春日訪杜甫故郷 [下平声一先韻]
中年頗好賦詩篇,
中年 頗(スコブ)る賦(フ) 詩(シ)の篇(ヘン)を好(コノ)み,
晚歲奇縁鞏義辺。
晚歲(バンサイ)に 奇缘(キエン)有って鞏義(キョウギ)の辺。
遥路訪洞心身快,
遥路 洞を訪ね心身は快(カイ)なり,
好雨浥地草花妍。
好雨(コウウ) 地を浥(ウルオ)して草花は妍(ケン)なる。
黃鸝競唱葉陰影,
黃鸝(コウリ)は 競って唱(ウタ)う葉の陰影(カゲ)に,
同志高吟杜墓前。
同志は 高らかに吟ず 杜甫の墓前(ボゼン)に。
順利羈応詩聖導,
順利なる羈(タビ) 応(マサ)に杜詩聖(トシセイ)の導(ミチビキ)
ならん,
安能不動熱心弦。
安(イズグ)んぞ 熱き心の琴弦(キンセン) に動(フ)れ能(アタワ)
ざらんか。
註] 〇鞏義:河南省の一小都市、杜甫の故郷; 〇洞:
揺洞、山の麓に穿った洞の住宅; 〇黃鸝:コウライ
ウグイス; 〇同志:杜甫の墓前で偶々居合わせて、
共に詩を吟じることができた中国某大学杜甫研究者
のことをいう; 〇詩聖:杜甫の尊称; 〇心弦:
心の琴線。
<現代語訳>
春の季節、杜甫の故郷を訪ねる
若い頃には賦や詩の作品の書物を好んで読んでいたが、晩年になって奇しくも縁あって、杜甫の故郷 鞏義(キョウギ)の辺りを旅した。 遠路はるばる杜甫の生まれ育った住居“揺洞”を尋ね、心身ともに快く。ちょうど小雨が降って土地を潤し、草花は開き妍を競っていた。樹の葉陰では、コウライウグイスが賑やかに囀っており、杜甫の墓前では、中国の杜甫研究者と日本の詩吟同好会の方々の吟の交歓があった。これらの旅の出来事はきっと詩聖・杜甫のお導きによるものであり、誰しも熱い心の琴線に触れずには置かなかったであろう。
<簡体字およびピンイン>
春日访杜甫故乡
中年颇好赋诗篇, 晚岁奇縁巩义辺。
遥路访洞心身快, 好雨浥地草花妍。
黄鹂竞唱叶阴影, 同志高吟杜墓前。
顺利羁应诗圣导, 安能不动热心弦。
屋内に祀られた杜甫の像
<記>
2018/4/20から4泊5日の旅で、黄河の流域、洛陽、鞏義および開封を訪ねた。ハイライトは、詩聖杜甫の故郷・鞏義と洛陽の竜門石窟を訪ねたことである。
折しも、鞏義では「第一回 詩聖杜甫及び中華詩学研究国際シンポシウム」(於 成功学院大学大講堂)が開催され、その開会式典に参加する機会を得、シンポの触りの部分だけ参観させてもらった。
杜甫が少年時代を過ごしたとされる揺洞“杜甫誕生揺”および「唐杜少陵先生之墓」を訪ねた。お墓の前で偶々、我々の旅団と 杜甫研究に関わっている上海大学文学部某教授と合同で「春望」の奉納吟を行う機会を持った。松下に眠る詩聖杜甫の導きに違いない と、感じ入ることしきりであった。