものね」

「行くぞ」

 プルートは迷わずに一番手前の森の前に飛び降りた。

「ちょ、待てよオッサン!」

 続いてベロナとアルテミスが駆け下りた時には、すでにプルートは森の中に踏み込んでいる。

「闘志満々ですね!」

「え、あれ?」

 ザザザァ

 飛び込んだばかりのプルートが飛び出してきた。

「二人とも離れろ! Kスケルトンだ!」

 ザザ!

 三人が跳び退るのとモンスターが飛び出してくるのが同時だった。

「スケルトンは居ないんじゃねーのか!?」

「よく見て、あれは……」

「Kオオカミがスケルトン化したものだ。アルテミス、距離をとって矢を射かけろ!」

「おお!」

「て、こっちに向かって来ます!」

「儂が引き付ける、ベロナは防御にまわれ!」

「はい!」

 パシ!

 瞬間凍結したような音がすると、アルテミスを庇うベロナの前に半球状の防御結界が現れた。

 シュシュシュシュシュ!

 アルテミスが一瞬で五本の矢を射かける。

 パッシャーーン!

 あやたず五本の矢が付き立って、スケルトンオオカミは粉々になって飛び散った。

「やったあ!」「やりましたあ!」

 初手柄に舞い上がる二人だったが、プルートの表情は険しかった。

「Kスケルトン如きに五本は多すぎる、見ろ、粉々になって、少し被ってしまったぞ」

「あ、ごめん」

「ベロナの防御も優雅すぎる」

「え、優雅じゃいけないんでしょうか?」

「半球状のバリアはきれいだが、不慣れだと脆い。K級のモンスターだからいいが、上級のモンスターなら卵の殻のようにぶち破られる。当分は亀甲バリアでいけ」

「は、はい」

「さあ、次はKスライムだ」

「おお!」「はい!」

 その後は次の森でKスライムを簡単にやっつけた三人だったが、やはり初めてのことで爆砕したスライムを浴びてしまってベトベトになってしまう三人だった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)139・笑ってごまかすなあ!

2024-09-02 08:26:48 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
139・笑ってごまかすなあ! 小山内啓介 




 惣堀高校は歴史の古い学校や。

 創立は百年以上昔の大正元年。

 日露戦争こそは勝利のうちに終わってたけど、第一次大戦は、まだ三年後の事で、江戸幕府最後の将軍慶喜がまだ生きていた。

 我が大阪もゆったりしたもんで、惣堀に府立中学を作ることになると、隣接する船場の旦那衆の応援もあって、競馬場ができるんかというくらいの敷地が確保され、現在の府立高校でも一二を争う広さの学校になった。

