大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)150・タナカさんのお婆ちゃん

2024-09-13 09:20:10 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
150・タナカさんのお婆ちゃん ミリー 



 そのあと、ミチコさんが「ママ、ミリーがもどってきたわよ」と手をさすりながら呼びかけていると、意識が戻って、少しだけならとお婆ちゃんのベッドの横に座った。

「……あれぇ、ミリーやんか。冬休みにはまだ間があるやろぉ?」

 頭はしっかりしている、わたしのことも、今の季節のことも分かってるみたい。

「あ、うん、ええとね……」

「そうか、だれかがミリーに教えたんやねぇ」

「え、あ、まあ……」

「いやあ、しばらく見んうちに女らしなってからに……嫁に来たころのソフィー(わたしのお母さん)にソックリや」

「え、あはは、そうかなあ(^_^;)」

「うん、そうやって恥ずかしがったら、眉毛が垂れるとこなんか、そのまんまや。怒ったら、逆に閻魔さんみたいに逆さになるんや、ようクラークがおちょくとった」

「うん、さっきリビングで会った。いっちょまえに司祭服とか着てて、笑えたわぁ」

「フフフ、クラークなあ、彼女がでけたんやで」

「え、ほんまぁ!?」

「うん、いっこ年上やけどなあハイスクールの同級生やったんや」

「へえ、姉さん女房なんや……て、ちょっと気が早いか」

「ううん、一回だけカノジョ連れてきよったけど、感じのええ子やった。ミチコも気に入って、カレッジ出たらうちの会社に入れよて言うてる」

「うんうん、ミチコさんも、ますます元気そうで」

「うん、ミチコは父親似やねんけど、うちに似たんか、あんまり太らへん体質でなあ、おかげでゴードンミルズ(お婆ちゃんの会社)の小麦粉で作ったパンやらケーキは食べても太らへんいう評判なんや。お金のかからん広告塔や」

「フフ、そうなんや」

「……懐かしいなあ、あんたの大阪弁」

「あはは、ついさっきまでは英語に戻ってしもてたんやけどね」

「……ミリーの花嫁姿見たかったわあ」

「ええ、まだ十七やでぇ、あたし」

「だれか、ええ人はおらんのんかいな」

「え、あ、それは……」

「友だちは居てんのんか?」

「あ、それはもちろん!」

 スマホを出して、下宿先の渡辺さんの家族、演劇部のみんなや学校の仲間の写真を見せてあげる。

「あ……このニイチャンええなあ」

「え、あ……」

 ええも悪いも無い、写真に写ってる男は、文化祭の時の以外は写ってるのは啓介ひとり。

「うちの演劇部、男子は一人だけやしなあ。けど、そんなええとこあるぅ?」

「パソコン前にして、なんや真剣に仕事してて、できる男いう感じやんか」

「あ、こいつがやっとおるのはエロゲ!」

「エロゲ?」

「あ、スケベエなゲーム」

「あはは、男はスケベエなくらいがええねん。男がみんな聖人君主みたいになってしもたら、人類は滅亡するでぇ……いやぁ……ほたえてる(ふざけてる)写真もあるやんかぁ……青春やなあ……この子の名前は?」

「あ、啓介。小山内啓介」

「小山内言うたら、小山内薫といっしょやなあ」

「オサナイカオル?」

「築地小劇場や、日本の新劇の父と言われた人や」

「え、そうなん?」

「名前は啓介……啓介は漫才師でおったなあ」

「プ、漫才師か」

「漫才バカにしたらあかんでえ、英語ではスタンダップコメディー云うて、高等な芸術やでえ」

「いやいや、バカになんかしてへんよ。啓介もそういうギャップがあって面白いところはあるんやけどね」

「あ、いつかミリーの髪の毛『冷やし中華』言うてたのん……」

「そう、この啓介なんやけどもね……」

 それから、千歳の奮闘ぶりに感心し、須磨先輩はこれまた往年の新劇大女優と同じと同じ名前で、これで演劇をしないのはもったいないと面白がられ、ミッキーのことでも、意外なほど大きな声でケラケラ笑ったり。

 ひょっとしたら、お婆ちゃんは、わたしを呼ぶためにひと芝居うったんちゃうかいうくらい元気やった。


 けども、明くる朝、ミチコさんに手を握られ、みんなに見守られながら、お婆ちゃんは神に召されていってしまいました。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)





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REオフステージ(惣堀高校演劇部)149・シカゴに戻った

2024-09-12 09:56:01 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
149・シカゴに戻った ミリー 



 

 助手席から見える風景に気持ちが萎えた。

 伯父さんが運転する車は、子どもの頃と同じなんだけども……速い。速い割には時間がかかっている。

「……道が違うようだけど」

「ああ、ワシントンパーク周辺を避けてるからね」

「あ、そうなんだ……」

 シカゴは急速に治安が悪くなっている。その速度はSNSとかで知っていた状況を超えている。

「民主党大会のころは最悪だった」

「そうなんだ……」

 去年、来日した時の伯父さん(031・マシュー・オーエンとは別人のように表情が固い。

「実はテキサスに引っ越そうと思ってるんだ」

「テキサス……」

「マイクも同じ」

「お父さんも?」

「ああ……」

 去年行ったサンフランシスコよりも状況は悪いみたい。

 その後は、家に着くまで、わたしも伯父さんも無言だった。


「なんだ、思ったより元気そうじゃない!」


 そう言うつもりだった。

 でも、自分の親よりも先に会いに行った田中さんのお婆ちゃんは、様態が悪かった。

「お婆ちゃん……」

 呼びかけてみたんだけど、酸素マスクのシューシューいう音だけしか返ってこない。

「でも、少し血色がよくなってきたみたいよ」

 懐かしい声がしたかと思うと、ミチコさんだ。

 ミチコさんはおばあちゃんの一人娘。東京タワーができた年に生まれた。

 父親似で、見かけはほとんどアメリカ人なんだけど、まだわたしが子どもだったころとちっとも変わらないのは、お婆ちゃんの血なのかもしれない。

 気が付くと、お母さんもそばに居て――こっち来て――と目配せした。

「ごめん、お母さん。まっすぐこっちに来てしまって」

「いいのよ、さあ、リビングへ」

 お婆ちゃんの家はリビングが広い。

 近所づきあいを大事にしたお婆ちゃんは、ミチコさんが生まれた年に増改築してリビングを広くしたんだ。

 ダグ(お婆ちゃんの旦那)は朝鮮戦争の時に日本にやって来てお婆ちゃんと知り合い、双方の反対を押し切って、戦後にシカゴにお婆ちゃんを連れて帰った。

 ダグが亡くなったあとも、お婆ちゃんは家業の製粉会社と、この家を守って、わたしが生まれたころには、この町では大文字のグランマと言えばお婆ちゃんのことだった。お婆ちゃんは芳子という日本名で呼ばれるよりも、帰化した時に付けた洗礼名と同じアグネスという名前を大事にしていた。

