秋季嵐山近景 秋の嵐山近景 [下平声一先韻]
山外紅山渡月淵、
山外(サンガイ)の紅山(コウザン) 渡月(トゲツ)の淵(フチ)、
忽隱忽現傘形船。
忽(タチマ)ち隠れて忽ち現れる傘形(サンケイ)の船。
小倉山脚森森静,
小倉山の脚(フモト)は森森(シンシン)として靜かに,
保津川面浩浩漣。
保津川の川面は 浩浩(コウコウ)として漣(サザナミ)あり。
橋上行人国際彩,
橋上の行人 国際の彩(イロドリ),
岸辺談友嗜好緣。
岸辺の談友 嗜好(シコウ)の緣(エン)。
陰陰古剎鐘声肅、
陰陰(インイン)たる古剎(コサツ) 鐘声(ショウセイ)肅(シュク)として、
浮景西傾罩野煙。
浮景(フケイ)西に傾き 野煙 罩(オオ)う。
註]〇忽隱忽現:見え隠れするさま; 〇傘形船:屋形船; 〇森森:樹木が鬱蒼と
映えるさま; 〇浩浩:水がみなぎり広がっているさま; 〇陰陰:奥深くひっそり
と静かなさま; 〇古剎:由緒ある古寺; 〇浮景:日の光、太陽; 〇罩:覆う。
<現代語訳>
秋の季節 嵐山近景
山また山、彼方の山まで一面紅葉して、ここは渡月橋のある淵、人の流れのあい間に 屋形船が見え隠れしてあり。小倉山の麓は鬱蒼と樹が茂り静寂を保っており、広々と水を湛えた保津川の川面にはさざ波がたっている。渡月橋を渡る人々は国際色豊かで、岸辺では旅同好の仲間たちの談笑する一団がある。ひっそりとした山中奥深く 古刹の鐘の音が響き、日が西に傾いて、一面が淡い野煙に覆われていく。
<簡体字表記>
秋季岚山近景
山外红山渡月渊、忽隐忽现伞形船。
小仓山脚森森静,保津川面浩浩涟。
桥上行人国际彩,岸边谈友嗜好缘。
阴阴古刹钟声肃、浮景西倾罩野烟。
<記>
保津川の左岸には、川を挟んで“嵐山”と向かい合い小倉山があり、その麓には観光客の足を留めずにはおかない多くの見どころがあります。その昔、本邦の平安貴族は嵐山を憩いの場として訪れ、舟遊びを楽しみ、また紅葉を愛でたことは多くの資料で明らかにされています。
小倉山は、保津川左岸にあり、その麓には美しい庭園を誇るお寺や遊歩が楽しめる“竹林の小径”など、四季を通じて、人の心を惹きつけて止まない多くの名所旧跡がある。右岸は“嵐山”を中心に山が連なり、一歩山中に入れば幽境の雰囲気があり、心安らぐ世界である。
渡月橋から南、桂川の下流方向に目を移すと、右岸に広がる松林の向こうには、西芳寺があり、苔寺と通称されるほどに庭園の苔は一見に値します。