 学校の敷地でもっとも面積が広いのがグラウンド。

 惣堀のグラウンドに立つと地平線が見えると近所の学校からは噂される。

 モンゴルの大草原ではないんで地平線は見えへんけど、市内で一番狭いと言われる北浜高校の優に四倍はある。

 その北浜高校の野球部が、我が惣堀高校の野球部に合同練習を申し込んできたんや。

 そのことが、野球部のエースである田淵を激おこぷんぷん丸にさせ、食堂でオレと乱闘騒ぎを起こす原因になった。

「よう分からんなあ、なんで、合同練習申し込まれると田淵の機嫌が悪なるねん?」

 とりあえず田淵に謝らせようとする川島さんを制して質問した。訳も分からずに謝られても気持ちが悪いだけや。

「えと……北浜って、校舎の建て替え工事でグラウンドが半分しか使えないのよ。うちは、府立高校でも有数の広さでしょ」

「うん…………え……あ、そうか!」

 ピンときた。

 合同練習は名目で、北浜はうちのグラウンドを使いたいだけなんや。うちなら、甲子園球場と同じスケールで練習ができる。

「小山内君も、元野球部だから分かるでしょ」

 そうなんや、中学野球じゃオレはそこそこのエースやった。肩を壊したんで辞めてしもたんやけどな。

 北浜と惣堀じゃ月とスッポン。合同練習やっても、北浜にとって惣堀は足手まといになるだけや。

「そうなんや、合同練習とは聞こえはええけど、オレらは北浜の球拾いになってしまうんや。あいつらも、それ知ってて言うてきとるんや!」

「田淵、おまえが食堂の列に割り込んできたのは間違うてるけど、おまえがムカつく理由は分かるぞ」

「それでね、北浜の監督と相談したのよ」

 川島さんの可愛らしいω口が微妙にゆがんだ。この人は単に可愛らしいだけのマスコットマネージャーとは違うみたいや。

「京橋高校が、うちと似た規模じゃない?」

 ああ、たしかに京橋も惣堀の八割くらいの広さがある。

「あそこなら、京阪電車で駅三つだし」

 確かに、地下鉄乗り換えでうちに来るよりは近い。

「それでね、せっかく名門北浜と合同練習できるなら、第一に、より近い学校であること。第二に、合同練習して、いちばん利益のある学校だと提案したの」

「え? 近いはともかく、利益があるとは?」

「北浜と合同練習やって、より利益がある方」

「利益……よう分からへん?」

「つまり、京橋と惣堀で試合をして負けた方が合同練習するってことにしたのよ。言っちゃなんだけど、下手な方が伸びしろが大きいでしょ?」

「あ……うん、せやけど、球拾いに伸びしろもないやろ。あ、すまん、気に障ったらかんにんな」

 田淵の顔が赤くなるので、ちょっとフォロー。

「いや、小山内の言う通りや(-_-;)」

「まあ、うちで引き受けたくないから。ま、苦肉の策なのよ」

「まあ、ほんなら京橋との試合次第やねんなあ」

「うん、そう。そこで、小山内君にピンチヒッターに立ってもらいたいわけなのよ」

「あ、そう……って、なんやねん、それは( ゚Д゚)!?」

「「アハハハ」」

 あ、ちょ、笑ってごまかすなあ!



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・124『今日から二学期!』

2024-09-01 10:35:34 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
124『今日から二学期!』   




 シャッコウって読むんだよ。


 いつも教えられてばかりのロコに教えてやるのは、ちょっぴり気持ちいい。

 始業式の今朝。いつものようにロコといっしょになって商店街を抜けて学校に向かっている。
 和菓子屋さんの表に今月のカレンダーが貼ってあって、九月一日のところに赤口とある。

 あかぐち?

 情報通のロコでも、さすがにスカタンを言うので正してやる。

「グッチ、物知りですねえ!」

「結婚式場で写真のバイトやってるからねえ、こういうのだけは詳しい」

「仏滅とか友引は知ってましたけど、赤口は知らなかったです(^_^;)」

「赤口神っていうのが居てね、そいつが悪さをする日で仏滅と並んで敬遠されるんだよ」

「なるほどぉ、シャッコウシン……」

 さっそくメモ帳を出してメモる親友。「で、どんな神さまなんですか!?」と聞かれて「あ、縁起悪いしか知らないんだけどねぇ(^○^;)」と白状して、始業式の朝が始まった。


 ヨントーゴラク!


 始業式の冒頭、赤口の効き目なのか、校長先生の話が長い。

 そもそも始業式が屋外のグラウンド。

 なんの我慢会!?

 話の中で、ヨントーゴラクが四当五落だと分かってくる。受験を控えた三年生への励ましというか激励なんだと分かる。

 一日に5時間も寝る奴は落ちる! 睡眠時間は4時間にして頑張れ!

 という意味なんだ。

 進学校としては、ひいき目に見ても一流半の宮之森。東京帝国大学を優秀な成績で卒業した。でも、大蔵省とか一流企業とかには行かずに一介の田舎高校の校長に甘んじている校長先生としては忸怩たるものがあるんだろうね。

 後の話しは上の空で、続く若杉先生(生活指導)倉田先生(生徒会)と保健部の(名前忘れた)先生の話は完全にぶっとんで、ようやく解放される。

 みんなが真っ直ぐに向かうのは校内に10台ほど備えられているウォータークーラー。足元のペダルを踏むと「グアァアアア」とポンコツな音がして放物線を描いた冷水が飛び出す。
 ミネラルウォーターとかじゃなくて、ただ水道水を冷やしただけなんだけどね。昭和のこの時代、ペットボトルも無いし、家から水筒ぶら下げてくる習慣も無い。
 10台のウォータークーラーからあぶれた者は、水道の蛇口をひっくり返して、そのまま飲んでいる。

「おお、新学期の水道は血の味がするぜぇ」

 10円男の加藤高明がドラキュラみたいなことを言って、したたる顎の水を拭っている。いっしょにいるのは三年の男子たち。留年して足かけ二年なのに、まだ引きずってんのかなあ。

 ちょ、なに気にしてるんだ(-△-;)?