「おお、ミリー!」「お帰りミリー」「よく帰ってきたね」「待ってたわアグネスの孫娘」「夢みたい!」「間に合ったんだミリー!」

 懐かしい声がリビングに入るなり、わたしに浴びせられた。

「あ、ごめんなさい、わたし、お婆ちゃんの部屋に真っ直ぐ行ったもんだから(^_^;)」

「わたしたちもそうだよ。みんな、真っ直ぐグランマの顔を見て、ここに集まってるんだよ」
「やあ、久しぶりぃ」
「さあ、ここに座って」
「いま、お茶を淹れるわね」

 矢継ぎ早に掛けられる挨拶や言葉はとても懐かしい。

 でもね、この明るさは、お婆ちゃんが重篤だっていうことの証明でもあるんだ。みんな、ここで帰ったら、その間にお婆ちゃんが神に召されるんじゃないかと立ち去れないんだ。

 小さいころに、司祭さんが重篤になった時も、司祭館に見舞いに行った人たちは帰ろうとしなかった。

「あの時、祖父さんは息を吹き返したしね(^_^;)」

 わたしの気持ちを代弁するように言うのは、司祭さんの孫のクラーク。三つ年上なだけなんだけども、イッチョマエに司祭服を着ている。

 淹れてもらったお茶を飲みながら気が付いた。

 シカゴに着いてからの自問自答というかモノローグが英語に戻っている。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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馬鹿に付ける薬 014・野営の準備

2024-09-11 13:17:10 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

014:野営の準備 




「ここらで野営にしよう」

 
 峠まで差し掛かったところでプルートが立ち止まった。

「あの木陰がいい。前のパーティーが使った石組が残っている」

「でも、まだ陽が高いですよ」

「そうだ、他のパーティーは峠を越えて行くみたいじゃないか」

 ベロナもアルテミスも少し不満だ。

「やつらは普通の道を行く、もう二時間も歩けばアケメネスの村だからな」

「だったらアケメネスの村まで行こうじゃないか、好き好んで野営することもないだろ」

「我々は違う道を行く、ほら、向こうの森だ」

「わざわざ遠回りして森を通るのか?」

「森の中に果樹園があってな。そこでリンゴを仕入れる」

「まあ、リンゴですかぁ(^〇^)!?」

 ベロナは果物には目が無いようだ。

「果物を仕入れてどうする。足が早いし、かさばる。荷物になるぞ」

 二人のリュックとカバンは勇者のそれで相当なアイテムがしまい込めるが無限ではない、まだまだ旅の序盤、いたずらに中身を増やしたくない二人だ。

「ポーションの代わりになる。それに熟れることはあっても腐ることがない、ちょうどこれくらいのリンゴだ」

「まあ、プチトマトかブドウほどにかわいい」

「でも、そんなにいいアイテムなら、他のパーティーも行くんじゃないのか?」

「森にはいろいろモンスターや魔物が出るんでな」

「そうか、それを先に行って退治しておいてくれるってわけか!?」

「様子を見に行くだけだ。儂はガード、旅の主人公はお前たちだ。じゃあな」

「いってらっしゃーい」

 意外な身軽さで駆けていくと、先行のパーティーを追い越して森へ続く茂みの中へ消えて行った。

 石組みを整えていると、一陣の風が吹いてカロンが戻ってきた。


「オヤジ、行ってきたぞ……なんだ、居ねえのかぁ?」


「あ、カロンさん、町までお使いご苦労さまでした」

「お、おお、オヤジは?」

「向こうの森に行ったぞ、明日、森の果樹園に行く下見って言ってぞ」

「ち、そうか」

「カロンさん、これから晩ご飯の用意するんですけど、いっしょに食べて行きませんか?」

「いらね。オレ、いつも一人だから。ほれ、ギルドの登録書とドロップの代金とレシートだ」

「おう、ありがとう……って、手数料が二つあるぞ、一つは手書きだし」

「ああ、オレの分だ。5%格安だろ」

「そんな話聞いてないぞ」

「文句あんのかぁ、これはオヤジも承知の上だ」

「なんだと」

「なんだぁ、やろうってのか!」

「まあまあ、カロンさんにも事情があるんでしょ。四人も弟妹がいるっておっしゃってましたし」

「ち、なんで知ってんだ!?」

「あ、プル-トさんが……」

「クソオヤジが余計なことを……とにかく、オレは行く!」

 グゥ~~~

「ほらぁ、お腹空いてるんでしょ。すぐにできますから、どうぞ(^▽^)」

「おぉ……食ってやらねえこともねえけど、費用はそっちもちだぞ」

「はいはい」

「火おこすぞ」

「お、おお」


 火を起こし、調理になると、意外に呼吸が合って段取りよくできる三人だった。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)148・ミリーの憂鬱

2024-09-11 09:27:14 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
148・ミリーの憂鬱 ミリー 




 ああ……なんやろうねえ……どうでもいいことなんやけど。

 カチャ ガラガラガラ~

 ここのところ部室のカギを開けるのは、わたしの仕事になってる。

 いまの部室は二階の仮部室。

 部室棟が建て替えのために使えんようになって、須磨先輩が使ってるタコ部屋に移ったのが一学期の五月の終わりころ。
 ミッキーが入部して手狭になって、一時期図書室に替わったけど、喋られへんしお茶もでけへんので、本館二階の空き部屋を臨時に使わせてもらってる。

 たいていは啓介が職員室まで鍵をとりにいってるんやけど、ここのところは、わたしの仕事。

 まあ、ええねんけどね。

 ここのとこ、啓介にはカノジョができた。

 一年生の伊藤香里菜とか言うらしい。二学期も終わりに近いというのに、まだ一年生らしい初々しさを残してる、かいらしい子。

「あ、それは恋をしてるからやで(^_^;)」

 セーヤンが言う。

 どうやら、二人が付き合うについては、このセーヤンとトラヤンが後押しというか、多少のきっかけを作った……と睨んでる。

 まあ、ええけど。

 部室に入って、啓介のノーパソを開けてみる。

 カメラを指で隠してエンターキーを押すと、スリープになってるノーパソが点く。

 レイラとかアケミとかいうメイドたちが、思い思いに寛いでるというか準備中。お茶を挽いてるというほどやないけど。

 いっしゅん指をどけたろかと思う。

 指をどけてカメラが活動し始めると、この『グローバルクラブ』は営業中ということになって、カメラの前の人物に気が付いて『お帰りなさいませぇ、ご主人さまぁ♡』とゲームが再開される。で、顔認証でご主人様の啓介やないことが分かると、メイドたちはパニックになって、最悪ゲームオーバーになる。

 ノーパソをそっ閉じしてお茶の用意をしようと思うと、流しの三角コーナーが出がらしのお茶でいっぱい……。

 夏やないから、すぐに臭うということは無いけど、ゴミ箱に出がらしを捨ててゴミ袋の口を結んでゴミ捨て場に持っていく。部室はくつろぎの場やから、きちんとしとかならあかんしね。

 西側の階段を下りて校舎の外に出るとゴミ捨て場への道。西側の階段は渡り廊下の隣で、瞬間、渡り廊下を横切ることになる。

 あ

 視野の端に二つの車いす。

 そうや、このごろ千歳は車いすの男子と話してることがある。相手の車いすは織田とかいう二年生。

 千歳は真面目な子やから、ゴミ袋ぶら下げてるわたしのことに気が付いたら「すみませーん」とか言うて部室に直行しよる。

 階段までは一秒ちょっと。さり気なく歩いて階段を下りる。

 帰りは東の階段を使おう。

 
 ブン!


 ゴミをほる手に勢いがついてしまう。

 あ!

 下手をするとゴミ袋が弾けて悲惨なことになる!……ああ、なんとか無事にゴミ袋は先客の間に収まった。

 やれやれ……部室に戻ってお茶でも淹れようか、須磨先輩もそろそろ姿を現すだろうし。

 踵を返して部室に戻ろうとすると、ポケットでスマホが震える。


 着信ありをクリックして……え!?


 足が震えた。


 田中さんのお婆ちゃんが危篤!!?



 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・126『ツクツクボウシが鳴きやんで脱線する吉村先生』

2024-09-10 11:19:08 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
126『ツクツクボウシが鳴きやんで脱線する吉村先生』   





 ついさっきまで鳴いていたツクツクボウシピタリと鳴きやんだ。


 出席簿を閉じて――さあ、これから授業――という吉村先生の手が停まってしまった。

「ああ、ちょうど、こんな朝でしたなあ……」

 品のいい関西訛で先生は遠い目になって窓の外に目をやって言葉を繋いだ。

「班長が家までやってきましてなあ『吉村、このままやと脱柵になるでぇ』と言いよりました」

 ダッサク?

 聞き慣れないダッサクという言葉と班長という学校でも日常的な言葉が混ざって、教室は――なんだろそれ?――という気持ちと――これは先生のフリートーキングになって授業が無くなるという期待に溢れた。

 まだまだ残暑厳しい九月の初め、エアコンも無い教室は短縮が終わって、生徒も先生もげんなりの空気。

「脱柵とは脱走のことですなあ……僕は当時は大阪に住んでましてね、十八年に召集されましてなあ、兵隊やっとったんですけども、二十年の七月に病気になって帰郷治療になったんです。まあ、当時は陸軍病院も焼けてしもて、ロクな治療が受けられませんからね、実家が大阪市内やし、そういうことになったんですなあ。もう半月も前に戦争が終わって軍隊も無条件降伏したんで、顔出すことも無いやろと思てたんですなあ……」

 そこまで話すと、先生はポケットから煙草を出しかけ――おっと――という顔になってしまい直す。

 ふふふ あはは

 ついうっかりの先生に自然な笑いが教室に起こる。

「無条件降伏しても組織は生きてるんですねえ、原隊復帰した上で兵役解除してもらうんです。そうすると現役で復員したことになって軍人恩給ももらえるというわけです……それが、ちょうどこんなツクツクボウシの声が途絶えた日ぃでしたなあ」

「階級はなんだったんですか?」

 高峰君が質問する。

「ああ、伍長」

 そう答えて、先生は黒板にきれいな字で書いた。

「下士官の下、兵隊の上いうとこですなあ。高峰君のお父さんは軍隊行ってはったのかなあ」

「はい、海軍の主計科でした」

「主計科かぁ、数学が出来る人がいくとこやなあ」

 あ、そういや、高峰君は数学が強かったっけ。

「海軍の主計いうと、外地で補給するときに活躍する部署でね、レートの計算なんか上手かった言われてます。あ、そういや、先月アメリカが固定相場制止めて変動相場制にしましたなあ」

 え、なんかむつかしい……と思ったら、高峰君とか何人かが身を乗り出して……10円男まで伏せていた顔を上げた。

「長いこと、一ドル360円でしたけど、320円……いや、もう300円ぐらいまでいきましたかねえ」

 わたしは、こういう話は弱い。

 令和では、一ドル150円くらいだったかなあ。

 360円と150円だったら360円の方が高いと感覚的に思うし、中学まではそう思ってた。

 だけど違うんだよね(^_^;)。

 一ドルのものを買うのに360円要る昭和。一ドルのものを買うのに150円ですむ令和という違いなんだ。つまり、令和じゃ360円で一ドルのキャンディーが二個も買えてお釣りがくる。それを昭和じゃ一個しか買えないということなんだ。

「きみらは、なんで、一ドルが360円だったと思う?」

「ええと、戦後ドッジという経済顧問がやってきて、インフレを収束するときに決めたんだと思います」

「アメリカ帝国主義の陰謀!」

 高峰君と10円男が答えて、当然のことながら10円男は笑われる。

 アハハハハ((´∀`*))ウフフ( *´艸`)

「うん、高峰君のも正解やけど、加藤君も正解というか大事な感覚やと思う」

 え? 

 ちょっと空気が変わった。

「360というと……」

 先生は黒板にきれいな円を描いた。

「円の角度は?」

 あ!?

「そう、円の角度は360度。公式な記録は残ってないと思うけど、ドッジは『What does yen mean? 』と聞いたやろねえ。すると日本の役人は『yen is a circle』と答えて『A circle is 360 degrees 』とドッジは返す。で、日本人は『ナイスギャグ!』と手を叩いて決まった」

 笑い声と、微妙にムッとした空気が同じくらいに起こった。

「まあ、この通りやったかどうかは分かりませんが、そういう空気が日米の間にはあります。まあ、このギャグが通じんようになって、ドッジは悔しいかもしれませんが」

 アハハハ((´∀`*))

 先生も笑いながら辞書を引いている。

「ああ、三年前に亡くなってますなあ……生きていたら『ざまあ見ろ』ぐらいカマせたかもしれないねえ。惜しいことをしたね加藤君」

「先生、いまの英文、黒板に書いてもらえませんか」

「ああ、いいよ」

 先生はサラサラと三つの英文を書いて、もう一度発音。

 みんなも書き写して「リピートアフターミー」とも言われないのにそれぞれに繰り返している。

 
 久々に生きた授業を受けた気がした。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)147・香里菜が遅れた理由

2024-09-10 08:29:08 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
147・香里菜が遅れた理由 啓介 




「アハハ、そうやったんか(^□^)」

 かえって話しやすくなった。

 伊藤香里菜は、約束場所の屋上に来るについてツインテールを解いてロン毛にしてて時間がかかったらしい。

「鏡を見たら、なんか子どもっぽくって、先輩に会うんならロングにしようって、思ったのはいいんですけど、クセが付いてしまって。あ、朝シャンして、十分乾かさないうちにツインにしたからなんです。あ、こんなこと先輩には関係ないんですけど。それで、水で濡らしてブラシ掛けてたら、ちょっと時間がかかってしまって、遅れてしまって、すみませんでした(>▢<)!」