 あいつとは運命の転がり方次第では身内になる可能性もある(072『大晦日の奇跡』とかね)。むろん不本意だから、あまり意識しないようにしよう。意識しなければ未来は変わるんだからね。

 ウォータークーラーで喉を潤して振り返ると、たみ子と満智子が並んでる。

「いやあ、銀座以来だねえ」

「あ、元気してた二人ともぉ!」

「元気元気ぃ!」

 サッサと水を飲んで真知子が抱き付いてくる。

「あ、ごめん、暑かったよね(^_^;)」

「ううん、どうしてたのよ二人ともぉ!」

「あ、うしろつかえてるよ」

「あ、ごめんなさい」

 ウォータークーラーの列を離れて教室へ向かう。

 ゾロゾロと教室への階段に向かう。

 ひしめく同級生たちからは、洗濯したての制服の匂いがして、わたしの二学期が始まった!

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
   
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)138・野球部マネージャーの川島さん

2024-09-01 06:59:47 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
138・野球部マネージャーの川島さん 小山内啓介 





 一時間絞られた上に反省文を書かされて、やっと「帰っていい」と許可が出た。


「ジャンケンしろ」

 え、なんで?

 田淵も同じ表情をしてる。生指部長の大久保先生が『そんなこともわからんのか?』という顔をして付け加える。

「一緒に出たら、またケンカするかもしれんだろうが」

「「あ、ああ」」

 声が揃って、それじゃと向き合う。

「「最初はグー! ジャンケンホイ!」」

 出したのは互いにパー。

「「あいこで、しょ」」

 今度はチョキ同士。

「「あいこで、しょ!」」

 今度はグー同士。

「「あいこで、しょっ!」」

 今度もグー同士。

「おまえら、ほんとは仲良し同士なんとちゃうんか?」

「「それはない!」」

 そのあと、二回やってやっとケリが付いた。

 田淵が先に出て、一分後にタコ部屋を出ることを許される。

 出て驚いた。帰り支度をした生徒たちがゾロゾロ降りてくるのだ。

 おいおい、まだ五時間目が終わったとこやろーが……あ、そうか、PTA総会があるとかで、六時間目はカットやった。

 教室経由で部室に行こうと思ったが、昼飯がまだや。回れ右をして学食に向かう。売れ残りのパンかうどんでも食って部室に行こう。

 ご飯系は売り切れなんでラーメンの大盛りをトレーに載せて奥の席に着く。

 箸立てに手を伸ばすと、放課後の悲しさ、割り箸が一つもあれへん。

 ンガー

 怪獣みたいな唸り声をあげて配膳カウンターまで割り箸を取りに行く。

「はい、割り箸」

 おばちゃんがニッコリ笑って割り箸をくれる。愛想のええおばちゃんや。

 なぜか、おばちゃんの視線を感じながら席に戻る……え、向かいに美人の女子が座ってるやないか。

 あ、評判の野球部マネージャー、三年の川島さんや。

 目が合うと、川島さんは招き猫のような仕草をして、前に座れと微笑みを返してくる。

 言われなくても座る、そこにはオレの大盛りラーメンがあるんやからな……て、川島さんの前にも大盛りラーメンがアンパン付きで置いてある。他のテーブルから調達したのか、ちゃんと割り箸も添えてある。

「さっきは、うちの田淵君が迷惑かけたわね、ごめんなさい」

 姫カットの前髪をハラリとさせて頭を下げる。

「え、あ、いや……」

 演劇部で女子の免疫はできているはずやのに、いきなりのことにおたついてしまう。

「あ、やっぱ、野球部はマネージャーでもしっかり食べるんですね(*´ω`*)」

「え? やだ、わたしじゃないわよ。田淵君、こっち!」

 田淵も――ひっかけられた!――という顔をして観葉植物の横に立っていた。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 

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