「いいや、それはかめへんよ、こうやって間に合ったんやから」

 我ながら優しい。これがミリーとかやったら「冷やし中華一杯の貸しやぞ」くらいの文句は言うてる。

 いや、じっさい、予想外のロン毛の姿を見ると、ツインテールよりも清楚系の美人に見える。いや、本人に自覚は無いのかもしれへんけど、この方が魅力的やと思うぞ。

「あ、あ……それで、それで、用件なんですけど」

「あ、うん」

「せ、先輩のことは、文化祭の『夕鶴』も観てました、あ、たまたまなんですけどリハーサルから見てました。文化委員で設営係りにあたってましたし、すごくリーダーシップのある人だと感心しました。こないだの野球部の件とかも、男らしい対応をされて、ヘリコプターが不時着した時も、身を挺して沢村さんを助けて、すごく立派だと感動しました!」

「あ、そうなん? あ、まあ、あれは、まあ、あの立場であそこに居たら、まあ、一応部長やしなあ」

「食堂の件も知ってるんです! て、いうか、あの時先輩の後ろに居ましたし」

「え、あ、ああ……」

 そうか、俺の後ろに並んでて田淵に横入りされてた一年の女子!

「横入りされたのはわたしたちの方なのに、先輩は毅然としてらっしゃって……」

「え、あ、いや。オレも、腹減って気ぃ短なってたしなあ(^_^;)」

「でも、あのあと野球部の窮状を知って、ピンチヒッターを引き受けられたのは立派です!」

「あ、ああ」

 ああ、尊敬のまなざしで見てくれてる。なんかワタワタしてきた。

「それに、河内長野の温泉で人命救助もされたじゃないですか!」

「ええ、それも知ってんのん!?」

「はい、あの時、先輩が人工呼吸して助けたのは、わたしのお祖母ちゃんなんです!」


「え、ええ!?」


 あ、たしか『サワちゃん』と呼ばれてた……あ……目の前の伊藤香里菜のプックリした唇と、もう忘れようとしていたサワちゃん婆さんのお湯でふやけた唇が重なって、クラっとしてしもた……。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)146・どれが伊藤香里菜や?

2024-09-09 09:11:58 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
146・どれが伊藤香里菜や? 啓介 




 ええ……どれが伊藤香里菜や?


 放課後の屋上に来てみると、十人ちょっとの先客がおって、その全てが女子!

 ベンチに腰掛けてスマホをいじってるやつ、本を読んでるやつ……なにやら楽し気に喋ってるやつ……ボーっと金網の外の景色を眺めてるやつ……昼に食べ損ねたんか弁当を食べてるやつ……友だち同士で喋ってるやつ……いろいろ。

 たまたまなんか、そういう傾向なんか、完全に女子の憩いの場。

 ああ、思い出した。

 まだ演劇部に入部したての頃、三年の先輩らと発声練習をしにきたことがある。あの時は吹部も練習しとって男子が二人ほどおったけど、いまは、その吹部もおらへん。気象天文部というのもあって、あそこも活動場所は屋上のはずやけど、マイナーなクラブやから潰れてるんかもしれへん。

 とにかく、今の屋上は全員女子。

 そして、そのうちの五人がツインテール。

 一人は友だちと喋っとおるさかい、除外して、残りの四人のうちの一人。

 セーヤンが写真見せてくれてたから見当はつくと思たんやけど、ピンボケやったし、これは分からへん。

 おーい、伊藤香里菜!……叫ぶわけにもいかへん。

 ジロジロ見てるわけにもいかへんので、金網の外に目を向けると本館前の時計塔が約束の時間を5分超えてるのを示してる。

 あ……ひょっとして担がれた?

 いまごろ、友だちらとスマホをズームにして「アホが、その気になって待っとおる(*`艸´)」と笑っとおるのかもしれへん。なんせ、この本館の屋上は北館からも南館からもお見通しや。

 あ……なんか、キョドってるねんやろなあ、チラチラこっちを見てる奴もおる。

 時計塔を見ると、もう十分以上も経ってしもてる。

 これはいったん戻るか。一階降りた階段のとこで待っててもいっしょやろし。

 そう思って、回れ右すると足早に階段室の方に向かった。

 ドシン! キャ! ウワ!

 開け放たれた扉から出ようとしたら、思い切りぶつかってしもた!

 後ろ手ついて倒れてるのはロン毛の女生徒。

「ご、ごめん!」

「こ、こっちこそ……あ、ああ、小山内先輩!」

「え、ええ?」

「遅れてすみません、伊藤香里菜です(#>д<#) !」

 ロン毛がワタワタと顔を真っ赤にする。

 は……?

 すぐには分かれへんかった。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘

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銀河太平記・246『ボートは西を目指して』

2024-09-08 12:01:56 | 小説4
・246

『ボートは西を目指して』 メグミ




 世界中のプライベートボートの最高峰は孫大人の筋斗雲。第二が劉宏大統領のオイド。その第二のオイドと遜色が無いのがマイさん(実は児玉元帥)のボート。マイさんのボートもオイドを原型にさまざまな改良が成されて別物と言っていいものなんだけど、マイさんは単に『ボート』とか『うちのボート』としか呼ばない。

 そのボートに乗ってモンゴル平原を目指している。

 ロシアが南に下ってきている。

 ロシアは最初マンチュリアに下りてきて沿海州から鴨緑江辺りを切り取るつもりだった。半ば観測のつもりで撃った弾道ミサイルが全弾撃ち落とされ、防備が硬いことを知ってモンゴルに目標を切り替えた。

 最終目標は極東において不凍港を獲得し太平洋から世界に進出しようと言う、数百年前の帝政ロシア時代からの夢だ。

 この宇宙時代に不凍港もないのだけど、民族的、あるいは国家的生理というのは動かしがたい、あるいは度しがたいもののようだ。

 中国は漢明という核を広げようか、あるいは核のまま充実を図ろうか迷っている。

 中国は大帝国になると80年、長くとも100年で衰退と分裂の時代に入る。今の中国は漢明という国号の通り、ほぼ漢民族だけで結束した国。劉宏大統領は心の奥では漢明のまま国力の充実を図ろうとしている。その方が強く安定した国家になることを理解しているんだ。

 いかつい将軍の姿を捨てて王春華の可憐なボディーにPIしたのは、不慮の事故のためだと言われているが、わたしもマイさんも大統領の深慮遠謀だと思っている。
 しかし、いかに劉宏大統領が可憐な姿になって中華の充実と世界の平和を願っても、漢明十億の本能を制御することは難しい。偉大な軍人であり政治家である彼は戦いながらも、絶えず現状での落としどころを探っているはずだ。

 だからこそ、マイさんはシマイルカンパニーのオイドを駆って西太平洋を超えてモンゴル平原を目指している。
 今次のモンゴル事変の成り行きと、劉宏大統領の目の色、心の在りかを確かめるために。そして、事変規模の紛争を戦争に拡大させないために。

「それに、どうやら孫大人もしゃしゃり出てきているようだしね」

「え、あ、そうですね(^△^;)」

 心の中で思いを巡らせていただけなのに、しっかり読まれて、まるで会話していたかのように言葉が返ってくる。マイさんも油断がならない(^_^;)。

「向こうに着いたら戦うことになるんだろ、西之島戦争からこっち、実戦やってねえから、体が疼いちまってよ~」

「アハハ、しょうがない奴だなあ、ハナは」

「あ、いや、あくまで自衛のためしかしねえし」

「メグさん、ちょっと鏡見せてやってよ」

「はい」

「あ、いらねえって! あ、止めてよオートミラーは!」

 首を動かしても目をつぶっても見えてしまうオートミラーを強制モードにしてやる。

「あ、アハハハ……可愛くし過ぎなんだよメグさんはぁ(''='')」

「長いことほったらかしにしといたし、年が明ければ18なんだし。日本の法律だと、もう成年だぞ」

「わ、分かってるよぉ(n*´△`*n)」

「あ、またフーちゃんの放送が始まるわよ」

 マイさんが目の前をワイプするとフロントガラスの前に仮想モニターが現れた。

『ニーメンハオ漢明軍のみなさん。こんにちは世界のみなさん。胡盛媛がお送りします『KMミリタリー』の臨時ニュースです。昨日から散発的にロシア軍とモンゴル騎兵部隊との戦闘が続いていますが、今朝、未明から大きな動きがありました。青銅の騎士たちに包囲され身動きが取れなかったリムジンとドライジンの部隊ですが、未明にテムジンがわずか十数騎を引き連れて奇襲攻撃を加え、騎兵一個中隊と青銅の騎士二体を撃破しました。青銅の騎士は、それぞれ首と右腕を失いましたが完全な破壊には至っていない模様です。破壊には至っておりませんが、ロシア側は大事をとって部隊を数キロ下げた模様です。テムジンの部隊には10名ほどの戦死者が出た模様で、ただいまは、戦死者の回収と負傷者の治療にあたっているようです。軍事用語では戦場整理と申しますが、これは、おそらく数時間で終了になり、午後には再び戦端が開かれる見込み……え、あ、部長から、我々も前線に出るようにと命令を受けました、え、あ、ちょ、部長……』

『オホン、ロシア軍は思いのほか慎重、最前線での実況も可能なようなので、乾坤一擲のレポートをお送りしたいと思います(^▽^)』

「なんだか、いろいろ面白いことになりそうね」

 水平線の向こうに八重山諸島が見え始め、オイドは進路を北に向けて沿海州を目指した。
 

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)145・セーヤンとトラヤン

2024-09-08 09:13:26 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
145・セーヤンとトラヤン 啓介 




 手紙には『突然の手紙でもうしわけありません、放課後屋上でお待ちしています。一年一組伊藤香里菜』とあった。

 惣堀には三つの校舎があって、生徒が自由に使えるのは本館の屋上や。南館と北館に挟まれて死角が無いので昼休みと放課後に解放されてる憩いの場所。

――ええ、どうしょうか……――

 これがラインとか、手紙であってもパソコンとかで打ち出した手紙やったら無視したかもしれへん。

 せやけど、レターセットの淡い桃色の便せん。そこに、けして上手い字やないけど、短くもていねいに書かれた言葉と文字。

 それに、右端の方が微妙によれてる。これは、時間をかけたんで、手の汗でちょっとだけ便せんがふやけた痕と思われた。

 つまり、一生懸命勇気を出して書いた手紙やろと推測されて、無視はでけへんという結論に達しかけた。

セーヤン:「こんな子ぉや」

 セーヤンとトラヤンが前に立ってスマホを突き出す。

 スマホには廊下を歩いてくるツインテールの女子が映ってる。慌てて撮ったんやろ、手前の男子の肩に焦点が合って、ちょっとピントが甘い。

啓介:「お、おまえら!?」

トラヤン:「友だちの一大事や、休み時間に調べといた」

セーヤン:「啓介、休み時間のたんびに手紙広げて考えてんねんもんなあ。これは親友として放ってはおけんやろ……と、トラヤンと意見が一致した」

トラヤン:「わいは、千歳ちゃんやと思うねんけどな」

啓介:「ち、千歳は……」

セーヤン:「オレは、見極めならあかんと思うぞ」

啓介:「見極める?」

トラヤン:「自分の気持ちやがな!」

セーヤン:「啓介、おまえは自覚ないかもしれんけど、おまえを意識してる女子はけっこう居てるねんぞ」

トラヤン:「うらやましい」

啓介:「そんなん無いて(^_^;)」

セーヤン:「いや、オレもトラヤンも小学校からの付き合いや」

トラヤン:「よう分かってる」

セーヤン:「けして興味本位とちゃうんや」

トラヤン:「せや、啓介が野球止めた時、もったいないなあて思たけど、こないだのピンチヒッター見ても思た」

セーヤン:「啓介は野球でもじゅうぶんやれるやつやった」

トラヤン:「おまえは、わいらよりも才能とチャンスに恵まれとる。ただ、サバサバしすぎて、身の回りのことに無頓着というか未練なさすぎ」

トラヤン:「なさすぎ」

セーヤン:「会うだけ会って、もうちょっと深いとこで決めたらええと思うぞ」

 けっきょくは、俺の心の揺れをトレースしただけみたいやけど、それも友だちやからこそのお節介やと思う。

 
「すまん、部活いくのん遅れるかもしれへん。カギ渡しとくわ」


 昼休みにミリーに鍵を渡す。

「あ、そ」

 めちゃくちゃ愛想ないミリーやった。

  

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
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馬鹿に付ける薬 013・カロン

2024-09-07 12:19:57 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

013:カロン 




「さあ、一度町に戻らなきゃですね」

 ベロナが、ギュっとこぶしを握る。

「それには及ばん、代理でいい」

「「代理?」」

 ピュ

 プルートが口笛を吹くと、ショートヘアの小柄な少女が降ってわいたように現れた。

「なにぃ?」

「始まりの町に行って、手続きをしてきてくれ」

「ええぇ(‎ ‎¯ࡇ¯ ) 」

 すごくメンドクサソウな顔をして、赤いショートヘアの頭をゴシゴシ掻く。

「儂らは先に行ってる、ほら、記録とドロップを渡しておく」

「おお」

 ショートヘアが腰のタガーを少しだけ抜くと、プルートのソードの束から小さな三つの光の玉が出てきてタガーに移される。

 パチン

 タガーを鞘に納めると、もう回れ右をするショートヘア。

「挨拶ぐらいしていけ」

「それには及ばん」

 プルートそっくりな捨て台詞を残してショートヘアは消えてしまった。

「なんだ、あいつ(`へ´)」

 アルテミスは機嫌が悪い。

「儂の衛星のカロンだ」

「ちょっとアルテミスに似てましたね」

「ちょ、あそこまで不愛想じゃないぞ(‎ ‎`▢’ ) 」

「下に四人も妹弟がいるんでな」

「まあ、大変なんですねぇ」

「まあな……」


 おお、プルートじゃねえか!


 坂道を上がって行くと谷の上から、ちょっとバカにしたような声が降ってきた。

 見上げると先行のパーティーたちが、バカにしたような顔で見下ろしている。

 三人と四人のパーティーに、もう一つはメンバーは前衛とメイジが二人もいて充実している。どうやら、アルテミス達の戦いを高みの見物と決め込んでいたようだ。

 メイジの一人が――ごめんなさい――というような顔をしているが、残りはどうでもいいような、あるいは、ハッキリとバカにしている。

「ヒヨッコ二人連れて、修学旅行の引率かあ?」

 腹の突き出たアーチャーが皮肉を言うと、前衛の一人が身を乗り出してトドメとばかりに悪態をつく。

「大変だよなあ、惑星のライセンス取り上げられちまっ……」

 シャリーーン!

 鞘走りの音がしたかと思うと、瞬間移動をしたかのように、プルートは前衛の首筋にソードを擬している。

「めったなことを言うな……儂は今でも太陽系の第九惑星だ!」

「あ……あ……そ、そうだったな(;゚Д゚)」

「そこのメイジ、すぐに回復魔法をかけてやれ。このソードを離した途端、こいつの首から致死量の血が噴き出すからな」

「は、はい……わ、我、神の御名において、曙の力もて汝の命を繋がんとす……」

 詠唱の最後の言葉が終わると同時にプルートはソードを引き離し、前衛の首からスイッチ入れたての小便小僧ほどの血が放物線を描き、その先が地面に落ちると同時に停まった。

「少し詠唱の力が弱い、精進するんだな」

「は、はい……」

「行くぞ」

 三人は曙の谷を後にして北に向かった。



 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)144・セーヤンといっしょの朝

2024-09-07 09:23:13 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
144・セーヤンといっしょの朝 啓介 




 週に二回ぐらいセーヤンといっしょになる。

 お互い朝の地下鉄は、たいてい同じ電車に乗ってる、俺は上りでセーヤンは下り。谷六での到着時間がいっしょなんで「おう」「おっす」てな感じで声をかけて、学校までのらりくらりと歩いていく。日本の鉄道は時間が正確なんでSNSとかで外人さんがビックリしてる。せやけど、30秒以内の狂いというのはあるもんで、ドンピシャいっしょになって「おう」「おっす」になるのは週に二回ぐらいというわけなんや。

「このごろ、じぶんとこの千歳ちゃん、織田と時々喋っとおるなあ」

「え、織田と?」

「ああ、なんかエレベーター出たとこで車いす同士が引っかかって、担任の田中先生に来てもろて引き離してもらう間に仲良ぉなったいう話や」

「へえ」

「田中先生、会議の途中やったとかで忘れてしもて、三十分も引っ付いたままやったらしいでぇ。それで、織田のやつ、いろいろ話して、気まずならんようにしとったんやて」

「ああ……」

「車いす同士絡んでしもたら、こんな距離やろ」

「顔寄せんなぁ(^△^;)」

「アハハ、すまん」

 千歳は、元々は学校を辞めるために演劇部に入りよった。部活までやってがんばったけど、やっぱり惣堀は合わへんいうことにして一学期いっぱいで辞めるつもりやった。
 でも、どういうわけか演劇部が気に入って、文化祭にも出たし、今でも機嫌よう部活に来とおる。めでたいこっちゃ。

 織田は、中一の時に事故に遭うて車いすになりよったらしい。もともとルックスのええ陽気な男で、バリアフリーやら共生を売り物にしてる惣堀では、なんちゅうか成功例のサンプルみたいなやつや。

「そうや、田中先生が到着した時には、なんか、ええ雰囲気やったらしいぞ」

「そ、そうか」

「しかしなあ、車いす同士の付き合いいうのは難しいやろなあ」

「そんなことはないやろ」

「せやかて、デートするんでも大変やろ」

「あ、ああ……」

 電車でも車いすの人が乗ってるのはよう見かける。でも、それてたいがい一人、付き添いが居てることもあるけど基本一人や。
 よう分からんけども、二人が乗ったら、ちょっと迷惑思て遠慮してはるんかもなあ。

「まして結婚生活とか考えたら……」

「け。結婚(゜Д゚)!?」

「夫婦二人とも足が不自由いうのは、かなりきついやろなあ……」

「セーヤン、おまえ考えすぎ」

「あはは、せーやんなあ(ああ、そうだなあ)」

「せーやせーや」

「せやけど、啓介」

「なんや(*'へ'*)?」

「千歳ちゃん、ええ子やからなあ」

「お、おう」

「ほっといたら、とられてしまうでえ」

「なに、言うとんねん、俺はぁ!」

「俺はぁ?」

「うっさい!」

 ブン!

 カバンをぶん回すと、親友は慣れた感じで躱しやがる。

 ちょうどハイス薬局の前やったんで、掃除してるオッチャンに「アハハ、青春はええのう!」と笑われる。


 そして、学校について上履きに履き替えようとロッカーを開ける。


「え?」


 ロッカーの中には『小山内啓介先輩へ』と書かれた薄桃色の封筒が入っていた。

「お、ますます隅に置けませんなあ、御同輩!」

 相棒に冷やかされて、裏を返すと知らない女子の名前が書かれていた。

 キーンコーンカーンコーン……

 ちょうど予鈴が鳴って、相棒と二人、段飛ばしで階段を走って上がった。

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
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  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
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  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口  織田信中
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)143・織田センパイとの出会い

2024-09-06 09:40:57 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
143・織田センパイとの出会い 千歳 




 話は少しさかのぼるけど、文化祭が終わって数日のころ、こんなことがあった。

 
 ガチャン!


 エレベーターを降りてすぐ、車いすの男子と衝突してしまった。

 で、なんの拍子か、ハンドルだかブレーキだかが絡んで身動きが取れなくなってしまった。

「あ、ごめん!」「ごめんなさい!」

 お互いのお詫びも重なった。

「え……」「あ……」

 どういう絡み方をしたのか、ギシギシ動かしても離れなかった。

 ギシギシやりながら、相手が二年生の車いすの人だと分かった。

 学校には車いすの人が三人いる。学年に一人ずつ。

 あ、ミリー先輩が足のケガで乗っていたころは四人だったけどね。

 学年も違うし、共通項は車いすということだけで知り合うことも無かった。

「これは、人に来てもらわないと無理っぽいね(^_^;)」

 見ると、ちょっとイケメンのその人が言う。

「ですね」

 まあ、放課後とはいえ学校だ、すぐに誰か通りかかる……と思ったら、周囲には誰も居ない、通りかからない。

「先生に来てもらおう……」

 そう言ってイケメンさんはスマホを出して電話する。

「……はい……はい、そういうわけなんで、よろしくお願いします。すぐに来てくれるって」

「は、はい」

 アクシデントなんで仕方ないんだけど、ほんの40センチほどの距離に男の人の顔があるというのは落ち着かない。

「きみ、一年の沢村さんだろ」

「あ、はい」

「文化祭見たよ。面白かったね」

「え、あ、見てくれてたんですか!?」

「うん、新聞にも出てたしね、ネットでも動画が出てた。あ、むろん、本番も体育館で観たんだけどね」

「あ、ありがとうございます(;'∀')」

「舞台用の車いすがあるなんて初めて知ったよ、木製なんだね」

「あ、あれは室内用に作られた試作品みたいなもんで、姉が借りてきてくれて……」

「あ、そうなんだ」

 ふと見ると、その人の車いすには平手正秀と名前のシールが貼ってある。

「平手さんておっしゃるんですか?」

「え、ああ……これは車いすの名前」

「え、車いすの?」

「俺は、織田信中っていうんだ」

「織田信長!?」

「織田信中、ほれ」

 生徒手帳を出して見せてくれると『織田信中』とある。

「信長にあやかってね、でも、信長じゃ名前負けするだろうって、ちょっと短くして『信中』っていうわけ」

「フフ(* ´艸`)、あ、ごめんなさい」

「で、この平手正秀というのは信長の守り役の名前でね」

「あ、聞いたことあります。信長が無茶ばっかりするんで、切腹して諌めたってお爺さんですね」

「へえ、知ってるんだ!」

「お姉ちゃんが『信長の野望』とかやってたんで」

「ああ、そうなんだ」

 いい人なんだ。

 助けの先生がやってくるまで、気まずくならないように和ませてくれてるんだ。

『平手でござる。守り役でありながら、とんだ不調法をいたしました。申し訳もござらん、千歳殿』

 え?

「ジイは黙っておれ」

 あ、腹話術。

『いや、これはジイの不調法でござる。ここは、このシワ腹かっさばいてお詫びを』

「バカモン、車いすに腹を切られては、この信中、身動きがとれないではないか!」

『あ、いや、それもごもっとも』

「アハハハ」

「ハハハ、面白かった?」

「あ、はい。織田さんも(^○^)」

「それはよかった」


 すまん、遅くなったぁ!


 見覚えのある二年の先生がやってきて、車いすを引き離してくれる。

『では、さらばでござる』

 先生がキョトンとして、織田さんは「アハハハ」と笑って行ってしまった。

 
 それから、廊下や学食で出会ったら「やあ」とか「どうも」とか、演劇部以外で、あ、生徒会の瀬戸内さんは別にして挨拶する初めての上級生になった。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・125『エアコンはないんだけども』

2024-09-05 10:58:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
125『エアコンはないんだけども』   




 令和の学校は8月の25日ぐらいから学校が始まっている。

 冷房の効いた家の窓から、まだまだ真夏の学校に通う令和の子たちを見ているのは、ちょっと気持ちよかった。

 でもね、令和の学校にはエアコンがある!

 昭和の学校にはエアコンどころか扇風機も無い!


 ニチャ……


 これが終わったら三時間目の終りで、短縮授業期間だから学校そのものがおしまいという現国の時間。課題のプリントを書き終えて顔を上げると、いっしょに上げた腕が机に貼り付いて、不潔な音がする。

 これがパリっていう乾いた音ならそれほどじゃないんだろうけど、ニチャ……はいけない。汗と空気中の水分と机と腕の間に繁殖した細菌とかばい菌がスクラム組んでいるようで、めちゃくちゃ不潔で不快な音だ。

 机の上には腕の形に汗が付いていて、乾くと塩が吹いていたりする。

 気を付けていたけど、腕の端っこがプリントを踏んでいて、踏んだところがビチャビチャ。

 ペタペタペタ

 この人特有の軽いサンダルの音をさせて杉野先生が戻って来る。

「じゃあ、これで終わるから、後ろから集めて」

 七列ある席の後ろの子がプリントを回収して教卓に持っていく。

 ほんの十秒ほどで回収し終えると、そのまま先生は教室から出て行っておしまい。

 二時間目の数学もプリントで、ちゃんと授業があったのは一時間目の物理だけ。

「杉野が前に立ったらひんやりしてたよ」

 教卓の前に座っているたみ子が汗を拭きながら言う。

「ああ、ずっと職員室のクーラーの前に居たんだよ、先生」

「いいですよねえ先生は、教室にもクーラーを付けるべきです」

 真知子やロコからもグチが出る。

「図書室にでも行こうか」

 たみ子が下敷きをパタパタ言わせながら提案。

「そうね、お喋りはできないけど」

 フローラルな香りの扇子をヒラヒラさせて真知子が決定。

 
 本日休館


「「「「ええ……」」」」

 図書室のドアには無常の張り紙がしてあった。

「昨日も休館だった」

「短縮中は開かないんですかねえ」

 校内で唯一生徒が利用できるエアコンスペースである図書室の前、しばらくは立ち去れない四人組。


「よかったら、ウチくる?」


 振り返ると演劇部の牧内千秋さんが体操服で立っている。

「うちの部室は一階だしね、秘密兵器があるんだよ~」

 去年のクリスマス以来の部室。

 あ、正式には倉庫。

 生徒会と交渉して別に部室を獲得したんだけど、それは階段の下、ハリーポッターのねぐらみたいなとこ。それで、普段の部活はやっぱり倉庫なんだそうだ。

「ええ、なんですか、これ!?」

 ロコが発見したのは、ちょっと変わった扇風機。

 扇風機の後ろに水彩絵の具用のバケツが固定してあって、バケツの中には掃除機の狭いところ用のノズルが立ててある。

「ちょっとした発明でねぇ……」

 ヤカンの水をバケツに注いでスイッチを入れる牧内さん。

 ブィ~~~ン

 中の勢いで扇風機が首を振りはじめる。

 ……え!?

「めちゃくちゃ涼しい」「なんで?」

 たみ子と真知子が扇子と下敷きを停め、ロコが扇風機の後ろに周る。

「あ、これはスゴイです!」

 ええ? なになに?

「気化熱を利用して冷風にしてるんですよ!」

「え、あ……」

「なるほどぉ!」

「エアコンと同じ原理だ……」

「アハハ、苦肉の策なんだけどねぇ(^_^;)」

「いえいえ、立派なもんですよ!」

「そうねえ、クリスマスのかがり火といい、この扇風機といい……」

「牧内さん、天才だ!」

「へへ、そんないいもんじゃないわよ。正式な部活は短縮が終わってからだしね」

 うん、少しは分かるよ。

 牧内さんが工夫してるのは部活のためなんだ。

 わたしたちがお邪魔してるってことは、他の部員は来ないんだ。

 やっぱり短縮授業中、マイナーな部活はね、テンションやらモチベーションの維持が難しい。短縮中に部活をしてはいけないなんて決まりはない。部員が付いてこないだけなんだ。連盟の副会長まで引き受けている牧内さんだけど、自分の部活は楽じゃないんだね。

 いーちにーいちにさんし イチ!(ソーレ) ニ!(ソーレ) サン!(ソーレ)……

 開け放した窓から元気な掛け声、佳奈子が後輩たちを追い上げてランニングをやっている。

 空にはまだまだ夏の入道雲、思い出したように蝉が鳴く。

 ツクツクボーシ、ツクツクボーシ… 

 やっぱり、微妙に季節は移ろっていっているようだ。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
   
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)142・学食の自販機前にて

2024-09-05 07:20:26 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
142・学食の自販機前にて 千歳 





 昇降口を横目に殺して廊下を進むと学食に通じるスロープになる。開け放ったドアから自販機のサンプルをチラ見。よし、午後の紅茶無糖は残っている。

 スロープは健常者用の四段の階段に対し直角に付けられている。

 二段分下りたところでクニっと360度折り返して、さらに二段分下りて学食の前に着く。

 折り返しのところは生け垣のスペースと被って、学食の入り口からは死角になって見えなくなる。

 その折り返しの所で止まってしまった。

 自販機の前に啓介先輩が立ってしまったのだ。

 ちょっと気まずい。昨日のヘリコプター不時着事件で先輩にお姫様抱っこされて、その時のドキドキがまだ残ってるから。


 先輩が行ってしまうまで待とう。


 ゴトン……カチャ カチャ スタスタスタ…………

 ペットボトルを取り出す気配がして足音が遠ざかる。

 よし。

 車いすを超真地旋回(ガルパンで憶えた言葉)させて、下りの勢いのまま自販機へ。

 百円玉二個を握って……固まってしまった。

 ウソ……午後の紅茶無糖は無情の売り切れ赤ランプ。

 啓介先輩が最後の一個を買ってしまった……。

 ショック…………ついさっきまで買えると思っていた午後の紅茶無糖が売り切れてしまったこと。そして、最後の一個を買ったのが啓介先輩だったこと。

 なんだかドキドキしてきた。

 悲しいから? お目当ての午後の紅茶無糖が無くなったから? それとも?

 え……なんで涙が?

「あ、これ欲しかったのか?」

 声が降ってきたので二度ビックリ! 見上げると啓介先輩。

「え!?」

「あ、ボンヤリしてて、もう一つ買うの忘れてて……俺は、どれでもええから、ほれ、これは千歳にやるわ」

「あ、いや(#'∀'#)」

「俺は、これ……っと……」

 先輩は缶コーヒーを二つ買って「んじゃ」と顔も見ないで行ってしまった。

 
 数秒、ボーっとして気づいた……お金渡してない。


 車いすを超真地旋回させて校舎に戻る。

 先輩が向かったのは三年生のブロックだ。

 エレベーターに乗って、三年のフロアを進む。

 二つ目の教室で発見。

 声をかけようと思ったら、先輩の他にもう一人。

 え……須磨先輩。


 さっきよりもドキドキしてきた……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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やくもあやかし物語2・071『ハンター再び現れて近衛の剣を残す』

2024-09-04 14:04:16 | カントリーロード
くもやかし物語 2
071『ハンター再び現れて近衛の剣を残す』 




「時間切れで戻ったんじゃないの!?」


 マーフォーク(半魚人)とともに海になりかけていた水も消えた草原。剣を地面についてゼーゼーいうハンターに声をかける。
 
「もう一度試してみたんだ。親父が野球の監督でね、9回の裏に同点にして延長戦て感じかな(^_^;)。ソフィー先生が近衛の剣を持ってきてくれていてね――あ、使ってみたい――と思ったら、来られたというわけさ」

「あ、待ってて、すぐにあがるから!」

『ちょ、やくも!』

 御息所が急降下して来てタオルで隠してくれる。

 間一髪のところを助けてもらったんで、思わず裸のままで飛び出すところだったよ(^_^;)。

 で、服を着て出て見ると……あれ?……近衛の剣だけが残っていてハンターの姿は無かった。

「もう帰っちゃった? 9回の裏のピンチヒッターって感じだったねぇ」

『はつらつとした男だと思っていたけど、野球選手の息子だったんだ』

「監督って言っていたよ」

『か、監督は元々は選手であろうが』

「そうだね……剣、どうしよう」

『持っていくしかないだろ』

「そうね……よいしょ……ちょっと長い(^_^;)」

 腰につけてみるんだけど、地面をこすってしまう。

「肩に担ぐか……」

 忍者みたいに担いでみる。ちょっとカッコいいかもしれない。

『おお、佐々木小次郎みたいじゃ』

「ささきこじろう?」

『宮本武蔵を知っておろうが』

「あ、ああ、宮本武蔵にやっつけられる人!」

『あれは、武蔵がゴチャゴチャ言ってイラつかせるから。ほんとは、武蔵に負けないくらい強いのじゃ!』

「そ、そうか、ならいいか……でも、わたしにはミチビキ鉛筆があるよ」

『武士は二本差しと言って、大小二本の刀を持っているもんじゃ』

「そうか、ならいいや」

『ふふふ( *´艸`)』

「なによ」

『では、参るか』

「おお!」

 緩やかな坂を下っていくんだけど、マーフォーク(半魚人)があれだけの勢いで出した海は水たまりさえ残っていない。振り返るとカルデラからは春のタケノコよりも早いスピードで木が生え始めている。

「ふふ、あの半魚人、見た目にエネルギーを使いすぎなんだよね」

『ふふ、けっこう必死だったけど……まあいい、意気軒昂なのはいいことじゃ』

「見た目も実力もなかなかよ、見てなさい……」

 トォォォーーーー!

 ジャンプすると同時に旋回して、カッコよく背中の剣を抜く!

 グヌ!?

 旋回はできたけど、着地しても剣が抜けない。先っぽの方が鞘に入ったままで、うでは伸びきって突っ張らかってしまう。

『アハハ、なるほど、カッコいいのう』

「なんで、こうなるの?」

『右肩に掛けておるからじゃ』

「ええ、だってドラマとか映画とか、右肩じゃない」

『ためしに左掛けでやってみ』

「……こう?」

『それで、さっきみたいに抜いてみよ』

 トォォォーーーー! シャラン!

「抜けた!」

『さあ、参るぞ』

「お、おお」

 なんで?

『行くぞ』

「うん」

 御息所と二人、さらに先に進んだ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人
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